第9回 弘前・白神アップルマラソン大会 

〜 フルマラソン自己ワースト記録 〜



2011年10月2日(日)、第9回弘前・白神アップルマラソン大会が開催された。
去年の春まで青森にいたピッグ増田が3年前の第6回大会に参加して開拓した
青森県内唯一のフルマラソン大会だ。四国のマラソン大会のような厳しい坂もなく、津軽富士と呼ばれる岩木山を見ながら、赤く色づいたリンゴ並木の中を走る快適なコースだし、ゴールすると美味しい林檎をくれるということで、僕も一昨年昨年と参加したのだ。確かに、アップダウンが少ないだけでなく、月刊ランナーズの優良レース人気投票100選にも選ばれているレースだけあって、リンゴ並木の中を走る気持ちの良いコースだった。

(幹事長)「でも、この大会って、まだ9回目かあ。由緒ないんやなあ」
(ピッグ)「そうですね。青森県内でも一番、新しいレースかも」


僕が今年出た青森県内のレースでは、わかさぎマラソンが第26回だったし、南部町うぐいすマラソンなんて本当にショボいレースだったけど第27回だったし。八戸うみねこマラソンは今年は東北大震災で中止になったけど、去年は第29回だったし。

(ピッグ)「だから8年前まで青森県にはフルマラソンは無かったってことですね」
(幹事長)「マラソンレースが多い県なのに意外やなあ」


このレースは
開催時期がクセ者だ。通常、フルマラソンって、秋から冬、春にかけて開催される。短い距離ならどんな時季でもなんとか走れるかもしれないけど、ハーフマラソンやフルマラソンになると寒いくらいの時季でないと、なかなか走れないからだ。それはレース当日だけの話ではなく、レースに備えた練習の時もそうだ。つまり、10月になって少し涼しくなってきたからと言って、いきなりフルマラソンが走れるかと言えば無理だ。9月までの暑い時期に、そんなに練習ができてる訳ないからだ。フルマラソンを完走できるだけの練習をしてから参加するとなると、どんなに早くても11月末の小豆島の瀬戸内海タートルマラソンになる。
しかし
雪国の青森では、12月〜4月は雪のためレースができず、春から夏、秋にかけてがマラソンシーズンとなる。わかさぎマラソンが7月末なんていうとんでもない時期に開催されるのは、そういう理由だし、この弘前アップルマラソンも10月早々に開催される。いくら青森でも11月までは雪も降らないんだから、もっと遅くてもいいような気がするけど、11月になると寒くなりすぎるためか、10月早々にはマラソンシーズンが終わってしまう。

しかし、
10月早々に開催されるフルマラソンに合わせて練習ができるかと言えば、青森の人はいいかもしれないけど、僕には不可能だ。たいてい週末は高松に帰っているから、まとまった練習は高松で走ることになるのだけど、8月はもちろん、9月だって高松はまだまだ強烈に暑い。せいぜし5kmくらいしか走れない。曇って気温が低めの日でも10km走るのが限界だ。

(ピッグ)「平日は、そんなに走れませんからねえ」
(幹事長)「死の発狂ランニングマシーンではなあ」


夏場なら会社が終わってからでも外を走れるけど、青森県は日本の北東部にあるため日が沈むのが非常に早く、9月になると仕事が終わって寮に帰れば外は真っ暗で走れない。そうなると寮のトレーニング室のランニングマシーンに乗って走るしかないけど、これが死ぬほどつまんない。同じ場所でピョンコピョンコと走ったフリするだけの、超つまんないイライラする機械だ。ストレス解消どころか
ストレス製造発狂マシンだ。体力ではなく精神力養成ギブスだ。懲役3年ランニングマシーン3年の刑だ。せいぜい3km、むちゃくちゃ気合を入れても5kmが限界だ。

(ピッグ)「あれで5kmも走れるなんて、すごいですね」
(幹事長)「さすがにフルマラソンの直前になると焦りがすごくてね」


もちろん、フルマラソンに出るのに、5kmなんか走ったって、あんまり意味は無い。圧倒的な練習不足だ。ずっと焦りは感じてて、決して
怠けて練習をサボってたわけではないのだ。走ろうとしても、暑くて練習ができなかったということだ。9月は一番頑張った日でも10kmくらいしか走れなかった。足が動かなくなって、それ以上、走れなかったのだ。

