第6回 とくしまマラソン

〜 精神力の不思議 〜



2013年4月21日、第6回とくしまマラソンが開催された。
この徳島マラソンは、レースの半年近く前から戦いが始まる。

(ピッグ)「そんな前からトレーニングやってるんですかっ!」
(幹事長)「申し込みの戦いやがな」


まだ今回で6回目の新しいレースだけど、昨今の異常なまでのマラソンブームのせいで、年々、申込者が激増して申し込みが厳しくなっているのだ。徳島マラソンは坂がほとんど無いフラットなフルマラソンなので、人気が爆発する理由は分かる。四国でもマラソン大会は多いが、フルマラソンでフラットなコースってのは少ない。四国は山が多いから平坦なコースが取れないって訳ではなく、交通規制の問題だ。平坦な広い道路ってのは、たいていは幹線道路なので、そこを何時間も交通規制するってのは簡単ではない。東京都知事や大阪府知事みたいに絶大な権力を誇る政治家なら、鶴の一声で都心のど真ん中でマラソンを開催できるけど、普通は簡単にはいかない。瀬戸内海タートルマラソンとか海部川風流マラソンのように、交通量の少ない山間部や島なら大がかりな交通規制をしなくても42kmのコースを確保するのは比較的簡単だから、多くのマラソン大会が、そういうコースで実施されるのだが、当然ながら、そういう場所では、どうしても坂が多いコースとなってしまう。なので、坂がほとんど無い徳島マラソンは、我々にとって、大変貴重なレースなのだ。なぜ徳島でフルマラソンの開催が可能なのかと言うと、吉野川という真っ直ぐな大河川があるからだ。この川の堤防の上をコースにすれば、交通規制をしなくてもフラットで真っ直ぐなコースを確保できるのだ。

このように、コースとして魅力的な徳島マラソンではあるが、それにしても参加者が多すぎる。昨今のマラソンブームのせいで参加希望者が激増しているのだ。周囲を見回してみても、今までスポーツとは全く縁が無かったような人が、どんどんマラソンを始めている。これは、なにも徳島マラソンに限った話ではなく、四国の山奥の超不便な場所で夏場のクソ暑い7月末に開催される汗見川マラソンなんて、かつては人が集まらなくて大会が消滅しないか心配していた超マイナーなレースなのに、去年はなんと定員オーバーで申し込めなかったのだ。

(幹事長)「何が嬉しくてマラソンなんかするんだ!しんどいだけやろっ!」
(石材店)「健康のためとかじゃないですか?」
(幹事長)「マラソンは健康に悪い。絶対に体に悪いぞ!」


どう考えてもマラソンは体に悪い。普段、ジョギングする程度なら、もちろん健康に良いんだけど、マラソン大会を走るのは体に悪い。特に、フルマラソンなんか絶対に体に悪い。足腰の故障はもちろん、あんな過激な運動をしたら内蔵や筋肉にだって良いはずがない。夏場の炎天下のマラソンだって、絶対に体に悪い。

(石材店)「女子部員を勧誘している時と言ってる事が全然違いますが」
(幹事長)「あれはセールストークやがな。ここは本音で勝負や」


まあ、文句を言っても仕方ない。て言うか、マラソンブームが起きたからマラソン大会が増えてきたのは事実であり、この徳島マラソンだってマラソンブームが無かったら始まっていなかったかもしれない。

てな事で、人気沸騰の徳島マラソンは、最初から申し込みに関して波乱が付きまとってきた。
まず第1回大会定員は当初は3000人に設定され、それをオーバーした場合は抽選になると言う。マラソンブームが爆発してる今になって思えば、3000人の定員なんて少なすぎるって感じだけど、以前は田舎のマラソン大会なら3000人ってのが標準的なところだった。どのレースも、その程度に設定してあり、実際の参加者数はそれを少し下回るってところが一般的で、申し込み打ち切りとか抽選なんてあり得ない世界だった。もちろん、徳島マラソンは超フラットなコースのフルマラソンとして貴重なレースだし、マラソンブームの影響で3000人をオーバーする可能性は考えられたが、吉野川の堤防を走るんなら、多少、人が多くても問題ないから、定員オーバーしても受け付けてくれるんじゃないか、と楽観視していた。ただ、主催者側は申込者が多かった事態を想定して、先着順ではなくて抽選制を採用した。申し込み数を集計して、定員をオーバーしていれば抽選にすると言うのだ。この時点で、なんとなく嫌な予感は感じていた。そして、実際の申込者数は予想を大幅に上回る5814人だった。ただ、3000人に対して5814人なら、実際に入金する人の歩留まりを考えれば、取りあえず全員OKだろうって思った。実際にお金を払って申し込む人はせいぜい3500〜4000人くらいだろうから、抽選はしないだろうと思ったのだ。ところが、なぜかここで主催者側は抽選を行うという予想外の行動に出た。しかも、3000人に絞るのではなくて、一気に定員を5000人に拡大して、5814人を5000人に絞る抽選を行ったのだ。歩留まりを考えると、5814人全員を当選にしても申込金を払い込むのは5000人以内に納まると思うので、抽選の必要性は無いような気がするんだけど。とは言え、5814人中5000人が当選するんだから、うちのメンバーはみんな当選するだろうと安心していたら、なんと支部長を始め、落選者が続出し、我々の仲間内での当選率は50%だった。あり得ない低い確率だ。絶対におかしい。東京マラソンの抽選と同じく、裏に何かあるに違いない疑惑の抽選だった。

第1回目の混乱に懲りた主催者は、第2回大会は最初から先着順としたが、なぜか定員は4000人に減った。第1回目は緊急措置とは言え定員を5000人に増やしたのに、4000人に減らすって、あんまりだと思うけど、そんなに慌てることも無いだろうと余裕をかましていたら、大会のホームページを見ると申し込みが殺到してて、毎日1000人ずつ申込者が増えているのを発見して、慌てて申し込んで滑り込みセーフだった。結局、1週間もしない間に受付は終了してしまった。このため、予想通り、危機感の乏しいペンギンズのメンバーは、申し込めなかった人が続出した。

次の第3回大会も前年と同様の先着順となり、定員が6000人にまで増えた。ここまで増やしてくれれば、定員オーバーって事もないかなあ、なんて思いつつも、それまでのことがあるから、とにかく申し込み開始直後に素早く申し込んだけど、なんと、たった2日間で受付は打ち切られてしまった。2日目までに申し込んだ参加者は定員を上回る6617人だった。抽選とは言ってなかったため、多少、定員をオーバーしたけど、2日目までに申し込んだ人は全員が参加OKとなった。なぜ定員を多少オーバーしても許すのかと言えば、申し込みがインターネットと郵便振込みの両方を許容しているからだ。インターネットだけなら、定員に達した時点で即刻打ち切ることもできるけど、郵便振込みだと、時間がかかるから、一日の途中で打ち切ることはできないのだ。そして、相変わらず危機感の足りないペンギンズは、申し込めなかったメンバーが続出した。ほんとに学習能力が乏しい。鳥並の頭脳しか持ち合わせてないんだから。

