第17回 四国のてっぺん酸欠マラソン大会

〜 強烈だが楽しい激坂コース 〜



2017年9月3日(日)高知県伊野町第17回四国のてっぺん酸欠マラソン大会が開催された。昨年、初めて参加した大会だ。
実は一昨年も、初参加しようと思って、やる気満々で現地まで行ったのだが、スタート直前になって風雨のため急遽中止になってしまった。風雨と言っても、5年前の徳島マラソンのような台風みたいな暴風雨ではないが、ガスで真っ白になり視界が悪かったので、仕方なかったかも知れない。ただ、現地まで行ってから中止が決まるなんて遅すぎる。中止にするのなら、もっと早めに決断して欲しかった。などと大会運営に対して大いに不満が残ったが、気を取り直して昨年、再チャレンジしたら、打って変わって快晴となり、気持ち良く初参加することができたものだ


〜 夏場の山岳マラソン 〜


最近は毎年、夏場には山岳マラソンが続いている。一昨年の夏は、7月下旬の汗見川マラソン9月の酸欠マラソン10月上旬の龍馬脱藩マラソンと、山岳マラソン3連戦という厳しい日程にしたが、酸欠マラソンが中止になったため、少し肩すかし状態となった。去年はさらに、6月上旬に北山林道駆け足大会に初出場したため7月下旬の汗見川マラソン9月の酸欠マラソン10月上旬の龍馬脱藩マラソン山岳マラソン4連戦という超厳しいスケジュールとなった。しかも龍馬脱藩マラソンは、一昨年はハーフマラソンだったが、昨年は難攻不落と言われるフルマラソンの部に出た。
そして今年も6月上旬の北山林道駆け足大会7月下旬の富士登山競走、9月の酸欠マラソン、10月上旬の龍馬脱藩マラソンと、山岳マラソン4連戦という超厳しいスケジュールが続く。例年参加している汗見川マラソンは富士登山競走とカブってしまったため今年は参加しなかったが、もちろん言うまでもなく富士登山競走の方が汗見川マラソンより最大標高差が8倍以上ある超厳しいコースだったから、今年の方が昨年よりさらに厳しい。もちろん龍馬脱藩マラソンは、昨年と同じくフルマラソンの部に出る予定だ。

(支部長)「自転車もそうやけど、ほんまに幹事長は最近、坂が好きやなあ。
       つい2週間前に自転車の乗鞍ヒルクライムに付き合わされたばかりやと言うのに」
(幹事長)「支部長やってレフコ・トライアスロンの成果が出て、最近は坂にも強くなってるやん」


自転車は、始めた頃はフラットな道を走るのが気持ち良かったけど、だんだん飽きてきて、今では坂道でないと面白くないなんて感じている。そして最近は、マラソンでもアップダウンの激しい山岳マラソンの方が面白く感じるようになってきた
なぜかと言うと、普通のフラットなマラソンコースではタイムが伸び悩み始めたからだ。以前は良いタイムが出るフラットなコースの方が好きで、どの大会に出ても、毎回、大会自己ベストを出すのを目標にしてきた。そして、実際に、時々は良いタイムが出ていたから、それが楽しかった。ところが近年、自己ベストが出なくなってきた。惜しいっていうより惨敗続きで、どう考えても自己ベストなんて出そうにない状況になってきた。何か原因に心当たりがあれば不調のせいだと見なせるし、その対応策も考えられるが、最近は、何の心当たりも無いのにタイムが伸び悩んでいる、と言うか、年々悪くなっている。

(支部長)「だから、それは不調なんじゃなくて歳のせいなんやってば」
(幹事長)「がーん!」


以前、亀ちゃんに「お前のレベルなら歳のせいじゃなくて、単なる練習不足や」なんて一喝されたように、私らのレベルだと、真面目に練習をすればまだまだタイムは良くなると信じていたんだけど、最近は、少し練習量を増やしただけで疲れが残り、どんどん調子が悪くなる。もともと大した練習量ではないのだけど、それすら増やせないのだ。これも多分、歳のせいなんだろうけど、こうなるとフラットなコースでも良いタイムを出すことはできない。
て事で、最近は、タイムは二の次で、フラットなコースよりも激坂がある山岳マラソンの方が面白くなってきた。以前から出ている汗見川マラソンなんかでは、むしろ物足りないくらいで、昨年から出ている北山林道駆け足大会なんかは、最大勾配19%なんていうトンでもない激坂を駆けめぐるレースで、とっても楽しいし、今年初めて出場した富士登山競走なんかは、標高差1480mを駆け上がる超過激なレースで、ものの見事に撃沈したが、面白くて楽しかった。そして、この酸欠マラソンも強烈な激坂が売り物だ

過去を振り返ると、そもそも我々は昔から山岳マラソンに積極的に参加してきた。古くは20年前から参加していた塩江温泉アドベンチャーマラソンだ。これは前半は延々と12kmも急坂を登り続け、後半は9kmも急坂を下り続けるという尋常ではないコース設定のマラソンだったが、多くのメンバーが毎年参加していた。12年前に塩江町が高松市に吸収合併されて、塩江山岳マラソンが廃止されてしまったのはとても残念だ。
ほかにも、塩江マラソンと双璧をなす恐怖の山岳マラソン大会である四国カルストマラソンというのもあった。開催時期が酷暑の7月で、炎天下の高原の急坂を登るという殺人レースだった。標高1500m前後の高原なので曇っていると夏でも肌寒いくらいで、空気も澄んで気持ち良いのだが、ひとたび太陽が顔を出すと空気の薄い高原のギラギラした直射日光が強烈に当たり、肌が焼けていくような灼熱地獄のレースになる。もちろん、日射しがきついだけでなく、アップダウンも凄まじい厳しいレースだったが、マラソン大会がほとんど無い夏場の貴重なレースということで、時々参加していた。この四国カルストマラソンも廃止されてしまったので、とても残念なんだけど、こちらは後継大会として龍馬脱藩マラソンができた。
この後継の龍馬脱藩マラソンには、3年前に初めて参加する予定だったが、直前になって台風のために中止になってしまった。暴風雨の中で開催された5年前の徳島マラソンのように、普通はマラソン大会は雨なんかで中止になることはないんだけど、一昨年の酸欠マラソンと言い3年前の龍馬脱藩マラソンと言い、高知県に限って言えば、風雨で中止になることは珍しくない。それだけ激しい風雨が来襲するって事だ。このため龍馬脱藩マラソンへの初参加は一昨年になったが、恐れをなしてハーフマラソンの部に出たら、意外に楽で、ちょっと肩すかしだった。そこで去年はフルマラソンの部に出たら、ものの見事に撃沈してしまった。レース直後には「もうこのマラソン大会のフルマラソンには絶対に出ないぞ」なんて思ってたんだけど、月日が経つうちにリベンジしたくなり、性懲りもなく今年もフルマラソンの部に出る予定だ。
てな訳で、もともと山岳マラソンは嫌いではなかったし、最近はますます山岳マラソンが好きになっている

山岳マラソンが開催されるのは、たいていは夏場だ。なので昨年や今年のように夏場は山岳マラソンが4連戦も続いたりする。なぜ山岳マラソンが夏場に集中しているのかと言えば、夏は暑いから、少しでも気温の低い山岳地帯でマラソン大会を開催しようという発想からだ。特に四国の夏はアホみたいに暑く、平地でマラソン大会なんか開催したら死屍累々の大惨事になる。そのため山岳地帯で開催するんだけど、じゃあ山の上なら涼しいのかと言えば、これはトンでもない勘違いで、四国では山の上でも暑いのは同じだ10年前の汗見川マラソンでは、この世のものとは思えないようなあり得ない暑さで、「四国山地の真ん中の高原で、こんなに暑いんだったら、下界は地獄のような暑さだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、その日は、汗見川マラソンが開催された高知県本山町が全国で一番暑かったという、トンでもない状況だった。昔は涼しかったのかもしれないが、少なくとも今は山の上だからと言って涼しさを期待してはいけないって事だけは確かだ。