(ピッグ)「あれ?デジャブのような感覚。去年も全く同じ事を言ってませんでしたか?
(幹事長)「この道はいつか来た道。ああ、そうだよ、去年も同じだったよ〜」
(ピッグ)「で、その結果、去年は途中棄権した、と」
(幹事長)「青春のほろ苦い思い出だなあ」


こういう極端な練習不足状態だから、タイムは一切、気にせず、
完走さえできればそれでいい、完走だけが目標だって思っているのだけど、去年も同じ事を思いながら途中棄権したから、今年も危ない状況だ。

(ピッグ)「一昨年は完走はしましたよね」
(幹事長)「完走と言うか完歩というか」


一昨年は夏があんまり暑くなかったこともあり、去年や今年よりは練習ができていたので、途中までは快適に走れたのだ。ただ、残り5kmという所で突然、足が動かなくなって、残りは足を引きずるように歩いてゴールしたから、なかなか厳しいレースだ。

(石材店)「て言うか、そもそもフルマラソンで最後までまともに走ったことないじゃないですか」
(幹事長)「そやな。残り5kmまで快適に走っただけでも珍しいかも」


最後は歩くにしても、一昨年のように残り5kmなら歩いてでもゴールしようという気持ちも起こるけど、去年みたいにまだ10km以上も残った時点で足が痛くなると、さすがに歩いてゴールしようという気は起こらない。今年は、どこで足が止まるかが勝負の分かれ道だ。

(石材店)「早くも完走を放棄してますけど」
(幹事長)「おや?」



今年も前日に弘前に移動する。狭い四国なら、隣の徳島県のマラソンだって、朝、高松の自宅を出発しても十分、間に合うけど、同じ青森県内のレースとは言え、青森県は広くて香川県の5倍以上もあるから、当日の朝、出発するのは無謀すぎる。眠い目をこすりながら何時間も車を運転して到着するのでは、レース前からくたびれてしまう。
一昨年はホテルの予約を取るのが遅くて、レース会場から遠いホテルしか取れず、レースが終わってホテルに帰るのに足を引きずって苦労したから、去年と同様にレース会場から近いホテルを早めに予約した。ところが、今年は、レース直前になっても、近辺のホテルはどこも空室だらけだ。一体どういうことだろう?東北大震災の影響で、まだまだ客足が悪いのかなあ。遠方からのマラソン参加者の数も少ないかも。

当日の朝は、できるだけギリギリまでホテルで寝ていたいので、受付は前日に済ませておく。その後、ヒマになるので、弘前城に散歩に行く。弘前は、なんと言っても弘前城の桜が有名だが、桜が咲いていない時の弘前城は、ま、大したことはない。おまけに、いきなり雨が降り出してきたりして、早々に引き上げる。数日前まで青森もまだまだ暖かかったんだけど、急に冷え込んできて、しかも雨が降ったり止んだりで、明日の天候が不安だ。
夕食は、一昨年はカーボローディングのつもりで大盛りラーメン食べてお腹を壊し、元も子もなくなったので、控えめに取る。そもそも、前日に大量に食べたって、カーボローディングとしては手遅れだし。最近、以前にもましてお腹の調子が悪くなりがちで、だいぶ神経質になっている。

(石材店)「僕の苦しみが分かりましたか?」
(幹事長)「強迫観念に取り付かれました」


レース前にお腹を壊すのも辛いけど、レース中にお腹を壊すのは最悪で、3年前の徳島マラソンの悲劇以来、気を付けているんだけど、何が原因か分からないけど、時々お腹を壊してしまう。

(石材店)「で、何食べたんですか?」
(幹事長)「味噌ラーメンと焼肉丼のセット」
(石材店)「どこが控えめなんですかっ!全然、身に沁みてないないじゃないですかーっ!」