このように第1回から第3回まで混乱が続いてきたのだが、第4回大会は、さらに輪をかけるような混乱ぶりだった。まず、主催者側は、最初は全員を抽選にすると発表した。定員は7000人に拡大するという。毎年、ちょこちょこと少しずつ定員を増やしていく手法には疑問が残るが、抽選に弱い僕らでも、定員が7000人もあれば全員が当選するんじゃないかなあ、とも思っていた。ところが、申し込み受付直前になって、急に5000人分は先着順にし、残り2000人分は抽選にするという、とっても奇妙な方式に変更する事が発表された。この2段階方式の意味は分かりにくい。何らかの理由で抽選から先着順に変えたものの、インターネットを使えない人なんかのために一部を郵送での抽選枠に回したんだろうか。
申し込みの受付開始は11月1日とだけ発表され、何時から受け付けてくれるのか分からなかったけど、先着枠は5000人もあるから、会社に行ってから申し込めば楽勝だろうと思っていたけど、会社のパソコンは古くて調子が悪く、インターネットがブチブチ切れるので、念のため、会社に行く前に自宅のパソコンから申し込んだ。すると、「はい。受け付けました」ってメッセージが出るかと思ったら、なぜか「抽選受付を承りました」なんてメッセージが出た。なんで、こんな早い時間に申し込んでるのに抽選なんじゃ?って一瞬は思ったけど、単に表示がおかしいだけだと思って安心していた。ペンギンズのメンバーは、僕よりさらに危機感が乏しい人が大半なので、既に申し込んでいたのは矢野選手だけだった。
その後、12月になって当選のお知らせというものが来たが、「僕は朝早く申し込んだのだから、抽選もクソも無いだろ。当選じゃなくて先着枠だろう。形式的な意味不明のメールを送るな」って不機嫌になっていたら、なんと支部長も石材店もゾウ坂出もテニス君もヤイさんも、軒並み落選していた。一体、これはどういうことだ?混乱しつつ調べてみると、驚愕の事実が判明した。一人だけ前日の夜中の24時に申し込んだ良い子の矢野選手は、24時になった瞬間にパソコンのキーを叩いたら、既にサーバーがパンク状態で、取りあえず配られた整理番号がなんと既に500番目で、30分くらい経ってからようやく申し込みのインプットが出来る状態になり、なんとか申し込み完了したのが1時頃だったそうだ。そして、朝5時には先着枠の5000人に達したらしい。つまり、僕が申し込んだ時点では既に先着枠は一杯になっており、僕はたまたま運良く抽選で当選したということだ。当然、他のメンバーも全員が抽選枠での戦いとなっており、抽選枠は2000人分しかないので競争率は高く、ほぼ全員が落選したのは当然とも言える。

続く第5回大会では、前年の反省を踏まえ、夜中の24時になったらすぐに申し込むことにした。定員は一気に10000人に増えたので、いくら人気急上昇の徳島マラソンと言えども、希望者は全員参加できるのではないか、というのが第一印象だったが、油断してはいけない。今回も定員10000人のうち9000人分はインターネットでの先着順で、残りの1000人分が専用振替用紙での抽選になった。それでもインターネットの先着枠が9000人もあれば、そんなに焦る必要は無いだろうとは思った。申込受付開始は1月6日の0:00だ。テレビを見てたら危うく時間が過ぎてしまいそうだったけど、慌ててパソコンに向かって24時直前にアクセスしようとした。ところが、まだ24時になっていないのに「大変混雑してますから、しばらくお待ち下さい」みたいな表示が出て、いきなり躓き、その後、長蛇の列を待ち、えらく苦労しながら1時間くらいかけてようやく申し込むことができた
他のメンバーもちゃんと夜中にアクセスして無事申し込んだんだけど、なんと支部長はテレビを見ていて申し込み受け付けスタートに少し遅れてしまい、慌ててアクセスしたら整理番号が8千人待ちになっており、しかも表示された待ち時間が余りにも長かったから、一気に諦めて布団に入ってしまったそうだ。支部長はゾウさんの分も一緒に申し込む予定だったから、二人とも申し込めなかった。ところが、後から見てみると、申し込みが定員に達したのは午前10時5分だったとのことで、支部長も諦めずに朝、再度アクセスすれば申し込めたのだ。ただ、強運を誇る支部長は、その後の郵送受付の抽選で奇跡の復活当選を果たし、ゾウさん共々無事参加することができた。

このように、過去において熱い戦いを繰り返してきた徳島マラソンの申し込みだが、だんだん要領が分かってきた。今年も前年と同様、定員は10000人で、このうち9000人分がインターネットでの先着順残りの1000人分が専用振替用紙での抽選だ。申込日は12月3日だ。夜中の24時スタートで、順調にいっても1時間は待たねばならないだろう。なので、今年は事前に仮眠をとることにした。
我が家は冬場はリビングのコタツに家族全員が集中して籠もる。たまたま娘2号が学校の中間試験の真っ最中なので、誰もテレビも見ずに静かにコタツに入っている。で、10時頃にコタツに首まで潜り込んで、仮眠に入る。寝過ごしたらいけないので、目覚まし時計代わりに携帯電話のアラームをセットして横に置く。最近、睡眠不足気味なので、こういう状態でも簡単に眠りに入れた。ところが、まだ30分くらいしか寝てないと思った頃に、娘が僕の顔にミカンを乗せ始める。冷たいミカンが顔に乗せられると、当然、不快だ。鬱陶しいので転げ落とす。ところが、いくらのけても次から次へと乗せてくる。なんでこんな嫌がらせをするのか分からないが、いつまでもフザけてミカンを乗せてくる。ちゃんと寝ないと十分に仮眠が取れなくて、後が辛くなるので、「いい加減に止めろよ」と言うのだが、それでも止めずにしつこく乗せてきて、そのうち乗せるだけでなくミカンで顔をグリグリとこすりつけてくる。さすがに、もうすっかり目が覚めてしまい、怒りながら時計を見ると、なんと12時5分前になっているではないか!

(幹事長)「げげっ、もう12時やんかあ!」
(娘2号)「だから起こしてたんだってば」
(幹事長)「それやったら、もっとちゃんと起こしてーっ!」


慌てて起きながら、コタツの上のノートパソコンのスイッチを入れる。
2階の自分の部屋にあるデスクトップパソコンは新しく性能も良いので問題ないんだけど、そこで1時間以上も待つのは寂しいので、今日はコタツに入ったままノートパソコンを使うんだけど、このパソコンの調子がいまいちなのだ。そんなに遅い訳ではないが、フリーズする可能性があるのだ。ちょっと不安。

(幹事長)「それにしても携帯電話のアラームは鳴らなかったんやろか?」
(娘2号)「鳴ってたよ」
(幹事長)「鳴ったのに気づかんかったのか!?」


試しに鳴らしてみると、携帯電話のアラームって、ちょっとしたお知らせ程度の音量で、とても目覚まし時計代わりに使えるものではないということが分かった。ボーゼン!