でも、私は夏の猛暑の炎天下に走るのは嫌いじゃないから、暑くても平気だ

(支部長)「タイムは悪いけどな」

もちろん炎天下のレースはタイムは悪くなる。「平気」ってのは嫌いじゃないという意味であって、タイムは寒ければ寒いほど良い。夏場なら雨が降って肌寒いくらいが良い。でも、それじゃあ楽しくない。夏場のマラソン大会なら、やはり猛暑の炎天下のレースが楽しい。


〜 酸欠マラソンの厳しいコース 〜


酸欠マラソンは今年で17回目になるが、上にも書いたように、一昨年までは参加したことはなかった。存在すら知らなかった。存在を知ったのは、3年前だ。その年は、汗見川マラソンの申込みに油断して失敗してしまい、その代わりになる夏場のマラソン大会を探していて、酸欠マラソンを見つけたのだ。ただその時は、酸欠マラソンも油断して申し込みし損ねたので、参加できなかった。それを教訓に、最近は、新年早々、年間スケジュール表を作成して、常にそれを確認して申し込みを忘れないようにしており、そのおかげで一昨年以降は汗見川マラソンも酸欠マラソンも龍馬脱藩マラソンもエントリーに成功している。

そもそも汗見川マラソンと言い酸欠マラソンと言い、クソ暑い四国の夏場の山岳マラソンという超厳しいマイナーなレースなのに、申し込み受付開始と同時に、あっという間に即日完売するなんて、信じられない。もちろん、これは、近年の異常なマラソンブームのせいだ。猫も杓子もマラソンを始め、レースに押し寄せるようになったため、どんなマイナーなマラソン大会であってもエントリー競走が厳しくなっているのだ。
さらに、汗見川マラソンや酸欠マラソンについて言えば、どちらも定員が少ないってのも大きな要因だ。汗見川マラソンは定員が1000人と少ないため、あっという間に定員が埋まってしまうけど、酸欠マラソンはさらに少なく、ハーフマラソンの部と10kmの部を合わせて400人だ。定員400人のマラソン大会なんて全国的にも少ないだろうし、もっと増やせばいいと思うんだけど、道の狭さとか駐車場の容量とか考えると、それが限界なのだろう。

酸欠マラソンが開催されるのは高知県伊野町だが、伊野町と言っても、元々の伊野町のイメージではない。元々の伊野町は、高知市のすぐ西側にある和紙の産地で、山深い町ではない。一方、酸欠マラソンが開催されるのは、合併で伊野町に吸収される前は本川村だったところだ。しかも本川村の中でも北の端で、私らのイメージでは高知県と言うより愛媛県だ。なぜなら、コースは瓶ヶ森林道だからだ。瓶ヶ森林道は、ほぼ高知県と愛媛県の県境に沿って走る道で、正確に言えば大半は高知県側を走ってるんだけど、この道を通るのは石鎚山や瓶ヶ森などの石鎚山系の山々へ登山に行く時だから、イメージとしては愛媛県の道だ。よく地図を見ると、そもそも石鎚山系の山々も県境にあり、愛媛県の山とも高知県の山とも言えるのだけど、愛媛県側から登るのが一般的なので、なんとなく愛媛県の山というイメージがある。そのため瓶ヶ森林道も愛媛県のイメージなので、伊野町ってのは違和感があった。

酸欠マラソンは、コースのイメージとしては、かつて存在した四国カルストマラソンに似ている。四国カルストマラソンは、酸欠マラソンのコースより数十km南西にある四国カルスト高原を走るもので、酸欠マラソンと同じように愛媛県と高知県の県境の道がコースだった。どちらも県境の尾根の上の道を走るから、天気が良いと見晴らしが良くて気持ち良い。少なくとも車で走ると、それほどアップダウンがあるような感じはなく、快適な尾根の道だ。だが、しかし、それは車で走ってるから勘違いしているだけであり、自分の足で走ると、かなり強烈にアップダウンがある
四国カルストマラソンの坂も強烈だったが、酸欠マラソンもスタート地点から最高地点までの高低差が285mもある。しかもスタート直後の序盤で、3kmちょっとの間に250mも登るから、勾配は8%以上となる。8%もの勾配を3kmも登るなんて、これは強烈以外の何物でもない。

(ピッグ)「でも富士登山競走はもっと傾斜がきつかったんでしょ?」
(幹事長)「終盤は20%の傾斜が5kmも続くけど、あれはマラソンというより登山だわな」


富士登山競走は傾斜が厳しすぎて走るのは不可能で、完全な山登りになるが、この酸欠マラソンの序盤の激坂区間はかろうじて走り続ける事ができる最高地点はスタート地点から4kmほど走った瓶ヶ森登山口で、そこを超えると今度は下りが6.5km続いて折り返し点に至る。折り返した後は、当たり前だが、6.5kmの坂を登り返し、最後に4kmの急坂を下ってゴールとなる。終盤の4kmが下りになるのは嬉しいような気がするが、レース終盤で足がヘタってきた頃の急な下り坂は決して楽なものではない。つまり、最初から最後まで厳しいコースだ。

ただ、四国カルストマラソンが酷暑の7月に炎天下の高原の急坂を登るという殺人レースだったのに比べ、酸欠マラソンは開催時期が9月なので、暑さが少しはマシかもしれない。なーんて思っていたが、昨年は快晴の炎天下だったため、強烈な暑さに変わりは無かった。9月と言っても、初旬はまだまだ夏真っ盛りだ。
また、標高1100〜1300m前後だった四国カルストマラソンに対し、酸欠マラソンのコースは1400〜1700m前後で、四国の道路としては最も標高が高いから、少しは涼しいかもしれない。なーんて期待もしたが、そんなものは誤差だった。標高が100m違えば気温は0.6℃違うから、標高が300m違っても気温は2℃しか違わない。
酸欠マラソンも四国カルストマラソンと同じように、高原なので曇っていると夏でも肌寒いくらいで、空気も澄んで気持ち良いが、ひとたび太陽が顔を出すと空気の薄い高原のギラギラした直射日光が強烈に当たり、肌が焼けていくような灼熱地獄になるのだ。

(支部長)「でも、やっぱり、天気が良い方がいいな」
(幹事長)「おや?暑さに弱い支部長とは思えないお言葉!」
(支部長)「天気が良かったら景色が抜群やからなあ」


確かに支部長の言う通り、去年は天気が良かったから、本当に景色が良かった。四国の山々が見晴らせるし、なんと高知の浦戸湾が見える事もあるそうだ(私は信じていないが)。ただし、私もそうだけど、支部長だって走っている最中には景色を見る余裕は無かったと思うのだが。

(ピッグ)「標高が高いから酸素が薄いですよねえ。大会の名前も“酸欠”だし」
(幹事長)「乗鞍で酸素が薄いのを検知できたのは私だけだぞ」


乗鞍ヒルクライムは自転車で標高3000m近くまで登ったんだけど、2500m辺りから酸素が薄くなったのを感じたのは私だけで、他のメンバーは気が付いてなかった。

(支部長)「激坂で自転車を漕ぐのがあまりに大変で、酸素濃度の事まで気が回らなかったぞ」

普通に登山している場合なら、標高1700m程度で酸欠になる心配は無いが、ランニングとなれば酸素の薄さは悪影響があるだろうから、いずれにしても厳しいコースであることに間違いはない。


〜 会場へ出発 〜


今回エントリーしたのはのほか、支部長、ピッグ、D木谷さんだ。ヤイさんは数年間から肉離れが頻発し、もう肉離れ状態が普通になってしまっているが、今年は特にひどく、丸亀マラソンの後は、マラソン大会は全てキャンセルしている。12月の那覇マラソンには絶対に出たいとのことで、それまではレースは控えて完治させたいと思っているのだ。そのため、今回の酸欠マラソンも欠場だ。