最近、読んだ新聞記事によると、
レース当日の朝食は、自分の予想ゴール時間から逆算して6時間前が良いのだそうだ。今日のスタートは9時で、完走さえすれば良いという目標だから、5時間近くかかることが予想されるので、そうなると朝食は8時ということになる。直前すぎるような気がするけど、それで良いのだそうだ。なので、朝は7時までゆっくり寝て、それからゆっくりシャワーを浴びたりして、余裕をかましながらホテルのレストランに下りていく。翌朝のホテルの朝食はバイキングだった。貧乏根性の僕は、バイキングとなると、欲しくもなくてもあれやこれや大量に食べてしまうのが常だが、さすがにレース直前だから、ご飯と梅干程度にする。

ホテルから会場はすぐ近くなので、そのまま走れる恰好に着替えて、スタートギリギリに会場へ向かう。

(石材店)「まさかホテルから会場までがウォーミングアップですか?」
(幹事長)「いやいや、とんでもない。レース前に無駄なエネルギーは消費したくないから、ホテルから会場まではゆっくり歩きだ。
       ウォーミングアップはレースが始まってからだ」


今日の天気予報は、山沿いでは雪が降るほどの寒気が入り込み、降水確率80%なんていう、とんでもないものだったから、何を着ようか悩んだ。半袖Tシャツじゃあ寒そうだし、長袖Tシャツでも寒そう。長袖Tシャツの上から半袖Tシャツを重ね着することに。ところが朝起きてみると、なぜが朝日が差し込んできて、そんなに寒くなさそう。いくら寒気が入り込んできても、天気が良けりゃあ半袖Tシャツで十分だ。ところが遠方の空を見ると、不気味な黒い雲が佇んでいる。あれが来るのか来ないのか分からないけど、ちょっと怖いので、あいだを取って長袖Tシャツにする。

ホテルからプラプラ歩いていくと、ちょうど良い感じ。風も無いし、天気が良くて気温が低目ってのは、絶好のマラソン日和だ。スタートラインにもギリギリに並ぶ。そこで始めて屈伸運動とかして、体をほぐす。
何度も言うように、今日は好タイムなんて狙う余裕は無くて、ほんと完走できればラッキーという状態なので、後方からのスタートする。前方からスタートして周囲のランナーに影響されてオーバーペースになるのは避けなければならない。作戦も、普通なら、終盤にペースが落ちるのを見越して、前半でどれだけ貯金できるかを計算したり、あるいは終盤まで一定のペースを維持するために、前半からどこまで抑えて走るか、なんて計算をするのだけど、今日は最後まで走ることだけが目標なので、計算もクソもない。とにかく終盤でも足が止まらないように最初からゆっくり走るのを心がけるだけだ。

てな感じで、フルマラソンの前だと言うのに何の緊張感も無くスタートを待っていると、おや、雨がポツリ。なんと、遠くにあった黒い雨雲がどんどん近づいてきた。いつの間にか晴れ間も消えている。慌てて穴あきビニール袋を被る。そう言えば、一昨年も、スタート地点に並んだ時は良い天気だったのに、遠方から黒い雲が確実に近づいてきて雨が降り始め、その後、どんどん激しくなっていった。去年もスタートして早々に雨が降り出し、寒さで体が硬くなり、遂にリタイアした。3年連続で雨が降るなんて、この時季の弘前ってマラソンに向いてないんじゃないの?もっと暖かければ最近は雨も苦にならないって言うか、去年のオリーブマラソン以来、むしろ雨の方がタイムが良かったりするから歓迎だけど、寒いうえに雨ってのは、5年前の瀬戸内海タートルマラソンに代表されるように、辛くて厳しい。とにかくビニール袋を被って、普段なら被らない帽子も被って雨に備える。