不安を抱えたノートパソコンだが、なんとか立ち上がり、無事12時1分前にはパソコンのキーを叩いてランネットにアクセスしようとした。すると、ランネットにアクセスするところで既に「3000人待ち」のメッセージが出た。ただし、これは前年の経験があるので驚かない。人数には驚かされるが、そんなに大して待たされる訳ではない。実際、3000千人待ちは、みるみるうちに人数が減っていって、数分でランネットに無事入っていけた。ここで徳島マラソンを検索して、エントリーボタンを押す。ところが、なんか、ここで詰まってしまって、パソコンがウンともスンとも言わなくなった。このパソコンの調子が、また悪くなったのか、それともランネットのサーバーがアクセス集中でトラブっているのか分からない。このまま、もうしばらく待とうかとも思ったけど、パソコンの調子が悪い可能性があるし、ここまで比較的順調に来たもんだから、つい気楽な気持ちで「ウンともスンとも言わなくなったら、ここをクリックしてね」みたいな箇所があったので、そこをクリックしてみた。
これが失敗だった!なんと、ランネットにアクセスする前の状態に戻ってしまったではないか!それは、おかしいだろ!?で、なんと今度は「8000人待ち状態」になっている。ひどい!ひどすぎる!この状態で8000人待ちだなんて、もう既に定員の9000人に達しているんじゃないか。と思ったけど、去年の経験から言えば、この人数は何を指しているのか不明で、あんまり深刻に考える必要はない。これにひるんで諦めると、支部長の二の舞だ。気にせずに入っていくと、結局は申し込める場合が多い。と判断し、そのまま待つと、今度も比較的順調に順番は進み、12時20分頃には再びランネットにアクセスできた。そこから再度、徳島マラソンを検索して、エントリーボタンを押したら、今度は無事に進み出した。と思ったら、ここからが大変。再び「5000人待ち」のメッセージが出た。しかも、ここからは遅々として進まない。最初の行列は、ランネットへのアクセスの行列待ちだからスムースに進んだけど、今度の行列は徳島マラソンへのエントリー手続きの行列だから、相当時間がかかるだろう。こうなると焦っても無駄なので、娘の試験勉強を見てやりながら、本腰入れて待つ。
できるだけ苛立たないように気持ちを落ち着かせながら、本を読んだりしながらしつこく待つこと1時間半。1時半を大きく過ぎて、ようやくエントリー画面に到達。去年と同様に、エントリー画面に入ってからは早い。順調に入力していき、5分もかからずに終了。結局、終わったのは2時近かった。疲れた。最初のアクセスでトラブったのが、腹立つ。どうにかしてほしい!
ただ、今年は、エントリーが終わった時点でも娘の試験勉強が終わってなかったので、その後、分からないところを見てやったりしてたら、結局、寝たのは3時過ぎになってしまった。なので、どっちみち3時まで寝られなかったんだから、今回に限って言えば、エントリーに2時間近くかかったのは、問題にはならなかった。

翌朝、みんなの様子を確認すると、支部長は12時前にはアクセスしてスタンバイし、多少のトラブルを抱えながらも12時20分頃にはエントリーを終える事ができたとのことだ。素晴らしく順調に進んだ訳だ。僕もトラブルが無ければ、それくらいには終わっていたことだろう。
ただ、今年も支部長は「お仲間エントリー」でつまずく。支部長は今年はゾウ坂出國宗選手についても「お仲間エントリー」で一緒に申し込もうとしてたのだ。ゾウ坂出は、去年も支部長に「お仲間エントリー」で一緒にエントリーしてもらうように頼み、運命をゆだねたため、支部長が行列の長さに呆れてあっさりと諦めた道連れとなって、危うく参加できない危機的状況に置かれたというのに、今年も懲りずに支部長と運命共同体の道を選んだ発想が理解できないが。一方、「お仲間エントリー」については、なんだか使い勝手が分からず、昨年もピッグが失敗したようにリスクの高い申し込み方法だ。なのに、ゾウ坂出と國宗選手のエントリーを気楽に引き受けた支部長も大胆だ。
で、恐れていた通り、最初のエントリーは支部長自身のしか出来ず、慌てて再度アクセスしたら1万人近い待ち行列となっていたが、僕と同様、この人数に不信感を抱いている支部長は気にせずそのまま待って、長期戦を戦い抜き、結局、2人分もエントリーできた。終わったら2時になっていたとのことだが、2人分は一緒にエントリーできたそうだ。全てが終わってからようやくやり方が分かったらしく、次回からは自分のも含めてみんなのを一緒にエントリーできるらしい。
そうは言っても、リスク分散の意味からしても、支部長一人に全員のを任せるのは怖いぞ。と思っていたら、聞くところによると、「仲間うちで全員がそれぞれ全員分の登録を事前に済ませておき、みんなが一斉に並行してアクセスして、誰かが最初に全員分のエントリーを一気に成功した時点で連絡を取り合って他の人が手続きをストップする」という手法が一般的らしいのだ。なるほど、それは良いアイデアだ。来年まで覚えておこう。

石材店も、12時ちょうどにエントリーを開始したんだけど、やはり画面がなかなか進まず、1時30分頃に、ようやくエントリーが完了したとのことだ。結局、これくらいはかかるって事だ。ランネットはシステム増強とか考えて欲しいなあ。徳島マラソンの受付は年に1回だけだけど、最近はどのマラソン大会でも同じような状況のはずなので、ぜひシステム増強して欲しいぞ。



てなわけで、熾烈な戦いから半年近くが経った2013年4月21日、第6回とくしまマラソンが開催された。

ところで、この直前、大変な事件があった。徳島マラソンの1週間前に開催されたボストンマラソンでテロがあり、爆発物により3人が死亡し、100人以上がけがをするという大惨事が起きたのだ。

(幹事長)「緊急事態発生だ!気をつけねばならない!」
(石材店)「徳島は大丈夫でしょう?」
(幹事長)「ボストンか徳島かという場所の問題ではない。我々がターゲットだ!」
(石材店)「まあ、好き勝手言い放題の幹事長なら、命を狙われても不思議はないですけどね」

もちろん、私が狙われた場合、犯人は絞られる。マスコミ関係者か弁護士関係者か社民党関係者か原子力反対派か中国人か朝鮮人かイスラム教徒か反捕鯨関係者か同性愛者か読売ジャイアンツ関係者か鳩山バカボンかヒステリー菅か亀井静香ちゃんだ。

(石材店)「ぜんぜん絞られてないじゃないですか!」
(幹事長)「手当たり次第メッタ切りしているからな」


それにしても、いくらなんでもマラソン大会でテロだなんて、ほんと、止めて欲しいなあ。テロするんなら反原子力集会なんかでやって欲しいな
ボストンのテロが徳島に急に波及するとは思えないが、それでも主催者は慌てて不審物注意のビラを配布したりして大変だ。



さて、まずは例によって言い訳から書かねばならない。

(石材店)「もう誰も期待してないから、言い訳はいいですよ」
(幹事長)「自分自身に対する言い訳です」
(ピッグ)「今年は2月末に東京マラソンに出たから、適当に練習しても楽勝だって言ってましたよね」
(幹事長)「それが落とし穴だった」