去年に引き続き、今年もピッグに車を出して貰った。ピッグがD木谷さんと支部長をピックアップしたあと、私を迎えに来てくれて、5時半に出発した。なんで、そんなに早く出るのかと言えば、現地に着くまでに関門があるからだ。現地での受付時間は9時半までOKなんだけど、会場まで車で行けるのではなく、4kmほど手前の瓶ヶ森登山口にある駐車場に車を置いてシャトルバスで移動しなければならない。シャトルバスの最終は9時10分だから、それまでに駐車場に入れば良いんだけど、麓から少し登った旧寒風山トンネル出口に関所があり、マラソン大会の交通規制のため、そこを通れるのは8時20分までで、さらにその手前の新寒風山トンネル出口にある関所を通れるのは8時までとなっている。順調に行けば新寒風山トンネル出口まで2時間もかからないだろうけど、何かトラブルでもあれば遅れてしまうから、少し余裕を持つためには5時半頃には出発しないといけない。それに、一昨年は瓶ヶ森駐車場に8時過ぎに着いたら、駐車場は既に満車に近くて停めるのに苦労したから8時前には着きたい。去年の記事には、5時半に出発したら8時前に着いたと書いてあったので、今年も同じ時間に出発するのだ。5時半に出発って事は、遅くとも5時には起きないと行けないけど、高齢化が進んできたから、なんとか対応可能だ。

5時過ぎに屋外に出ると、もう明るくなり始めているが、ちょっと肌寒い。去年は猛暑の余韻が残っていて全然寒くなく、支部長なんか短パン半袖姿で出発して、ヤイさんから「小学生みたいだ」と批判された。今年も、つい先日まではキチガイみたいな猛暑が続いていたが、つい最近になって急に気温が下がり、特に朝晩は涼しくなった。おんちゃんからも「山の上は寒くなるよ」なんて忠告を前日にもらっていたこともあり、今日はTシャツの上にウィンドブレーカーを羽織って出掛けた。

(幹事長)「今日は結構、涼しくなるかもしれんなあ」
(支部長)「山の上の天候は読めないなあ」


ただ、いくら気温が低めだったとしても、天気が良ければ暑くなるのは避けられない。去年も山の上は気温は低目で日陰は涼しかったけど、天気が良くて炎天下のレースになったから、日射しが強くて大変だったので、油断はできない。まあ、それでも四国カルストマラソンや汗見川マラソンなど高原で行われる炎天下の山岳マラソンには慣れているので、暑いのは覚悟の上だ。
むしろ不安なのは天候の悪化だ。一昨年は風雨で中止になったが、その前年も決行されたものの天気は悪かったらしいし、そのさらに前年は、やはり風雨で中止になったとのことだ。この大会に毎年のように出ているおんちゃんの話によれば、「過去10回のうち、大会中止が何回かあり、それ以外もたいていは悪天候で、天気が良かったのは去年が2回目だった」とのことだ。四国山地で最も標高が高く、日本海側から瀬戸内海を越えて太平洋側まで風が通り抜けていくような地域なので、下界は天気が良くても、山の上は天気が荒れやすいのだ。去年は四国全域が快晴状況だったので、いくら山の上でも天候の悪化は無いだろうと思っていたが、今日は全般的には天気は悪くないが、雲は発生しやすい状況なので、油断はできない。
もちろん、少なくとも夏場のマラソン大会なら、雨そのものは決して嫌いではない。7年前の第33回小豆島オリーブマラソン大会で大雨の中を快走できたため、雨に対する抵抗感は払拭されたし、4年前の汗見川マラソンでも、直前に雨が降って気温が下がったため快走できたので、もう雨は恐れていない。ただし、酸欠マラソンの舞台は四国で最も標高が高い林道であり、また風が北から南へ吹き抜ける稜線なので、風雨を甘く見てはいけない。

高速道路を走り、西条インターで高速道路を降り、コンビニに寄ったりしながら順調に進む。空を見ると、基本的には晴れているが雲も多く、石鎚山方面を見ると山頂は雲がかかっている。しかし、普通なら日が昇るにつれて晴れていくだろう。西条から南に進み、新寒風山トンネルを抜けたら山道に入り、1時間ほどクネクネした急勾配の道を登っていく。
山道を20分ほど登ると、旧寒風山トンネルの出口に着く。ここから先はマラソン大会による通行制限区間となり、関所には番兵がいる。8時20分から通行止めとなるが、まだ7時半なので、マラソン大会に参加すると言えば、そのまま通してくれた。

道幅の狭いクネクネの山道は続き、いくつかある小さなトンネルは完全に1車線分しかないから、すれ違うのは不可能だが、トンネル以外でも狭くて対向車とすれ違うのは難儀する。マラソン大会参加者以外は通行止めになっているようなので、対向車の数は少ないが、一歩間違えたら脱輪して谷底まで転落しそうだ。

(幹事長)「こんな時間に山を下りてくるなんて迷惑やな。一体何をしてるんや!」
(支部長)「これこれ。私らがお客さんなんやから、地元の人には遠慮せんといかんで」


私は乗り物酔いに弱いから、こういうクネクネした急勾配の坂道は苦手だ。すぐ酔ってしまうので、思いっきりシートを倒して横になる。こうやって寝ていると酔いにくくなる。それでも、前日、もっと早く寝れば良かったんだけど、ついつい油断して夜更かししてしまい、なんとなく頭が重く、カーブの揺れが頭に響く。

(幹事長)「できるだけ優しく運転してね」
(ピッグ)「一人寝ているのに我が儘ですねえ!」


しばらく進むと、東黒森山の辺りに仮設トイレやらテーブルなんかが置いてあったので、たぶん折り返し点だろう。去年の微かな記憶を辿れば、ここまで走ってきて折り返して帰って行くはずだ。

(D木谷)「ここからがマラソンコースですか?」
(支部長)「そうだったはずですね」


D木谷さんは、一昨年は参加するつもりで一緒に来たが、直前の大会中止のために走れずに終わり、去年は直前に予定が入ってキャンセルしたから、今年が初参加なのだ。

(D木谷)「結構きつそうですねえ」
(支部長)「いやいや、まだまだこの辺りはフラットな方ですよ」
(幹事長)「疲れた足にはきつく感じますけど、もっともっと厳しくなりますよ」


今日のコースで最も坂が厳しい区間はスタートから4km地点辺りにある最高点までで、そこを過ぎた後は緩やかな下り坂が6.5kmほどダラダラ続き、その道を折り返していく。なので、今走っているのは折り返した直後の緩い上り坂だ。でも、コース図を見ると緩い上り坂なんだけど、去年、実際に走ってみると、結構、厳しい坂だった。コース図がいい加減なのか、それとも疲れた足には緩い坂も厳しく感じるのか。

(支部長)「どう見ても結構きつそうに見えるんやけどなあ」
(幹事長)「でも序盤の4kmに比べたら傾斜も緩いし、坂が続く距離も短いんよ」
(ピッグ)「それは序盤の4kmに比べたらマシっていうだけで、やっぱり厳しいのは間違いないですよ」
(D木谷)「思った以上に大変なコースですねえ」


折り返し点から少し走った所に小さなトンネルがある。つまり、行きは、小さなトンネルを抜けたら、もうすぐ折り返し点があるって事だ。これは覚えておかなければならない。
トンネルを抜けると見晴らしの良い区間になり、前方に自念子の頭と呼ばれる小山が見えてくる。この辺りが一番気持ちが良い区間だ。

(D木谷)「良い景色ですねえ。気持ちよさそうなコースですね」
(幹事長)「走ってる時は景色を楽しむ余裕はありませんけどね」


自念子の頭の辺りは、ほぼフラットな感じになるが、そこを過ぎると再びトンネルがあり、トンネルを抜けると景色が一変する。前面に瓶ヶ森の山腹が現れ、それを横切る林道がはるか上に見えるのだ。あんな所まで上っていくのかと思うと気が遠くなる。さらに遠方には、スタートとゴール地点である山荘しらさがだいぶ下の方に見える。つまり瓶ヶ森の登山口まで上った後は、一気に急勾配を下っていくのだ。