いよいよ9時にスタート。まず最初は、しばらく下り坂がある。ここで調子に乗って飛ばすと気持ち良いんだけど、それをやってしまうと終盤に足が動かなくなるので自重する。前半はできるだけ抑えて走らなければならないのだ。まずは軽くジョギングの気持ちで走る。最初の5kmまでの1kmごとのラップは、まあ、こんなもんか。理想的な遅さだ。これだけ抑制できていれば、終盤に悪影響は無いだろう。むしろ、そんなに意識してないのに十分すぎるほど遅いっていう方が、ちょっと不安。途中棄権した去年に比べても、明らかに遅い。まあ、去年は序盤で抑え切れなかったから終盤で力尽きたのかもしれないけど。
雨は強まる一方だけど、もう諦めているので、それほど苦痛ではない。ただ、寒さが気になり始める。やっぱり長袖Tシャツと半袖Tシャツを重ね着するべきだったか。悩んだときは多目に着込んだ方が良かったはずだなあ。
今日は最初から完走だけが目標の耐久レースなので、精神的には辛い。目標タイムとかあれば気合も入るし、時計を見ながら一喜一憂とかしたりするんだけど、タイムは関係なく、最後まで走れれば良いというだけなので、途中はひたすら走るのみだ。なので超退屈。て事で、今日は最初からウォークマンを聴きながら走る。こないだ読んだ新聞の記事では、練習時にウォークマンなんか着けて走る事に否定的な専門家もいたし、会社の陸上部の指導者に聞いても、「そんなん着けて練習してるようじゃ甘い。もっと真剣にトレーニングやれ!」なんて言われた。練習においてすら駄目なのに、本番のレースでウォークマン聴きながら走るなんてとんでもないのかもしれないけど、そりゃあ速い人はいいかもしれないけど、僕みたいに5時間もかけて走ろうかというランナーにとっては、ちょっと長すぎて退屈してしまい、ウォークマンでも無けりゃあ、うんざりして嫌になってしまう。

5kmほど走って市街地を抜けると、アップルロードという道に入る。両側にはリンゴ畑が広がり、赤い実をいっぱい付けたリンゴの木が並ぶ。実は、この辺りは多少アップダウンがある地区で、上り坂の時は終盤には堪えてくるんだけど、行きはまだ元気があるから全然、苦にならない。大した坂ではないのだ。天気が良ければ前方には岩木山がそびえて良い景色のはずなんだけど、3年連続で雨のため視界不良だ。
ペースは計画した通りと言うか、それ以上のゆっくりしたペースになっている。決して意識して抑えているのではないのに、かなり落ちている。これは、はっきり言って、調子が悪いのではないだろうか。リタイアした去年より明らかに遅すぎる。空だけでなく心の中にも暗雲が立ち込める。この遅いペースを、どこまで維持できるか、が勝負になってきた。遅いのは遅いけど、このままのペースで維持できれば、そんなに悪いタイムでもない。

(石材店)「あれ?タイムの事は気にしてないんじゃなかったですか?」
(幹事長)「そうは言っても、心の片隅で少しは意識してたりして・・・」


リンゴ畑の間の坂が混じる曲がりくねった道を5kmほど走って10km過ぎのハーフマラソンの折り返し点を過ぎると、岩木川に並行した道に出る。これから先は、折り返し点までひたすら上流に上っていく。非常に緩いとはいえ、ずうっと微かな上り坂が10km続くのだ。前半の余力がある時に上り、後半の疲れた時に下るというのは理想的なコースと言える。しかし今日は、調子が悪いためか、どんどんタイムは悪くなっていく。この調子じゃ、密かに狙っていたフルマラソン自己ベストは限りなく難しくなってきた。

(石材店)「自己ベストなんか狙ってたんですかっ!?」

レースに出るからには、やはり一応は自己ベストは狙っていたけど、狙っていたと言っても、それに向けて頑張っていた、という意味ではなく、そうだといいなあって思っていたくらいで、特に頑張ってたわけでもなければペース配分を考えていた訳でもなく、単に自然体で走っていただけだ。まだ前半だと言うのに、足は既に疲労感で動きが鈍く、どう考えても完走できそうにない状態だ

なんとかヘロヘロになりながら21kmの折り返し点まで来たが、ハーフマラソンでも21kmでこんなに悪いタイムでこんなに疲れた事はない。自己ベストどころか、完走すら、もう絶対無理