2月末にフルマラソンを走ったばかりだから、足はもう出来ているので、あとはそれを維持すれば良いだけだ、って思っていたのだ。ところが、なぜか、どんどん走れなくなっていくのだ。本番の1週間前の日曜日は、20km走っただけで足が痛くて、もう走れなくなってしまった。フルマラソンに出る直前の練習としては、いつもなら20kmくらいは軽く走れるようになってないと本番で42kmも走ることはできないんだけど、1週間前に20kmしか走れないなんて、本番は完走も危うくなってしまった

(幹事長)「疲労の蓄積のせいだろうか?」
(石材店)「疲労が蓄積されるほど練習もしてないのに?」
(内藤)「僕は平日でも20km走れるようになったよ」


突然の登場だが、なんと内藤さんは、平日に2〜3回、仕事が終わってから20kmも走っていると言うのだ。しかも、あろうことか、ランニングマシーンの上でだっ!よくも、まあ、あの発狂マシーンと言うか鬱病製造マシーンの上で20kmも走れるものだ。しかもテレビを見たり音楽を聴いたりしながらじゃなくて、何も無しでひたすら20kmも走ると言うのだ。

(幹事長)「しえ〜!僕ならウォークマン聴きながらでも5kmが限界ですよ」
(内藤)「頭の中を真っ白にして無我の境地になるわけよ。座禅と同じやな」


おまけに週末は外を20km以上走っているそうだ。もしかして、今年は内藤さんに負けるかも。



結局、今年の参加メンバーは支部長、ゾウ坂出、國宗選手、ピッグの5人となった。(ちなみに内藤さんは出ますが、ペンギンズではありません)
せっかく申し込んでいた石材店は、膝の調子が芳しくなく、完走できる見込みが無いとのことで、急遽、欠場となった。やはり膝の故障って長引くんだなあ。

(幹事長)「わしも気をつけんといかんかなあ」
(石材店)「えっ?気をつけてるから練習量が少ないのかと思ってましたが」



徳島マラソンは、受付時間がとても早い。スタート時間が9時だから仕方ないんだけど、当日の受付は朝の8時までに済ませなければならない。車で行くと、帰りは疲れ果てた足が攣りそうになって運転が危険になるので、可能ならJRで行きたい。ところが、高松発の特急の始発で行くと徳島駅に着くのは8時過ぎになる。5時33分発の鈍行の始発で行くと2時間以上かかるうえ、徳島駅に着くのは8時直前になってしまい、やっぱり受付には間に合わない。高松と徳島なんて東京なら軽く通勤圏内だというのに、8時に間に合う便が無いなんて、いくらなんでもあんまりだ。
なので、仕方なく、今年も支部長さまが車を出してくださった。支部長には、最近はあらゆるレースで車を出してもらっていて、ほんと助かります。
車で行くにしても、去年なんか、郊外の指定駐車場からピストン輸送のバスで会場に行くのに異常に時間がかかったので、ある程度、余裕を持って行く必要がある。なので、高松を6時には出たい。平日なら、坂出からゾウさんがJRの始発に乗って高松駅に着けば間に合うんだけど、なんと休日は始発便が運休なので、ゾウさんは車で来なければならない。電車で20分もかからない坂出−高松間で休日の始発が高松着6時32分の便しかないって、いくらなんでもあんまりだ。

(幹事長)「田舎のJRって、こんなもんなん?」
(支部長)「私も知らなかった」


需要が無いから便が無いのだろうから、JRに罪は無い。
てな訳で、まずは一番遠方のゾウ坂出が車で支部長の家に行き、支部長の車に乗り換えて國宗選手をピックアップし、最後に私をピックアップしてもらう。私の家を6時前に出たら高速道に6時に乗れて、楽勝で着くだろう。

ところーが、ゾウさんが家を出るのが遅れて、結局、高速道路に乗ったのは6時半頃になってしまった。

(幹事長)「結局、JRで来るのと、ほとんど同じやんかーっ!」
(ゾウ)「女の子の朝は何かと忙しいんだもーん」


空模様は、なんだかパッとしない。去年の徳島マラソンは台風みたいな暴風雨だったけど、事前の天気予報では、今年はそなな事態にはならないようだが、あんまり良い天気ではないらしい。暑いのもしんどいけど、雨が降って体が冷えるのも辛い。気温が低くて晴れているか、気温が高くて雨か、どっちかにして欲しいところだが、今日は気温が低めで雨が今にも降り出しそうなので、ちょっと嫌な感じ。降ったとしても大雨にはなりそうにないけど、体は冷えそう。ただ、去年は強風のために高速道路では車が飛ばされそうになったが、今年は快調に進んでいく。

車の中で朝食のパンをかじる。レース当日の朝食は、ゴール予想タイムの6時間前に食べるのが理想とのことだ。

(ゾウ)「それだったらスタート地点で食べないといけなくなりますよ」
(幹事長)「だからスタート地点ではゼリーを食べるんだってば」


なので、車では控えめに食べる。以前はレースの朝だということで大量に食べていたが、そのせいでよくお腹を壊していたから、最近は控えめな朝食にしている。

(幹事長)「今年はスタート地点が少し手前になってるよなあ」
(支部長)「え?そうなん?なんで?」


これまでは折り返し点の西条大橋のところで盲腸みたいに余分な道路を走らされていたが、それを無くす代わりにスタート地点が少し手前になったのだ。コース的には、その方がよろしい。

(幹事長)「駐車場は去年と同じやな」
(支部長)「うん。去年と同じや」


なんて会話しつつ、支部長の挙動がおかしい。何か違う方向へ車を進めようとしている。

(幹事長)「駐車場は去年と同じ沖洲マリンターミナルやな」
(支部長)「え?去年と同じ吉野川の河川敷やろ?」
(幹事長)「そら一昨年の話やがな」


去年から受付場所が県庁の側に移ったので、吉野川の河川敷より沖洲マリンターミナルの方が近くなっているのだ。2月末に東京マラソンという一大イベントをこなして徳島マラソンに対して何の緊張感も無くなった僕と同様、3月初めに京都マラソンという一大イベントをこなして何の緊張感も無くなった支部長は、事前に送られてきた説明書なんかを全く見てないので、コースの変更も受付場所や臨時駐車場の場所も頭に入っていない。

高松からずっと道路は空いていて、順調に沖洲マリンターミナルの臨時駐車場に着いた。臨時駐車場の周辺の道も駐車場も閑散としている。1万人もの参加者が集まる一大イベントが開催されるとは思えない。既に大半のランナーはスタート地点に行ってるのだろうか。
会場まではバスでピストン輸送してくれるのだが、こんなに順調に来れば楽勝じゃん、って思ったら、なんとピストン輸送のバスの最終便がギリギリで出るところだった。順調に来たと思ったけど、これでも遅かったのか。やっぱり、他のランナーは既にスタート地点に行っているのか。結構、危ない綱渡りをしている。
去年と同様、シャトルバスは妙に遠回りして行く。普通に行けば受付場所にはすぐに到着するはずなのに。受付周辺の道路混雑を防止するためなのか。ただ、去年は暴風雨の影響で、ものすごく時間がかかったけど、今年は遠回りしても順調に受け付け会場に着いた。