(D木谷)「なかなか過激なコースですねえ」
(幹事長)「最後が下りっていうのが救いですけどねえ」


折り返し点から6.5kmほど走ったら、ようやく瓶ヶ森登山口の駐車場に着いた。去年と同じように順調に来たつもりだったのに、去年より遅く、既に時間は8時を過ぎていた。そのせいで駐車場が満車になっていて、すぐ横の第2駐車場に停めさされた。第2駐車場はすぐ側なので、あんまり不便は無いが、停められる台数は少ない。さらに後から来た車はどこへ停めるんだろうって思ってたら、何のことはない、第1駐車場には、まだまだ詰め込める余地が十分にあったようで、そっちに案内されていた。

(幹事長)「それなら私らも第1駐車場に停めさせてくれ!」

今後も、高松を5時半には出発しないといけないな。


〜 会場到着 〜


駐車場からスタート会場の山荘しらさへ送ってくれるシャトルバスというかバンはたくさん出ていて、待たずに乗れた。ここから会場までの4kmが最も傾斜が急な厳しい坂だ

(D木谷)「これはすごい坂ですねえ。強烈ですね」

坂のきつさは車で走ってると分かりにくいものだが、この坂は車に乗っていても明らかに厳しい坂だと分かる。クネクネの急坂だから車も慎重に走り、会場の山荘しらさに着くまで結構、時間がかかった。
山荘しらさは工事中で使用禁止と書いてあったような気がしたが、受付は山荘の中だし、控え室も去年と同じように用意されていた。工事中で使えないのはトイレだけだった。

控え室は畳の部屋で、結構広い部屋がいくつもある。参加者がハーフマラソンと10kmコースを合わせても総勢425人と少ないうえ、天気が良いから屋外で着替えている人も多いため、ゆったりとくつろげる。今年も高知のおんちゃんが来ているはずだが、携帯電話を見ると電波の圏外になっているので連絡が付かない。ま、参加者が少ない大会だから、すぐに見つかるだろう。

いよいよ着替えだ。

(ピッグ)「今日はどういう悩み方をするんですか?」
(幹事長)「去年は炎天下だったから迷う余地は無かったけど、今日は微妙やなあ」


一昨年、悪天候で中止になった印象が残っていたため、去年は天気が良かったにもかかわらず普通の半袖Tシャツしか持ってこなかったら、炎天下で暑くてヒィヒィ言った。そのため今年は半袖Tシャツのほか、汗見川マラソンなんかで着ている袖の無いメッシュシャツを持ってきた。でも高松でも明らかに去年より気温が低かったが、ここも明らかに去年より気温が低く、じっとしていると肌寒い。天気は悪くないが、ずっと晴れているんじゃなくて、すぐ雲が出て曇ったりもしている

(幹事長)「どうします?」
(D木谷)「悩みますねえ。タンクトップにしようかなあ」


D木谷さんはタンクトップにするようだ。暑くて大変な事はあっても、寒くてタイムが悪くなる事はない。なので袖無しメッシュシャツにしようかとも思ったけど、タイムは悪くならなくても、やっぱり寒いのは嫌だ。

(支部長)「いくら何でも寒くなることは無いってば」
(幹事長)「でも自分は半袖Tシャツ着てるやん」
(支部長)「私は真夏でも真冬でも常に半袖Tシャツやがな」
(ピッグ)「同じく」


この二人はウェアに全く無頓着なので参考にならない。しかも二人ともタイツを履いている。

(幹事長)「いくらなんでもタイツは不要やろ?」
(支部長)「私は真夏でも真冬でも常にタイツは履くんやがな」
(ピッグ)「タイツのサポート機能を試したくて」


結局、悩んだ末に、やっぱり寒いのは嫌なので半袖Tシャツにした。Tシャツは3年前の龍馬脱藩マラソンのオレンジ色のTシャツで、今回はランニングパンツもシューズもオレンジ色で統一した。去年の秋から履いているシューズはオレンジ色で、妙に派手なので、何を着てもシューズだけが浮いて見えるから、逆にウェアをシューズに合わせてオレンジ色で統一するわけだ。
去年は持ってくるのを忘れていた日焼け止めクリームを今年は持ってきたけど、それほど日射しが強くなさそうなので塗るのは止めた。そんなに眩しくなさそうだからサングラスもかけない。日射しを避けるためのランニングキャップも不要だ。ランニングパンツのポケットにハンドタオルとティッシュだけ入れて身軽になった。

Tシャツにゼッケンと付けていると、ゼッケンに弁当引換券とキジ汁引換券が着いているのに気付いた。ゼッケンに弁当券が付いているのは珍しい。いつもならゴールした後、取りに帰るのが面倒なので引換券を持って走っているが、無くしたり汗でビチョビチョになる危険性があり、ゼッケンに付いているのは便利なシステムだ。
キジ汁は、去年は早く帰ってこないと無くなるんではないかって心配してたけど、我々がゴールした後も豊富になったから、心配は不要だ。

(ピッグ)「だからって油断して歩かないでくださいね」

ゴールしてキジ汁を飲めるってのは励みにはなる。
スタートの時間までまだまだ時間があったので、みんな完全に油断して寝っ転がってくつろぐ。早起きだったので、危うく本当に寝てしまうところだったが、気が付くと他にほとんど人がいなくなっていたので慌てて外に出る。

寝起きでイマイチ気合いが入っていないペンギンズのメンバー
(左からD木谷さん、幹事長、支部長、ピッグ)


外に出たら、さっそくおんちゃんと再開できた。

(幹事長)「今日もハーフマラソンじゃなくて10kmの部ですか?」
(おんちゃん)「参加者が少ないから入賞を狙えますからね」


おんちゃんは汗見川清流マラソンでもハーフマラソンではなく6kmの部に出て年代別部門で上位入賞するなど、最近は短い距離の部門で荒稼ぎしている。私らなんか、距離が短いと、圧倒的なスピード不足で惨敗するというのに。それからなんと、おんちゃんは今回、10回連続出場で表彰されるとのことだ。ただ、表彰式はハーフマラソンの部が終わった後なので、10kmコースが終わってから待ってないといけないらしい。

我々が世間話をしている横で、実は開会式が執り行われていた。いかなるレースでも、我々は開会式とウォーミグアップは無視し続けているんだけど、ふと重大な周知が聞こえてきた。「最近、熊の目撃情報があったので熊には気を付けてください。それとハチにも気を付けてください」なんて言ってる。ハチは気を付ける事ができるが、熊はどうやって気を付けたら良いんだろう?まさか熊よけ鈴を付けて走る訳にもいかないし。熊が出現したら慌てずに対応しろってことかもしれない。登山では、熊に遭遇したら決して慌てて背中を見せて逃げたりしないで、目を離さずにゆっくりと後ずさりするってのが基本だが、マラソン大会で走ってていきなり熊が出てきたら、絶対に走って逃げるだろうなあ

(幹事長)「大勢で走っていれば熊も出てこないだろうけど」
(支部長)「みんなから離されて足を引きずってトボトボと歩いていると危険やな」


一般のマラソン大会なら、最近は初心者ランナーが大挙して出場しているから、我々が取り残される危険性は無いが、この大会は不便な山の上の超厳しい坂を走るマニアックで過激なマラソン大会なので出場者は実力者に限られるから、我々は油断したら落伍者として取り残される危険性があるのだ。気を付けなければならない。


〜 集合 〜


スタート時間の10時が近づいてきたので、スタート地点に移動する。既に大半のランナーが集まっていたので、後ろの方に並ぶが、
ハーフマラソンの参加者数は僅か276人で、数が少ないから後ろの方からのスタートになってもハンディは少ない。て言うか、この厳しいコースで良いタイムは出るはずがないからスタート時の多少のタイムロスは誤差の範囲だ。走る道も狭いし、会場や駐車場の狭さのため、この数が限界なんだろう。