(石材店)「まさか、早くも2年連続で途中棄権?」
(幹事長)「もうちょっと頑張ってみます」


折り返し点を過ぎると、給水所に水だけでなくバナナやリンゴなんかの食べ物も支給してくれるようになる。お腹が空くと力が出ないので、迷わず頂く。ただ、これで食べ過ぎてお腹を壊すこともあるので、一度に大量に食べず、できるだけこまめに食べる。タイムを気にする時は走りながら食べたりするけど、今日は「食べる間だから仕方ないよな」なんて言い訳しながら立ち止まって休みながら食べる。ついでに、ふくらはぎにスプレー吹いたりしながら休憩する。
しかし、食べ物を補給しながらも、ペースはどんどん落ちていく。急激に落ちていく。折り返してからの10kmは、岩木川に並行した緩い緩い坂を下る道なので、極めて微かな勾配とは言え楽なはずなんだけど、そんな事は全然感じないほど疲れ切っている。雨も降ったり止んだりとは言え、降るときは結構、土砂降りで寒い。手がかじかんでしまい、給水所で取ったバナナの皮がむけない状態だ。仕方ないから口で皮をむいて放り込む。

去年は25kmを過ぎた辺りからガンガンペースが落ちていき、30km付近で足が痛くて走れなくなり、このまま完走するのは不可能と悟り、リタイアした。しかし、今年は、それよりもさらに遅い。せめて去年リタイアした地点までは走ろうと思って、足を引きずりながらたどり着いたけど、なんと去年より20分近く遅い。どう考えても完走は無理だ。

(石材店)「で、リタイアですか?」
(幹事長)「そこが悩むところなんよ」
(支部長)「何を悩んでるん?途中棄権は癖になるから、一度やると抵抗はないやろ?」


途中棄権は慣れっこだから、プライド的に失うものは無い。平気だ。小豆島の瀬戸内海タートルマラソンなら悩まずにすぐにリタイアする。救護車がすぐに駆けつけてくれるからだ。ところが、このレースは、去年の経験からすれば、なかなか救護車が来ない去年は冷たい雨が降る中、なんと1時間近くも待たされた。走っていても雨は冷たいのに、走るのを止めた体に雨は容赦なく降り付け、体は芯から冷えて震えが止まらなくなり、とても辛い思いをした。あんな寒い中、ぼうっとひたすら待つくらいなら、とぼとぼ足を引きずりながらも歩いたり走ったりしながらゴールした方が早かったんじゃないかって後悔した。今年も天候は去年と同じで、この冷たい雨の中、ひたすら待つくらいなら、歩いてでも自力で帰った方がマシかも、なんて思うのだ。ただ、問題は、まだ11kmもあるって事だ。一昨年は、残り5kmの地点まで調子よく走っていたのに、そこで突然、足が動かなくなり、歩くしかなくなり、それから後は、少し歩いては少し走っての繰り返しになったけど、それは残り5kmだからできたことであり、11kmもそんな事ができるのか。非常に厳しいような気がする。そう思ったからこそ、去年はリタイアしたのだ。
ただ、悩む理由はもう1つあって、去年は救護車を待ってる間に足がかなり回復してしまい。会場に連れ戻された後は、足取りも軽く、ホテルに戻った。そんなに簡単に回復するくらいなら途中棄権する必要は無かったんじゃないか、って後悔したのだ。どうしても歩けなくなれば、途中でしばらく休めばいいだけだと居直って、取りあえず今年はリタイアせずに進むことにした。

終盤の給水所は、小さく切ったリンゴがある。疲れた体にものすごく美味しい。ただ冷たい物を食べ過ぎるとお腹を壊すので、少量で我慢する。小さく切ったパンや梨もあった。体が冷えているので、できることなら暖かいスープなんかあれば嬉しいところだけど。

(石材店)「マラソンの途中でスープですか!?」
(幹事長)「徳島マラソンは汁ものがあったぞ。疲れた体には暖かい汁ものが嬉しいぞ」


なんとか歩き続けてみたものの、31km辺りからはリンゴ畑の中に入り、多少のアップダウンが出てくる。多少ってのは冷静に見たときに基準であり、今のように足を引きずっている状態では、少しでも上り坂だと歩くのも苦しい。このレースの良い点というか悪い点というか、特徴は、やたら係員が多いところだ。普通は、車が出てきそうな交差点なんかには配置されているけど、それ以外には、そんなにいない。ところが、このレースは給水所が少ない割には、逆に係員が異常に多い。係員は車の交通整理なんかをやってくれるのだけど、当然ながらランナーに「がんばれー」なんて声を掛けてくれる。元気に走っているときは嬉しいのだけど、足を引きずって歩いているときはプレッシャーになる。なので、係員がいると、ちょっと手前から無理して走ったりする。それを過ぎるを、また歩くんだけど、これが結構、きつい。まあ、しかし、それがあるからこそ、少しは走りを入れながら歩いている訳だから、やはり有難いことかもしれない。とは言え、基本的にアップダウンのある地区なので、基本的に歩きばかりだ。僕だけでなく、こんなタイムで進んでいるランナーは、みんな歩いている。歩かなければ、もっと早くゴールしているはずだ。