受け付け会場に着くと、ピッグも到着したところだった。ピッグは2月の海部川風流マラソン大会で4時間10分台なんていうトンデモない快記録を出し、3月の阿南健康マラソン大会の10kmレースでも48分台なんていう快記録を出し、絶好調だ。

(幹事長)「絶好調の理由は何なん?まさかとは思うけどランニング通勤なんて、やってないよな?」
(ピッグ)「まさか、それは無いですね。本当に練習量は少ないままなんですけど不思議と調子良いですねえ」


ピッグの事だから、練習量が少ないというのは本当だろう。単なる好不調の波というにはタイムが良すぎる。2月の丸亀マラソンでは僕が勝ったけど、今の状態では勝ち目は無いだろうなあ。

着替えを始めようとしたとき、去年と同じように「手荷物を預ける受付時間が、あと少しで終了しますから急いでください」なんて言われて焦らされる。しかし、今日みたいな天候だと、またまた何を着るかで悩んでしまう。下はもちろんタイツを履く。本来の目的は疲れ防止か何かだろうけど、僕の場合は防寒だ。上も、かなり肌寒いので半袖という選択肢は無い。

(ピッグ)「え?」

見ると、ピッグはタイツを履いてないのはもちろん、上も寒そうな半袖だ。暑がりの支部長ですら今日は長袖を着ているというのに、元気やなあ。ゾウさんと國宗選手は半袖だけどアームウォーマーを着けている。

(幹事長)「それって長袖着るのと同じじゃないの?」
(ゾウ)「暑くなったら、いつでも取れるのが便利なんですよ」


なるほど。でも、今日は一日中寒そうだ。寒がりの僕としては、長袖でも1枚では寒そうなので、長袖に上に半袖Tシャツを着ることにした。

(ピッグ)「それって着すぎじゃ?」
(幹事長)「終盤は絶対に歩くと思うから、これくらい着てないと寒くなるし」
(國宗)「普通、終盤は歩くもんなんですか?」
(幹事長)「もっちろん!」
(支部長)「もっちもっちろん!」
(國宗)「ひえ〜」


國宗選手は今日が初めてのフルマラソンなので不安でいっぱいなのだ。
寒がりの僕としては、長袖と半袖の重ね着だけでも不安で、さらにウィンドブレーカーも着ようかと悩んだけど、さすがにみんなに止められた。

(國宗)「いくらなんでも着すぎでしょ」
(支部長)「厳冬期の丸亀マラソンで、そんなに着たことはないやん」
(幹事長)「確かに、そらそうやわ」


てことで、不安を残しつつもウィンドブレーカーは諦めるが、いざという時のためにポケットにビニール袋は入れておく。支部長、ゾウさん、國宗選手はいつものように帽子を被るが、帽子が嫌いな僕は雨の心配が無い時は被らない。レースに来ると、ゾウさんのような格好いいサングラスが欲しくなるんだけど、レースが終わると忘れてしまって、いまだに購入できてない。紫外線は日焼けだけでなく目にも悪いらしいので、早く入手しなければならん。
と、ここで支部長の動きが止まった。

(支部長)「しもた!ウエストポーチを車の中に忘れた!」

支部長と言えば、携帯電話から財布からゼリーから何から何まで持って走るのをモットーとしており、それらは一切合切ウエストポーチに入れて運ぶのだ。ところが、ウエストポーチを忘れてしまったら、何も持てなくなってしまうのだ。

(幹事長)「僕はウォークマンとティッシュとゼリーくらいだからランニングパンツのポケットに入れてるけど」
(支部長)「私のランニングパンツはポケットが無いのよ」


いつもウエストポーチがあるからポケットの無いランニングパンツを愛用しているらしい。エネルギー源を持ち運べないっていうのは支部長にとっては実害よりも心理的なダメージの方が大きい。また3月の京都マラソンでは、沿道のコンビニで買い食いしてリフレッシュしたもんだから、「フルマラソンには買い食いが効く」なんて教訓を得たのに、財布を持てないから買い食いもできない。仕方なく、パンツのゴムの間に顆粒状のアミノバイタルの小袋をはさんでいる。

着替えが終わると、みんなで記念写真だ。

統一感が皆無の精鋭メンバー
(左から支部長、國宗選手、ゾウ坂出、ピッグ、幹事長)

去年よりは多少、時間の余裕があったし、去年と違って手荷物を預ける場所が一ヵ所にかたまっていたので、時間内に全員、手荷物を預けることができた。
去年よりスタート地点が手前になったため、スタート地点にもすぐに着いた。並ぶのは背番号順だが、背番号はたぶん事前の申告タイムの順だろう。僕は強気なタイムを申告していたので背番号が若かったけど、どう考えても今日は調子が悪そうなので、みんな揃って後ろの方に並んだ
支部長を見ると、早くもアミノバイタルの小袋を破って顆粒を飲もうとしている

(幹事長)「それって水と一緒に飲むんやないの?それだけ飲んだらむせるやろ?」
(支部長)「水が無いから仕方ない。少しずつ飲んだら大丈夫や」


なんて言いながら口に運ぶが、うまく飲めず、風に粉が舞い上がる。口もパサパサになるし、本当に飲みにくそうだ。

(幹事長)「そこまでして飲まんといかん物なのか?」
(支部長)「精神安定剤みたいなもんやな」


薬物中毒と紙一重だ。
毎年の事だけど、今年も風はかなり強い。去年の暴風雨に比べれば全然大したことないとは言え、風が当たるとかなり寒い。身体がどんどん冷えていくので、さっそくビニール袋を被る。薄いビニール袋だけど、風が通らないので効果絶大だ。
ただ、今は寒いけど、走り始めれば、これくらい気温が低い方がちょうど良いかもしれない。空も曇っているし、このまま暑くならなければ、雨さえ降らない限りコンディション的には悪くない。ただ、風は例年のように北西から吹いているから、前半は向かい風になるので、それが不安材料だ。

だんだんスタート時間が近づいてきたので、本日の目標を確認せねばならない。一応、どんなレースに出るときでも、第一目標は大会自己ベストの更新だ。それなりの練習ができていないときでも、あわよくば大会自己ベストは狙っている。もちろん、それなりの練習ができていないのに大会自己ベストが出た実績は無い。そんな甘い話は、ない。そして、特に今回は、最近の不調振りを考えると大会自己ベストは限りなく不可能に近いだろう。て言うか、直前の練習で20kmしか走れてない事を考えると、完走すら危ういかもしれない。