辺りを見回すと、今年も魚クンがいる。魚クンには去年、最後の急な坂の下りで追い抜かれた苦い記憶がある。それまでずっとリードしていたのに、終盤のものすごい急な下り坂で、足がもつれそうになりながらブレーキをかけながら下っていたら、猛烈な勢いで魚クンが追い抜いていったのだ。さすがに魚クンに負けたら情けないと思ったんだけど、ついて行けるスピードではなかった。今年も強敵だ。
参加者の総数も少ないけど、女性の参加者はさらに少なく、ハーフマラソンの部は女性は男性の5分の1以下で、圧倒的に少ない。最近のマラソン大会は女性の参加者が多いんだけど、この大会はコースが厳しいから少ないのだろう。逆を言えば、こんなレースに参加する女性って相当な実力者に違いないから、決して女性だからと言って油断してはいけない。もちろん男性だって、こんな厳しいレースに参加する選手の実力はレベルが高い。10kmの部は女性も結構多く、全体の1/3近くいるけど、このレースは最初の4kmの上りが厳しいコースだから、そこまではらなければならない10kmの部だって厳しい事に変わりはない。
数少ない女性陣の中に、ミリタリールックのお姉さん3人組がいた。決して若くはないんだけど、超ミニの黒いスカートとカーキ色の上着と帽子を被り、後ろ姿がとってもセクシー。要注意だ。

(支部長)「何を注意するんな?」
(幹事長)「いや、ま、その」


参加者僅か276人のマイナーなレースなのに、タイムは計測チップで計ってくれる。同じようにマイナーで過激な山岳マラソンの北山林道駆け足大会も、去年まではゴール横にいる係の人が横目で時計を睨みながら目視でタイムを計測してくれていたのに、今年から計測チップでタイムを測定するようになって驚いた。北山林道駆け足大会にしろ酸欠マラソンにしろ、こんなに坂が強烈な山岳マラソンなんて良いタイムが出るはずないから正確に計っても何の参考にもならない。ランナーが自分の時計で計測する自己申告制度でもいいくらいだ。それなのに、不思議だ。ランナーからの要望が多いんだろうか。

(ピッグ)「今日の目標タイムは決まりましたか?」
(幹事長)「もちろん大会自己ベストじゃ!」


どんなレースであれ、出場する限りは、目標は常に大会自己ベストの更新だ。マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるので、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ

(ピッグ)「大会自己ベストって言っても、出たのは去年が初めてですよ」
(幹事長)「だから去年よりはマシなタイムにしたいのよ」


去年は初参加だったから、どれくらいで走れるか見当が付かなかった。フラットなコースなら、どんなマラソン大会であっても、そんなに大きな違いはないが、極端に坂が厳しいこのマラソン大会をどれくらいのタイムで走れるのか皆目見当が付かなかったため、何の根拠も無く取りあえず2時間10分を目指したが、惨敗して2時間15分をオーバーしてしまったのだ。だから今年はリベンジして去年のタイムを上回りたい
ただし、大会自己ベストを出すのは最近、難しくなっている。フラットで良いタイムが出やすい丸亀マラソンで大会自己ベストを出したのは4年前、一番好きなタートルマラソンに至っては8年前だ。オリーブマラソンは2年前に大会自己ベストを出せたが、オリーブマラソンはそれまでの記録が悪すぎたというだけであり、その時のタイムも大して良いタイムではなかった。
なぜ大会自己ベストが出なくなったかと言うと、

(支部長)「もちろん歳のせいや。今さら自己ベストを出そうという発想そのものが大間違いや」

特に今年は、去年の年末の交通事故春の連休の山岳事故の怪我の影響で圧倒的な練習不足となり、大会自己ベストどころか、考えられないほどの惨敗が続いている

(幹事長)「これまでも大した練習量じゃなかったけど、練習しないと脚力って急激に落ちるなあ」
(支部長)「歳とったら衰えるのも早くなるんよ」


徳島マラソンでの途中リタイアも衝撃だったが、何より衝撃だったのは6月始めの北山林道駆け足大会で支部長に惨敗したことだ。その前のオリーブマラソンでも支部長には負けたけど、追い抜かれたのがフラットな区間だったので、まだ許せる。いや、許せはしないが、こっちが絶不調なんだから仕方ない。しかし、今日の酸欠マラソンと同じような超過激な坂がある山岳マラソンの北山林道駆け足大会において、しかもその超過激な上り坂区間で支部長に追い抜かれたのは衝撃だった。追い抜かれた瞬間は、一体何が起こったのか理解できなかったくらいだ。
もちろん、永遠のライバルである支部長には、丸亀マラソンなんかでも負けた事はある。支部長に負けるとショックではあるが、支部長が絶好調の時は負けることもある。だがしかし、支部長は坂に極端に弱い。圧倒的に弱い。下り坂に関しては、ほとんど傾斜を感じないような緩い坂でも異常なまでに強いんだけど、上り坂では圧倒的に弱い。その支部長に上り坂で追い抜かれるなんて、これほど衝撃的な事は無い。いくら膝の故障による1ヵ月間の完全休養のため走力が激減して、絶不調のどん底で喘いでいると言っても、上り坂で支部長に負けるなんて、あり得ない!絶対にあり得ない事態だ!そこまで落ちぶれたなんて、もう絶望だ。

(幹事長)「もうマラソンなんか止めてやるっ!」
(支部長)「そこまで言わんでもええがな」
(幹事長)「君だって驚いたやろ?」
(支部長)「確かに私も幹事長を追い抜いた時、いったい何が起きたのか戸惑ったけどな。
       なんでこんなとこに幹事長がおるんや?と」


このように、今年はいかなる大会でも大会自己ベストを更新するのは容易ではない状態だ。逆を言えば、もし大会自己ベストを出せれば、怪我から完全に復活したと言うことを関係者に大いにアピールする事ができる。

(ピッグ)「関係者って誰ですか?」
(幹事長)「オリンピック選考委員のみなさま」

実は、希望的に言えば、この大会で大会自己ベストを出すことはそんなに難しい事ではないように思える。そもそも大会自己ベストって言ったって、所詮、記録は惨敗した去年のものしかない

(ピッグ)「だからそれはさっき指摘しましたがな」

去年は初参加だったため、どのようなコースなのか皆目見当が付かず、取りあえず最初から全力で飛ばして終盤に撃沈した。ま、よくあるパターンだ。しかも炎天下のレースだったから消耗が激しかった。今日は去年ほど暑くないし、序盤を抑えて走れば終盤まで失速せずに済むかも知れないという希望がある。怪我による練習不足の悪影響も、徐々には解消されてきているのではないか、と思いたい。

(ピッグ)「それで、この大会に備えて何か特別の練習はしました?」
(幹事長)「あんまりしてない。先週、峰山に登ったくらいやな」


峰山は標高200mちょっとなので、そんなんを一度上ったくらいでは、このマラソン大会の練習としては不十分だ。はっきり言って気休めだ。

(ピッグ)「支部長はレフコ・トライアスロンを続けてるんですか?」
(支部長)「もう生活の一部になってるからな」


支部長は去年の秋から実践しているレフコ・トライアスロンの成果が著しい。レフコ・トライアスロンとは、スポーツジムのレフコへ行って、自転車マシーンに乗って、次にランニングマシーンに乗って、最後にプールに入るという、順番は異なるけど1人でトライアスロンの種目をこなすというトレーニングだ。レフコ・トライアスロンを始めてからと言うもの、明らかに絶大な効果が出ていて、最近は坂にも強くなり、北山林道駆け足大会の過激な上り坂で私を追い抜いたのは上に書いた通りだ。なので、今日も支部長は強敵だ。

(幹事長)「最初の上り坂4kmはどうする?」
(支部長)「もちろん歩くよ」
(幹事長)「堂々と答えるなあ」
(支部長)「無理して走ったってロクな事はないがな」


確かに急な坂では走っても歩いてもさほどスピードは変わらない割りには、走ると体力を大きく消耗する。終盤なら頑張る意味もあるけど、序盤から無理して不必要に体力を消耗すると、終盤の失速に繋がる。なので、最初から歩くという支部長の作戦には一理ある。
一方、ピッグは去年は支部長より遅かった。この過激な上り坂があるマラソン大会で支部長より遅かったってことは、ピッグの実力が落ちたというより、やる気が無かった事が原因だろう。