アップダウンのある地区を過ぎるて、35km辺りからフラットな地区に入ると、もう走れないと思って歩いていたのが、少し走れるようになってきた。これは意外だ。歩き続けて足が少しは回復したのかもしれない。もちろんペースは走っているとは言えないくらい遅いんだけど、歩くよりはマシだ。周辺には似たような状態のランナーがたくさんいて、お互いに歩いたり走ったりの繰り返しで、抜きつ抜かれつだ。全然、走らずに速いペースで歩き続けるランナーもいて、走って抜いても歩き始めるとすぐに抜き返されるから、これが結構、強敵だったりする。
しかし、なんとか走れたのも、ほんの3kmくらいで、残り4kmてところで遂に力尽きて歩けなくなってしまう。仕方ないから、もう居直って道端に腰を下ろして休む。休むとふくらはぎなんかがジワーっと疲れがほぐされて快感だ。このままずうっと休んでいたい。でも、ライバル視していた周辺ランナーに次々と追い越されていくと、やっぱり焦ってしまい、再び歩き始める。一度、本格的に休むと、体がすっかり終末モードに入るから、走りどころか歩きを再開するのも苦痛だ。足が固まって動かなくなるのだ。歩くのも痛い。痛くて必死だ。逆に走ってみたりすると、少しは行けるけど、すぐに無理になる。でも、もう自力でゴールするしかないので、休んだり歩いたり少し走ったりの繰り返しだ。

てなところで、突然、陸上部のメンバーが一人、沿道でカメラを構えていたので、思わず笑顔でポーズを取った。彼は今日はアキレス腱痛で走らなかったそうだ。こんなに遅い僕を待っていてくれたのかと思ったら、そうではなく、もっと遅いメンバーが一人いて、それを待っていたそうだ。僕より遅いなんて、もう途中棄権したんじゃないかって思ったけど、後から聞いたら、足が痛くなって30km辺りからは歩くようなペースだったらしい。同じだなあ。
その後には、スタート直後の長い下り坂が逆に上り坂になって待っていて、当然ながらみんな歩いている。元気な時なら大した坂じゃないけど、歩くのも苦痛だ。それが終わると、最後の1kmくらいは、さすがに走らないと恥ずかしい。
ところが!ここで信じられない事態が!このマラソンは制限時間は6時間なので、歩こうが這おうがリタイアさえしなければ自力でゴールできる。しかし、知らなかったんだけど、終盤になると制限時間内なのに交通規制が解除されてしまうのだ。それって、なんか変!途中で車道から歩道に上げられてしまうのだ。もう、びっくり。

(石材店)「歩道は走りにくいですよねえ」
(幹事長)「いや、もう走ってないから平気」


むしろ、交通規制してる車道をトボトボ歩いていると、車を止めている係員や警察官に恥ずかしいくらいなので、歩道があるなら歩道を歩きたい気分。なので、それは良い。しかし、交通規制が解除されると、車道から歩道に上げられるだけでなく、交通信号も守らないといけなくなる。つまり、赤信号になると止まらなければならないのだ!