(幹事長)「ピッグは絶好調やから楽しみやなあ」
(ピッグ)「できたらサブフォーを狙いたいですねえ」


2月の海部川風流マラソン大会で4時間10分台を出しているんだから、サブフォーも時間の問題かも知れない。僕は、今のような状況だと、何回走ってもサブフォーは不可能に思える。この差は、一体どこから出てきたんだろうなあ。
ゾウさんは、今年も、2月の丸亀マラソンの後、僅か1週間後の坂出天狗マラソンに連続出場しており、好記録を出している。女子は終盤になっても力尽きないので、終盤に力尽きると負けてしまう可能性がある。

(ゾウ)「暴風雨だった去年よりは少しでもタイムを縮めたいですね」

國宗選手はフルマラソンは初めてなので、緊張感が身体から溢れている。て言うか、顔がこわばっている。それに比べて緊張感のカケラも感じられないのが支部長だ。

(幹事長)「どう?練習できてる?」
(支部長)「1週間前に40kmは走ったかな」
(幹事長)「ええっ!?よ、よんじゅっきろ?僕が20kmしか走れなくて愕然としていた1週間前に!?」
(支部長)「ただし自転車やけどな」


なんと支部長はフルマラソンの1週間前にランニングもせず、自転車で金比羅さんへ行き、その後、善通寺からJRで帰ってきたとのことなのだ。

(幹事長)「いくらなんでもフルマラソンを舐めてない?」
(支部長)「やっぱりマズかったかな?」


今日の現実的な目標は、支部長との2弱対決に勝つことだな。あまりに低い目標だけど。

(支部長)「今年は救護車が充実しているらしいで」

このレースは制限時間が7時間と長いため、途中から歩いても帰れるからだろうけど、救護車がほとんどいないのが欠点だった。ところが、今年は救護車が大幅に増強され、すぐにリタイアできるのだそうだ。

(幹事長)「それは良い知らせなのか悪い知らせなのか微妙やなあ」
(國宗)「え?良い知らせじゃないんですか?」
(支部長)「悪魔のささやきを知らんな。救護車の誘惑との戦いになるで」


支部長は11年前の第8回塩江温泉アドベンチャーマラソンで、しつこく誘ってくる救護車の勧誘に負けて救護車に乗ってしまった苦い経験がある。

(支部長)「あの時の救護車は、最初が消防車で、途中から救急車に乗り換えたなあ」
(國宗)「えっ!?しょ、消防車ですか?」
(支部長)「ええ経験したなあ」


なので、救護車が増強されたって事は、リタイアの誘惑が強くなったという事であり、我々落ちこぼれランナーとしては必ずしも良い知らせではないのだ。



スタート時間が近づいてきたが、後ろの方にいると前方で何やってるか全く分からない。参加者が1万人もいるので前が見えないのだ。ただ、あちこちにスピーカーが設置されていて、やたらゲストの高橋尚子さまのハイテンションの声が聞こえてくる。あたかも、そこに居るように聞こえるので、ちょっと戸惑ってしまうが、本物がどこに居るのかは分からない。

いよいよスタート時間となったが、後ろの方にいたので、しばらくは全く進まない。しばらく待って、ようやく動きだしたので、ダラダラと歩き始める。

(支部長)「おっ、あれQちゃんじゃない?」

見ると、道路の横の高くなった部分に誰か手を振っている人がいる。確かに、そっちの方からQさまの声がするが、なぜか、あんまりみんな群がっていない。あれなら近寄ればハイタッチできるかな、と思って近づいていくと、Qさまの後ろに簡易トイレが設置されている。ゲストの後ろに簡易トイレがあるなんて、おかしいなあ、なんて思ったが、近づいて見ると別人で、ただの観客だった。

(幹事長)「違うやんかあ!」
(支部長)「あれ?声がしたんやけどなあ」


スピーカーが設置されていたので、その声で勘違いしただけだった。
さらにしばらく歩くと、ようやく本物の高橋尚子さまが手を振っているのが見えた。かなり高い台の上に乗っていて、近寄ってもハイタッチできる高さじゃないので諦める。Qさまはずっとハイテンションでみんなに声援を送っている。

(幹事長)「あれだけハイテンションを維持できるって、すごいなあ」
(支部長)「今じゃ、あれが商売だからなあ」


商売だと分かってはいるけど、それでもQさまが声援を送ってくれると嬉しい。最近は、主なマラソン大会には、必ずQさまがゲストに呼ばれていて、露出度はとても高いが、飽きられることもなく、客寄せ効果は持続している。やっぱり彼女は華がある。

ようやくスタート地点を超えると、ゆっくりだけど小走りができるようになる。まだ歩いている人もいるが、ウォーミングアップ代わりに小走りする。その後もしばらくはノロノロと小走り状態だったが、だんだん、ゆっくりとはいえ走るスピードが上がっていく。ただ、今日はかなり後ろの方からスタートしたため、周りのランナーも遅く、なかなか気持ち良く走る状態にはならない。ただ、ここで焦ってランナーの間を右へ左へかいくぐって走るのは、エネルギーの無駄遣いになるので、焦らずに周りのペースに合わせてゆっくり走る。ハーフマラソンなら、これは致命的になるが、どうせ終盤は歩いてしまうフルマラソンなら、序盤の1分や2分は誤差の範囲だ。支部長もつかず離れず同じようなペースで走っている。
最初の1kmのタイムを見ると、驚くほど遅いが、ウォーミングアップ代わりと割り切って焦ってはいけない。次の1kmも、ほとんど同じペースだ。
2km地点を過ぎると、去年、新しく出来た阿波しらさぎ大橋を渡って吉野川の北岸へ行く。橋の手前では、だんだんペースが上がっていたのに、橋に上がる道が狭いため、再び渋滞になってノロノロペースになる。橋に上がっても、まだまだ混雑してて走りにくい。
走り始めると身体が温まり始めるうえ、混雑が激しくて密集しているので、だんだん暑くなる。この辺りで早くもビニール袋を脱ぐ。

(國宗)「ほらあ、やっぱり暑くなるでしょう。ウィンドブレーカーなんか着なくて良かったでしょ」


ただし、終盤、再び体が冷えるかもしれないので、ビニール袋は捨てずにポケットに入れておく。
橋の上で迎えた3km地点になっても、まだペースはほとんど変わらない

(幹事長)「いくら序盤はウォーミングアップ代わりと言っても、ここまでスローペースが長く続くと焦るよなあ」
(支部長)「ちょっと後ろからスタートし過ぎたかも」


橋の上は北向きに走るので、この区間は向かい風になるが、去年みたいな暴風雨じゃないから、それほど走りにくいことはない。
橋を渡ると、吉野川の北岸の堤防を西向きに走り始める。向かい風になるかと心配していたけど、今日の風は北西の風とは言え、どちらかと言えば北方向なので、それほど向かい風ではなく、右斜め前から吹き付けてくるって感じ。ただ、相変わらず道路の幅は狭いので混雑しているため、相変わらずペースは遅く、全然スピードアップできない
しばらく行くと、早くも5kmほど走ったところにある第一関門に着くが、いまだにスタート直後と同じスローペースだ。いくらなんでも5kmもウォーミングアップは要らないというか、だんだん取り返しがつかなくなるんじゃないかっていう焦りが出てきた頃、隣を走っている支部長が何か叫んでいる。最初は何か言っているのか分からなかったんだけど、前方を指しながら叫んでいる。