(ピッグ)「勝手に決めつけないでください!
       初参加でコースが分からなかったから慎重になり過ぎていただけですよ」


て事は、今年はピッグも強敵に変身するかも。

(D木谷)「制限時間っていくらでしたっけ?」
(幹事長)「2時間40分ですから、それは心配しなくても大丈夫でしょう」


て言うか、D木谷さんは最近の調子から言えば、我々なんか蹴散らして快走するだろう。


〜 スタート 〜


間もなくスターターが時計を見ながらカウントダウンを始め、10時ちょうどにピストルの音が鳴ってスタートとなった。後ろの方からのスタートだったけど、スタート地点を越えるまでのタイムロスは15秒ほどだった。
普通のマラソン大会なら、スタートの合図が響くと一斉にランナーが勢いよく駆け出すが、さすがに最初から厳しい上り坂なので、それほど勢いよく飛び出さない。前の方に陣取って優勝争いをするような実力者達は勢いよく飛び出していったかもしれないが、中程より後ろのランナー達はペース配分を考えた節度ある態度で地道なスタートとなった。

去年は初めての参加だったので、コースに対する不安が大きかった。最初の4kmは坂が厳しいとは聞いていても、実際に走るまでは、どれくらい厳しいのか不安だった。でも今年はどういうコースか分かっているので精神的には楽だ。まずスタート直後は、まだまだそれほど傾斜は厳しくはない。なので、しばらくは淡々と走っていける。
さっき見つけたミリタリールックの3人組の女性は、てっきり一緒に走っていくのかと思ったら、3人の実力がバラバラで、すぐにバラけて走り出した。で、真ん中の人のペースがちょうど良い感じだったので、彼女をペースランナーに見立てて後を着いていくことにした

しばらく走ると最初の1km地点の距離表示が現れた。時計を見ると7分を切っている。確か去年は最初から1km7分をオーバーしていた。全然無理してないのに、去年より速いのは良い兆しだ。今日は調子が良いのかも。このまま去年を上回るペースで走れば大会自己ベストを出せる。

このマラソン大会は、不便な山の中を走る小規模なレースだが、天気が良いと炎天下の厳しいレースになるため給水所はきちんと用意されている。片道に3箇所と折返し点に1箇所あるから、往復で7箇所もある。そして序盤の急な上り坂の途中に早速、最初の給水所がある。まだまだ走り始めたばかりだが、これは嬉しい。しかもマイナーな大会なのに、水だけでなくスポーツドリンクもある。まだ序盤で喉は渇いてないが、そのうち暑くなるかも知れないので、まずはスポーツドリンクを頂く。
天気は基本的には晴れてるけど、雲と言うか霧がしょっちゅう流れてきて日が陰る。晴れていると一気に日差しが暑くなるけど、雲に隠れると肌寒くなる。今は暑いけど、これから向かう山の上の方を見ると雲がかかっているので、上まで行けば涼しくなるのを期待したい。

坂の傾斜はだんだんきつくなってきたため、徐々にペースが落ち始めたような気がするが、周囲の他のランナーに比べても少し遅いような気がするが、あんまり序盤で無理すると中盤以降に失速する恐れがあるので、我慢してミリタリー姉さんの後を着いていく。
2km地点の距離表示を見ると、この1kmは7分をオーバーして、早くも去年と似たようなペースに落ちている。あかんがな。

どうもやっぱり勝手にペースランナーに見立てたミリタリー姉さんのペースが少し遅いような気がする。このまま彼女と心中する訳にもいかないので、そろそろ見切りを付けて彼女を追い抜いて前に出た
3km地点で時計を見たら、やはりペースは大幅に落ちていて、一気に1km8分近くにまで落ちている。いくらなんでも遅すぎる。去年はここまで遅くはなかった。一体どうしたんだろう。最初は調子良いと思ったのに、甘かった。去年よりめちゃ遅くなっている。それでもまだまだ序盤なので無理するのは良くない。我慢して自然体で走ろう。去年より遅いとは言っても、周囲のランナーも同じようなペースで、私だけが早くもペースダウンしている訳でも無さそうだし、支部長やピッグもまだ追いついてこない。坂がますます厳しくなっているんだから、まだそんなに悲観する事はない。

パンフレットに記載されたコース図によると、最初の3kmは急な上り坂だが、その後は傾斜は一気に緩くなると描かれているが、それがだってのは去年分かった。4km地点までは似たような傾斜の坂が続くのだ。去年は厳しい坂はもう終わりだと期待したのに、なかなか終わらないもんだから精神的にきつかった。今年は心の準備ができているので平気だ
そして、さらに1km走ると、ようやく我々が車を停めた瓶ヶ森登山口に辿り着く。ここが4km地点だ。ここで時計を見てびっくり。さっきよりさらにタイムが悪くなってて、限りなく8分に近くなっている。去年は心の準備ができてなくて、いつまでも坂が終わらずに心が折れかけていたが、それでも坂が少しは緩やかになったためタイムは少しだけ良くなっていた。それなのに今年は、心の準備もできていたし、坂が緩やかになったにもかかわらず、さらに悪化しているなんて、一体どういう事だろう。もしかして調子が悪いんだろうか。
山の上に上がるにつれて雲というか霧がかかりやすくなり、日差しが照りつける時間は短くなる。去年は炎天下で苦しんだけど、今年は暑くてたまらないって感じではない。それなのに去年より遅いなんて、やっぱり調子悪いのかなあ。
ここには2つ目の給水所があるので、水と水を含んだスポンジをもらう。かなりタイムは悪いけど、上り坂はここでおしまいだから、なんとかここから立て直そう。

なーんて思ってたけど、おや?おかしい。まだまだ上り坂が続いてるぞ。去年の記憶は早くも怪しくなってきた。傾斜は一気に緩やかにはなったものの、その後も上り坂は続き、数百m走ってようやく上り坂が終わった
この辺りで10分後にスタートした10kmの部のトップランナー達が追い抜いていく。10分遅れってことは、私が30分かかって走ってきた道を20分で来たことになる。この激坂を1km5分で走ってきたわけだ。絶対無理なスピードだ。

その後は一気に下り坂になる。全体的に平均的に言えば、序盤の4kmの急な上り坂が終わった後は、折返し点まで6.5kmの緩やかな下り坂になると言えるんだけど、6.5kmもあるから一様ではなく、ここからの下り坂の傾斜は結構きつい。これは去年走って分かっている。「ここで調子に乗って勢いに任せてガンガン下ると足に負担がかかり、終盤で足が動かなくなる」との忠告は事前に受けていたが、ここまで苦労して上がってきた厳しさから解放された嬉しさで、去年は特に抑えることなく自然体で駆け下りた。その影響で終盤に失速したのかもしれない。でも、今年はここまで既に去年より大幅にタイムが悪いので、それを取り返す意味もあって、忠告と反省を無視して、去年以上にガンガン駆け下りた
雲がかかると体感温度は一気に下がるので、ガンガン駆け下りていると腕が寒いくらいだ。寒いくらいの方がタイムは良くなるので構わないが、ちょっと寒い。

少し進んだところに5km地点があり、この1kmは上りと下りが半々だったから、まだまだ大して良くはないが、かろうじて1km6分を切っていた。少なくとも去年よりは少しマシだ。去年よりガンガン走ったからだろう。それとも去年より気温が低いからだろうか。
この辺りは見晴らしが良く、ずっと向こうの遙かかなたまで道が見える。あんな遠くまで走るのかと思うと、かなり気が遠くなるが、基本的には下り坂なので、折返し点までは気持ち良く走れる。
少しでも序盤の遅れを取り戻そうと思ってガンガン走り続けた結果、次の6km地点7km地点での区間タイムは、どちらも去年と同様に1km5分ちょっとだった。5月の登山で怪我した右膝も痛む気配はない。もうすっかり回復したと思う。

ただ、去年はコースを知らなかったから、この下りが折返し点まで続くと思っていて痛い目にあったが、今年はもう分かっている。そんな甘いコースではないのだ。7km地点を過ぎたら、まだ下ってはいるものの傾斜は緩やかになり、もうガンガン走れるような道ではなくなる。て言うか、なんとなく上り坂になっているような気がする。これは微妙なところで、本当に上り坂になっているのか、それとも緩い緩い下り坂なのか分かりにくい。それまで急な下り坂をガンガン走ってきた反動で体感的には登っているような気がするが、よく分からない。