(支部長)「それは、すごい!さすがに私もマラソンレース中に赤信号で止まるなんて経験はないなあ」


せっかく最後の最後は走ってゴールしようと思って走っているのに、赤信号で、しかも車も通ってないような小さな交差点で、信号が変わるまで待つなんて、ほんと情けないったらありゃしないわさ。

(石材店)「そこまで遅いのが悪いんですよね。自業自得ですね」
(幹事長)「でも、普通、制限時間内なら交通規制は解除されんだろ?屈辱だよなあ」


最後の最後で辛い仕打ちに合いながらも、なんとか自力でゴールした
ゴールすると完熟リンゴがもらえる。このレースの一番嬉しいところだ。これを、そのままかぶりつくと、本当に美味しい。ただ、いくらリンゴが美味しくても、あまりの惨敗に情けなくなる。敗因は、圧倒的な練習不足以外の何物でもないだろう。最初からもうちょっと強気で攻めれば、もう少しは頑張れたかもしれないけど、どっちにしても、どこかで力尽きていたのは間違いない。五十歩百歩だろう。

(石材店)「で、どれくらい悪かったんですか?」
(幹事長)「なんと驚くな!
フルマラソン自己ワースト記録だあっ!
(石材店)「え?密かに自己ベストを狙っていたのに、自己ワースト記録やったんですか?」
(幹事長)「はい」
(石材店)「前半、調子に乗って飛ばしたツケが回って終盤、道端にしゃがみ込んで泣いていた加古川マラソンより
       悪かったんですか?」
(幹事長)「はい」
(石材店)「お腹を壊して途中20分もトイレで苦しんでボロボロになった3年前の徳島マラソンより悪かったんですか?」
(幹事長)「はい」


こんなところで自己ワースト記録を叩き出すなんて、思ってもみなかった。

圧倒的な底力で見事復活優勝を遂げた筆者

(ピッグ)「たしか去年のわかさぎマラソンではハーフマラソンの自己ワースト記録を出してませんでしたか?」
(幹事長)「はい」


もしかして、青森のレースは僕には鬼門なんだろうか。

(ピッグ)「でも、青森に赴任してから、出るレース出るレース、大会自己ベストを更新し続けてるって豪語してましたよねえ」
(幹事長)「うん、そうなんよ」


一昨年の春に青森に異動になって以来、一昨年の庵治クォーターマラソン瀬戸内海タートルマラソン去年の徳島マラソン小豆島オリーブマラソン今年の丸亀マラソンと、地元のレースでは軒並み大会自己ベストを出している。これは何故だ!?
たぶん、青森のレースは、真夏の7月のわかさぎマラソンはもちろん、10月初めの弘前アップルマラソンだって圧倒的な練習不足だ。9月まで四国は暑くてロクにトレーニングができてないからだ。しかし、そんな時季にもレースに参加している事が功を奏して四国のレースでは好結果を残しているのではないだろうか。

(ピッグ)「いつもながら分析は得意ですねえ」
(石材店)「分析と言うか屁理屈と言うか」
(支部長)「どうせ、すぐ結果はわかるし」


そう、結果はすぐに分かる。3週間後には庵治クォーターマラソンがある。これは12kmレースなので、練習不足かどうかなんてあんまり関係ないけど、今年はさらに2週間後に徳島マラソンがある。弘前アップルマラソンから僅か1ヵ月後に再びフルマラソンがあるのだ。こんなん初めてだ。

(ピッグ)「悪夢が再び、ですか?」
(幹事長)「いやいや、今度こそ自己ベストを狙うぞ!」


徳島マラソンは本来は春に開催予定だったのが、東北大震災の影響で延期になっていたのだ。なんで徳島で東北大震災の影響があるのか理解に苦しむんだけど、そのせいでフルマラソンが続いてしまうのだ。本来はフルマラソンは春に1回、秋に1回の予定だったのに。ただし、今回、歩きながらとは言えフルマラソンをゴールして僅か1ヵ月後なので、もう練習なんかしなくても楽勝だろう。
そして、今年は、さらに、その3週間後には瀬戸内海タートルマラソンがある。さすがに、これはフルマラソンは避けてハーフマラソンにするのだけど、これも勢いを持続させてハーフマラソンの自己ベストを更新したいぞ。

(ピッグ)「勢いを持続させて、って言ってますけど、今のところ全然、勢い無いんですけど」
(石材店)「妄想の世界ですね」


とにかく、今年はなんと、2ヵ月の間にフルマラソン2回とハーフマラソン1回と12kmレースがあるという超過酷なスケジュールになってしまったのだ。これを好機と捉え、なんとか好記録を残したいぞ。


〜おしまい〜




戦績のメニューへ