(支部長)「あれQちゃんやないの?」
(幹事長)「え?Qさまは今日、走ってるの?」



指差した方を見ると、後ろ姿からは誰だか分からないが、周囲のランナーが群がろうとしている女性ランナーがいる。ほんとにQさまだと、この機会を逃してはいけないので、慌てて人混みを掻き分けてなんとか追いつき声をかけると、本当にQさまだった。ハイタッチしてもらい、しばらく後をついて走った。支部長も一緒に追いついてきてハイタッチしてもらった。スタート地点では声援を送っていたから、全員がスタートしてから後ろから走り始めて、みんなを追い抜いていくんだろう。

(支部長)「全部走るんですか?」
(Qさま)「いえいえ、25kmくらいまでですよ」


それにしても、すごいサービス精神だなあ。これだけやってくれたら、そら人気も持続するわなあ。
しばらくQさまに着いていったおかげで、ようやくペースが上がり、なんとかフルマラソンの理想的なペースになった。このペースをどこまで維持できるかが勝負の分かれ目だ。

今日は序盤からウォークマンを聴きながら走る。東京マラソンのように、次から次へと景色が変わるようなコースなら退屈しないが、田舎のマラソンは基本的に風景が変わらないので退屈する。特に終盤疲れてきて、何のために走っているのか自問自答し始めると、精神衛生上悪いので音楽を聴いて誤魔化す。しかし今日は最初から気合が入っていないので、最初からウォークマンを聴きながら走る。

(支部長)「ま、緊張感が無いってことやな」

その後の数kmは良い感じのペースを維持して走る。9kmを過ぎた所にある第2給水所で水を取る。第1給水所では、まだペースも遅かったし喉も渇いてなかったのでパスしたんだけど、さすがに少し喉が渇いてきた。
ちょうど1/4が終わった辺りだが、ここまで支部長とは併走していたのに、気がつくと徐々に支部長が離れていき、着いていくのが少し、しんどくなる。まだまだ序盤の、こんな所で離されるのも情けないんだけど、過去のレース展開を振り返れば、支部長は前半は快走しても後半には例外なく一気にペースダウンするので、ここで無理して着いていって体力を消耗するのは避けるため、先行を許すことにした。

10kmを過ぎた辺りで、ポケットに入れてきたゼリーを食べる。後半に入ると給水所とかで色んな食べ物が出てくるが、それまではあんまり食べ物は無いため、この辺りでエネルギーを補給しておく必要があるのだ。て言うか、これも精神的なもんだけど。ゼリーは美味しいんだけど、口の中が甘くてベタベタになるので水が欲しいところだ。

エネルギーは補給したけど、即効性がある訳ではないから、この辺りから1kmごとのラップが、ほんの少しずつ、しかし着実の遅くなっていく。それで支部長が離れていったのか。彼がペースアップしたのではなくて、僕がペースダウンしているのか。とは言え、まだまだそんなに悪くはない。ここで踏ん張れれば、大会自己ベストも夢ではない。しかし、まだ1/4が終わったばかりでペースダウンし始めてるんだから、このままペースを維持できるはずはなく、このまま少しずつ遅くなっていくとすると、早くも大会自己ベストは絶望的な状態だ。ここで目標を、ライバル支部長との勝敗だけに絞る。

風は相変わらず強いが、真っ正面からの風ではないから、それほど体感温度は下がらず、ビニール袋を脱いでいても、そんなには寒くない。ただ、いくら真っ正面からではないと言っても、強風の中で走るのは走りにくい。それでも、とにかく前半だけでも大崩れすることなく恥ずかしくないペースを維持しなければならない。マラソンは非常に精神的なスポーツなので、気合が入るかどうかでタイムは大きく変わってくる。今日は前半だけでも気合を維持できたので、それほど大きなペースダウンすることなく高瀬橋を過ぎたところにある中間地点までたどり着いた。これで精神的に少し緩んでしまう。

さらにしばらく走ると折返しの西条大橋だ。去年までは橋を渡ると見せかけて、少し迂回するルートで精神的にきつかったけど、今年から、堤防からそのまま橋に曲がっていくコースになり、走りやすくなった。

西条大橋を南岸まで渡ると25km地点だ。ここまでなんとか走れると、なんだか目的は半分以上達成したような気分になる。そうなると、ますます精神力は緩んでいき、これ以上頑張ろうと言う気が急激に無くなっていく。南岸に移ったんだから、ここからは追い風っぽくなるはずなんだけど、その利点を生かせるほど体力は残っていない。

そして27km地点にある第7給水所に着いたら、もうおしまいだ。なぜなら、ここには徳島マラソンで一番の楽しみであるそば米汁の接待があるのだ。半田そうめんの接待もあるが、今日は暑いと言うより、強風のために少し寒いので、冷たいそうめんはパスして暖かいそば米汁を頂く。さらにトイレに行ったり水を飲んだりしていると、あっという間に5分も経ってしまった。いくら序盤で多少頑張ったところで、こんな所でダラダラしていたら、何の意味も無くなるけど、今日の体調では、この後はまともに走れるとも思えないので、もう居直って十分休んだ

レースを再開すると、十分すぎる休憩のおかげで、だいぶ落ちていたペースは若干上がった。快調に30km地点を過ぎると、おお、ようやく支部長の後ろ姿が見えてきた。もう歩くようにペースダウンしている。

(幹事長)「どしたん?」
(支部長)「足がつってしもた」


僕も、どこまで持つか分からないけど、取りあえず支部長を置き去りにして先を急ぐ。しかし、休憩の効果は長くは続かず、僕も足が痺れてきて痛くて走れなくなる。支部長を追い越したのが30km地点で、僕が歩き始めたのが32km地点だ。ここからはサバイバルゲームになる。
走れなくても、なんとか歩いていれば、少しずつでもゴールは近づいてくる。しかし、もう足が痛くて痛くて歩くことすら出来なくなり、道ばたにしゃがみ込んで足を上げて痛みをとる。すると気持ち良いくらい痛みが引いていく。しばらく休んで再び歩き始めると、またすぐに痛くなる。とても走るどころではなく、歩いたり休んだりの繰り返しだ。しかも、だんだん休む時間が長くなる。風は相変わらず強く、どちらかと言えば追い風なんだけど、走っていれば追い風は背中を押してくれる有り難い存在だが、歩いていると、単に背中が寒くなるだけだ。

このレースは沿道の応援が楽しくて、バンド演奏や阿波踊りなんかがあり、元気な時なら楽しめるが、今日みたいに痛い足を引きずっていると、それどころではなくなる。道ばたにしゃがみ込んで、支部長はまだかなあ、なんて思いながら通り過ぎるランナーを見ていると、先に國宗選手がやってきた。結構、確かな足取りで走っている。