しばらく走るとトンネルが現れた。このトンネルを抜けると8km地点があり、そこで時計を見ると、やはりペースは一気に遅くなり、1km6分近くにまで悪くなっていた。
そして、このトンネルを抜けると、今度は錯覚ではなく明らかな上り坂になる。上り坂と言ったって、序盤のような激坂ではなく緩い坂なんだけど、既に疲れ始めた足には堪える。ちょうど自念子の頭の側を通っている辺りだ。
この辺りで早くも先頭ランナーが折り返してきた。8km地点ってことは、帰りは13km地点だから、5kmも先を走っていることになる。この厳しいコースで驚くべき速さだ。

一方、私は、大したことない緩やかな上り坂のはずなんだけど、疲れた足は対応できず、9km地点で見たら一気に再び1km7分近くにまで落ちていた。ただ、9km地点を過ぎたら再び下り坂になる。結構、急な下り坂だ。再び力任せにガンガン駆け下りたら、10km地点でのタイムは再び5分半くらいになっていた。本当に極端に変化のあるコースだ。
ここでD木谷さんとすれ違う。私の1kmほど前を走っていることになる。予想通り早い。ただ、ここは私にとっては急な下り坂だが、折り返してきたランナーにとっては急な上り坂なのでD木谷さんは苦しそうだ。

ここに小さなトンネルがあり、このトンネルを抜けると間もなく折返し点だ。なんとか半分まで走ったかと思うと一安心だ。だが、折返し点でのタイムは去年より1分以上悪い。なかなか厳しい戦いだ。
折返し点の第4給水所で水を補給し、すれ違いながら後ろから来るランナーを確認すると、なんと、すぐ後ろにピッグがいた。本当にすぐ後ろで、ほとんど差は無いに等しい。彼は私の後ろをピッタリ着いてきていたのだろうか。それとも離されていたのを追いついてきたのだろうか。ピッタリ着いてきてたのならいいけど、追いついてきたのだったら、追い抜かれるのは時間の問題だ。
なーんて考える間もなく、なんと、今度は支部長がやってきた。私との差はごく僅かだ。ほとんど誤差の範囲だ。しかも、えらく元気そうだ。絶好調なのかもしれない。やばい。やばすぎる。この展開は追い抜かれるパターンだ。絶対にやばい。ピッグとは、過去にも熾烈な戦いをくり広げ、勝ったり負けたりなので、追い抜かれる覚悟はできているが、支部長に負けたことは少ない。今年は交通事故や登山事故の影響で負け続けているとは言え、もう怪我の影響は無くなったと期待していたのに、ここで負けてしまうとガッカリだ

折り返すといきなり急な上り坂となった。さっきは急な下り坂だったんだから当たり前だ。今日はここまで、上り坂ではあんまり無理はせず自然体で走ってきたが、すぐ後ろから支部長が迫ってきている今、もうそんな事は言ってられない。北山林道駆け足大会の時のように、坂に極端に弱い支部長に上り坂で追い抜かれるなんて、その瞬間に心がまっぷたつに折れてやる気が失せてしまうので、絶対に避けたい。北山林道駆け足大会の二の舞は絶対に避けなければならない。なので、上り坂だけど頑張って上る。なんだけど、なかなか足は動かない。珍しくお尻の筋肉がヒクヒクしている。

折り返してしばらく走るとさきほどの小さなトンネルがあり、それを抜けると11km地点がある。折り返してから上り坂になったこともあり、この1kmは6分半くらいに落ちていた。
さらに走るとライバルの魚クンが走ってきた。ハイタッチしたけど、今日も元気そうだ。少しは差をつけているけど、去年は終盤に追い抜かれたから、全く油断はできない。
この辺りは、このコースの中でも最も景色が良い場所で、特徴的な形の自念子の頭よく見える。気持ちの良い区間だ。なんだけど、なかなか足が動かず、12km地点で見たら、なんと1km7分半近くにまで悪くなっていた。それでもまだピッグは追いついてこない。恐い。

自念子ノ頭がよく見える景色が良い区間

12km地点を過ぎると、つかの間の下り坂だ。自念子の頭の側を通る区間で、来るときは上り坂で一気に遅くなったが、今はつかの間の下り坂なので、できるだけ大股で駆け下りる。後ろに迫ってきている支部長は下り坂には異常に強いので、油断してたらあっという間に追い抜かれてしまう。
ちょっと頑張ったおかげで、13km地点で見たタイムはなんとか6分を切っていた。

しばらく進むと2つ目のトンネルがあり、このトンネルを抜けると残りのコースの全貌が見えるようになる。はるか遠くにゴールの山荘しらさの屋根が見える。高度としては、だいぶ下にある。ところが、その途中に越えていく瓶ヶ森登山口は、はるか上に見える。あんな上まで登っていかないといけないのか、と呆然とする。
呆然としていたら、なんと、遂にピッグが追いついてきた。そして、そのままあっさりと追い抜いていった。さすがに悔しいから着いていこうかとも思ったけど、まだまだ先は長いので無理が続くとも思えず、あっさりと断念した。あとは支部長が追いついてくるかどうか、だ。

この辺りは、さきほど走った時は、上りなのか下りなのか分からなかった辺りだ。下っているはずなんだけど、体感としては上っているような気がした区間だ。しかし今、こうやって走っていると、今は明らかに上りだ。つまり、さっきは上っているような気はしたが、実は下っていたのだ。下っていたのに、傾斜が緩やかになったから上っているのかと錯覚したのだ
さすがにすれ違うランナーもほとんどいなくなり、追い抜いていくランナーもあまりいない。こんなにペースが落ちているのに追い抜いていくランナーがいなくなるのは、つまり後ろにはもうほとんどランナーがいないって事だろう。静かで孤独な戦いが続くのだ。

14km地点で時計を見ると、やはり1km7分近くかかっていた。そして、ここからはさらに傾斜がきつくなる。さっき来る時は1km5分ちょっと駆け下りた区間だ。本当の傾斜は序盤の4kmよりは緩やかなはずなんだけど、もういい加減足がくたびれているため、序盤より厳しく感じてしまう上り坂だ
去年よりマシな点は、去年ほど暑くないって事だ。去年は疲労と暑さで足が動かなくなって序盤よりもずっとタイムが悪い最悪の区間となったが、今年はそんなに暑くなくて、日が陰ると涼しくなって力が甦ってくる感じだ

そのせいか、15km地点16km地点でのラップは、1km7分は超えたものの、去年よりはマシだった。ここまで去年より遅かったのに、終盤になって盛り返せたのは涼しさのおかげだろうけど、大会自己ベストの希望が見えてきた。上り坂はきついけど、あと少し走って最後の4kmになれば、残りは下り坂だけだから、そこまで頑張ればいい。レースは実質的に残り1kmだ
さきほど追い抜いていったピッグは、追い抜くときは明らかにペースに差があったが、その後は私と似たようなペースで走っていて、相変わらず少し前にいる。ずっと後ろ姿は見えているので、頑張ればなんとか追いつけそうな気がしないこともない。逆に支部長が追い付いてくる可能性も大きく、ずっと恐怖との戦いだ

16km地点を過ぎるても、まだしばらくは上り坂が続くが、傾斜は緩やかになり、だいぶ楽になる。さらに進むと、ようやく最高点に達して上り坂が終わり、緩やかな下り坂になる。残りは全て下り坂だけであり、実質的にはレースは終わったも同然だ。と言いたいところだが、今日は違う。なぜなら後ろから支部長が迫ってきているからだ。下り坂になると普段なら嬉しいところだが、下り坂に異常に強い支部長が後ろから迫ってきているとなると、下り坂はむしろ避けたいくらいだ。ここで油断なんかしたら、あっという間に追い抜かれてしまう。て言うか、よっぽど頑張らなければ、あっという間に追い抜かれてしまう
てことで、気を緩めることなく走り続けたら、瓶ヶ森登山口17km地点でのラップはだいぶ改善して6分半くらいだった。緊張感が無くて油断しまくっていた去年よりだいぶマシだ。ここまで遅れていた去年のタイムを、この辺りで追い抜いた。このままいけば大会自己ベストって事だ。