(幹事長)「おおっ、快走してるやん」
(國宗)「違いますよ。あっちこちで休憩の連続ですよ」


確かに、休憩でもしなければ、こんな所を走ってないだろう。

再び立ち上がって足を引きずりながら歩いていると、ちょうど35km地点で支部長に追いつかれる。

(幹事長)「足なおったん?」
(支部長)「だましだまし」


このままあっさりと勝負を諦めて支部長の後ろ姿を見送ろうかとも思ったけど、せっかく支部長と再会したんだから、「ここでちょっとは気合いを入れて一緒に行こう」と思い、再び走り始める。そしたら、なんと、不思議なことに、あれほど足が痛くて歩くことすら苦痛だったのが、痛むことなく走れる。それまで足を引きずっていたのが嘘のように、快調に走れる。ペースは悪くない。本当に不思議だ。マラソンって、やっぱり精神的なものなんだなあ
ところが、「このまま最後まで頑張れれば、そこそこのタイムになるぞ」って支部長に言おうとした瞬間、支部長がいきなり歩き始める。

(幹事長)「あれれ。どしたん?」
(支部長)「また足がつった」


せっかく快調に走れていたのに残念。36km地点で、再び支部長を見捨てて、そのまま走る。支部長と離れて再び孤独な戦いとなったけど、入れ直した気合は不思議に持続し、なんだかすごくやる気が出てきて、快調に走り続けられる。残り6kmだ。こうなると、走るのが気持ち良くなってくる。こういう精神状態を自分でコントロールできたら良いタイムが出るんだろうなあ。なかなか自分ではコントロールできなくて、状況に身を任せてしまうけど。

その後も快調に走っていたんだけど、40km地点辺りで、ほんの少し坂があった。普段なら、ぜーんぜん大したこと無い短い坂なんだけど、疲れた足には堪えてしまい、急にペースダウンしてしまう。こうなると、せっかく盛り上がっていた気分が一気に萎えてしまい、とたんにやる気を失ってしまった。誰か一緒に走っていたら、なんとかお互いに励まし合って乗り切れたかも知れないけど、一人でやる気を失うと、もうおしまいだ。そのままズルズルと歩いてしまい、再び足を引きずる残り僅か2kmだけど、もう入る力はなく、ダラダラと歩き続ける。もう精神的に立て直すのは不可能で、残り1kmを切っても走れず、最後の最後で競技場に入ってから走った。
すると、ゴールの直前で再び高橋尚子さまがコースの真ん中に立ってランナーを迎えてくれている。すごいなあ。今日はこれで3回目だ。当然ながら再びハイタッチしてもらってゴールする。Qさまとハイタッチすると一気に元気が回復するが、ゴール直前で回復したって何の意味もない。心が折れそうになった時に声援してくれたら歩かずに済んだかもしれないのになあ。

あまりにも悪いタイムで情けないけど、なんとかゴールできてホッとした。終盤、再び歩いたおかげで足は痛くない。昔はゴールしたら足が痛くて動けなくなったものだが、最近は頑張れてないから余力があり、ゴールしても平気で歩ける。これが情けない。走っている時の足の痛みは、しびれたような痛みで、筋肉痛って感じではない。筋肉は余力が残っているような感じだ。どうやったら痛みを抑えて全力を使えるんだろう。35km地点から数kmは支部長効果で元気に走れたから、なんとか精神力でコントロールできそうな気もするんだが。

そそくさと着替えて電話すると、ピッグと國宗選手は既に着替えて、支部長をゴールで迎えたところだった。

(幹事長)「どうやったん?」
(ピッグ)「サブフォーは無理でしたけど、まあまあでしたよ」


なんとピッグは4時間20分ちょっとの好記録だった。やっぱり絶好調を維持しているようだ。しかもピッグは高橋尚子さまに4回も会って元気をもらったと言うのだ。

(幹事長)「どこで会ったん?」
(ピッグ)「最初の5km地点で一緒に走っただけでなく、ゴールまで数kmの辺りで再び一緒に走りましたよ」


残り数kmの辺りで出会えていれば、僕もそのまま順調に完走できたのにああ。

國宗選手も5時間は切ったから、初マラソンにしては満足できるタイムだ。
支部長は、僕と別れた後、足は回復せず、走ったり歩いたりの繰り返しで、僕のすぐ後にゴールした。かろうじて支部長に勝ったとは言え、こんな悲惨なタイムの低レベルの戦いでは、勝った喜びは無く、情けなさが残るばかりだ。

(支部長)「ウエストポーチを忘れたから、エネルギー源も買い食いのためのお金も持てなかったんが敗因やなあ」
(幹事長)「いや、1週間前に自転車で金比羅さんまで行ったんが原因やってば」


さらに、しばらくしてゾウさんもゴールした。なんと今年も全く歩かずに最初から最後まで一定のペースを維持できたらしい。

(ゾウ)「少しだけど、去年よりタイムが良かったですよ」
(幹事長)「うわあ、良かったやん。おめでとう」


35kmからの支部長効果で数kmはちゃんと走れたから、なんとかゾウさんに勝ったけど、あの支部長効果が無かったら、ゾウさんに負けていたかも知れない。



その後は例年のように、うどんコーナーへ行き、暖かいうどんをすする。それからバスで駐車場まで戻るが、今日は高松へは直行せず、温泉に行くことにした。支部長がネットで探したら、高速のインターへ行く途中に「あいあい温泉」てのが見つかった。天然温泉のスーパー銭湯とのことだ。駐車場はいっぱいだったけど、温泉の中は広くて、そんなに混雑はしてなかった。露天風呂もあり、気持ちの良い温泉だった。

(ピッグ)「露天風呂と言えば、昔、塩江温泉で良い事がありましたもんね
(幹事長)「しっ、それはゾウさんには秘密や」

十分すぎるほど露天風呂に浸かって揉みほぐすと、疲れた足も癒される。汗も洗い流してさっぱりだ。て事で、今後は、レース後は温泉に入ることにする。

(幹事長)「それにしても、35km地点で支部長と出会って、それまで足が痛くて歩くのも困難だったのが、
       スッと痛みが無くなって走れるようになったのが不思議やなあ」
(ピッグ)「マラソンって精神的な要素が大きいですよねえ」


十分なトレーニングは重要だけど、精神的な自己コントロールの重要性を痛感させられたレースだった。



さて、次のレースだが、例年なら徳島マラソンの後は1ヵ月後の小豆島オリーブマラソンに出る。しかし今年は、その1週間前に、自衛隊の徳島航空基地で開催される徳島航空基地マラソン大会なんていう超マイナーなレースに出ることにした。ピッグが去年、開拓し、初参加したものだ。青森の三沢の米軍基地でも似たようなマラソン大会があったが、基地で開催されるマラソン大会は、間近で飛行機が見られるので面白い。距離は10kmなので、オリーブマラソンの1週間前なら、ちょうど良い練習代わりにもなる。開催まで1ヵ月もないので、普通のマラソン大会なら、とっくに申込期限は過ぎているところだが、自衛隊の主催なので、まだ受け付けてくれた。なんだかワクワクするレースだ。頑張ろう!


〜おしまい〜




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