ここにある給水所で水を補給した後は、ゴールまで4kmの過激な下り坂をノンストップでガンガン駆け下りるだけだ。去年は暑さのせいで疲労が限界に達し、足がヘロヘロになってしまったため、急な下り坂をガンガン走るのが難しくなり、足が壊れそうで、ブレーキをかけながら下ったため、あんまり早く走れなかった。でも今年は足はまだまだ大丈夫だ
前方には、まだピッグの後ろ姿がチラチラ見える。追いつきたいがなかなか追いつけない。でも、それより後ろから迫ってくる支部長の影に対する怯えが強烈だ。恐い。恐すぎる。まるでスリラー映画のような背筋が寒くなる恐怖だ。


〜 ゴール 〜


足の疲労がまだ限界に達してないことに加え、支部長の影に怯える恐怖が後押しとなり最後の4kmブレることなく1km5分ほどのペースを保って駆け下りることができた。ピッグには最後まで追いつけなかったが、支部長にも最後まで追いつかれなかった去年は終盤で追い抜かれた魚クンにも追いつかれなかった

終盤でガンガン走れたので気持ち良くゴール


どんなレースでもゴールした喜びはあるが、特に今回は支部長から逃げ切れてホッとした安堵感が強烈だ
ゴールでは、D木谷さんが出迎えて写真を撮ってくれた。彼は楽勝で2時間を切っていた。

(幹事長)「このコースで2時間を切るのはすごいなあ」
(D木谷)「いやあ、このコースは本当に楽しかったですね!」


確かに、ジェットコースターのように激坂が繰り返されるこのコースは面白くて楽しい。北山林道駆け足大会と同じ楽しさだ。距離が13kmしかないから楽しいだけで終わる北山林道駆け足大会に比べたら、この酸欠マラソンは距離が長いので、楽しいうえに苦しいけど、普通のマラソン大会に比べたら変化があって面白いのは間違いない。
D木谷さんみたいに2時間を切るのは絶対に不可能のような気がするけど、それでも去年のタイムを上回る大会自己ベストを出すことができた

(幹事長)「久々の大会自己ベストじゃ!」
(ピッグ)「久々って言っても、今年で2回目の出場でしょ?」
(幹事長)「いや、他の大会も入れて、大会自己ベストってのが久しぶりなんよ」


大会自己ベストは一昨年のオリーブマラソン以来だ。やっぱり気持ち良い。

(ピッグ)「私なんか去年より10分近く早かったですよ」
(幹事長)「それは去年、あまりにもやる気が無かったからやんか」


ま、しかし、大会自己ベストと言っても大したタイムではない。炎天下の去年のタイムより少しだけ早かったに過ぎない。去年と比べたら、みんなタイムは良くなっているはずだ。その証拠に、56歳以上の部の順位は去年より悪くなっている。去年はかろうじてギリギリ半分より少し上だったけど、今年は半分より後ろだった。ちょっと情けない。
ピッグはどういうレース展開だったかと聞くと、最初からずっと私のすぐ後を着いてきてたとのことだ。今日の私は全身オレンジ色の目立つ格好をしていたから、見失うことなく目印にしていたとのことだ。基本的に似たようなペースで走っていて、だからなかなか追いついてこなかったし、追い抜いた後もなかなか離されなかったのだ。

で、私を恐怖のどん底に突き落とし、最後まで力を抜くことなく頑張らせてくれた支部長だが、すぐ後ろを走っているものとばかり思っていたのに、いつまで経っても帰ってこない。一体どうしたんだろうって心配してたら、だいぶ経ってからようやくゴールした。表情は折返し点で見せた元気は失せて、かなりボロボロ状態で帰ってきた。

(幹事長)「どしたん!?何があったん?」
(支部長)「前半で無理しすぎた」


支部長も今日はピッグの後を着いてきたとのことだ。つまり、私の少し後を同じようなペースで走っていたわけだ。去年は序盤の激坂区間ですぐに歩いたから体力を温存できたのに、今年は無理して走り続けたため体力を消耗してしまい、折り返してからの後半でバテバテになり、歩きまくったそうだ。そうだったのか。すぐ後ろに迫ってきていると思ったら、後半はバテていたのか。それが分かっていれば恐怖を戦う必要は無かったんだけど、分かっていれば私のタイムも悪くなっただろう。

(支部長)「終盤の下り坂だけはガンガン駆け下り、ゴール直前で魚クンを抜いたで」

そう言えば、支部長のすぐ後を魚クンが走ってきていた。支部長が抜き返したのか。去年は終盤に凄まじい勢いで私を抜いていった魚クンだが、今年は支部長に抜き返される惨敗だったようだ。

みんなゴールしたので、弁当とキジ汁を受け取り、控え室に戻ってまったりと食事する。レース後は体が弱っているので、冷えた弁当だけでは食べにくいが、暖かいキジ汁があるから美味しく頂ける。下界はまだ暑い季節だが、山の上は涼しくて、暖かいキジ汁がちょうどいい。

食事が終わって、おんちゃんの姿を探したが見つからない。おんちゃんは10kmの部に出たから、とっくにレースは終わっているが、10回連続出場で表彰されるとのことだったから、表彰式までいるはずだった。後で聞くと、早く帰る必要があったから、事務局にお願いして、1人だけ早めに表彰してもらったそうだ。


〜 反省会 〜


レースが終わって交通規制が解除されると、駐車場へのシャトルバスが走り始めるでの、しばらく待って連れて行ってもらう。
パンフレットには木の香温泉てとこの半額入浴券てのが付いている。去年は場所がどこか分からなかったので行かなかったが、調べてみると、山を下りたらすぐ近くだったので、今年は温泉に繰り出すことにした
木の香温泉は、道の駅に併設された温泉だった。道の駅は大繁盛で車を停める場所に困ったが、温泉はそれほど混んでなくて、ゆったりと入れた。特に屋外の露天風呂は、お湯がいつまでも浸かっていられるちょうど良い低めの温度で、厳しいマラソン大会で疲れた体を癒すには絶好の温泉で、本当に気持ち良かった。

お風呂から出て、みんなでソフトクリームも食べる。2週間前の乗鞍ヒルクライムの後と同じパターンだが、湯上がりのソフトクリームは美味しい。ただ、それだけではものたりず、さらに追加でアイスクリームを食べた支部長の行動に同調する人はいなかった。

(幹事長)「去年は、予想以上に厳しかったから、もう二度と出たくないって言ったら、
       支部長がリベンジしたいって言うから、今年も出たけど、
       2回出ると、楽しさが分かってきて、もう止められないなあ」


普通のマラソン大会なら、走っている最中は「早く終わりたいなあ。なんでこんな辛い思いをしてるんだろう。途中でリタイアしたいなあ。もうこんなマラソン大会には出たくないなあ」なんて思うけど、ゴールしたとたん「よし、来年もまた出よう」なんて思うものだ。ところが、この大会はあまりにも坂が厳しかったから、去年のレース後は、もう出たいとは思わなかったのだ。でも今年はレースの楽しさも分かってきて、すぐまた出たいと思うようになった

(D木谷)「いやあ、本当に楽しかったですよ。こんな楽しいコースは初めてですね」

実はD木谷さんは、9月と10月に2ヵ月連続で100kmのウルトラマラソン大会に出場する。しかも、どちらのレースも、単に距離が長いだけでなく、かなりのアップダウンがあるコースだ。なので、今日のレースは、その準備としても良かったらしい。

私は100kmも走れるとは到底思えないのでウルトラマラソンへの食指は動かないが、10月初めには去年惨敗した龍馬脱藩マラソンのフルマラソンの部に出るので、そのリベンジの手がかりは掴めたかも知れない。
なんだか希望が見えてきた今日のレースだった。良かった良かった。


〜おしまい〜




戦績のメニューへ