第35回 瀬戸内海タートルマラソン大会
2014年11月30日(日)、小豆島において第35回瀬戸内海タートルマラソン全国大会が開催された。
(幹事長)「今回もできるだけ短い記事を目指します」
(石材店)「去年も言うてたけど、結局、ダラダラ長かったですよ」
先月のサイクリングしまなみ2014の記事は、ダラダラと書いていたら1ヵ月遅れのアップとなったので、今回は速やかにアップできるように簡潔に書きます。
(石材店)「その前の龍馬脱藩マラソン大会なんか、大会が中止になったのに、結構、長かったですよねえ」
(幹事長)「大会に行くまでに熾烈な戦いが展開されたからな」
毎年、書いてるけど、この瀬戸内海タートルマラソン大会は、僕にとっては初めて参加したマラソン大会(高校時代のマラソン大会は除きます)なので、一番愛着がある大会だ。
初めて参加したきっかけは、特に無くて、それまでは一人でジョギングしてたんだけど、テレビで流れていた大会のCMを見て、ちょっと試しに申し込んでしまったのだ。今は日本中でマラソンブームが過熱しているから、マラソン大会が雨後の竹の子のように乱立してるし、周囲にもマラソンやってる人間が溢れているから、誘われる事も多いだろうし、あまり抵抗感も無く参加する人が多い。しかし、僕が初参加した当時は、マラソンやってる人間なんてとても少なかったし、マラソン大会に出場するなんて、よっぽどすごいランナーか、よっぽど変な人としか思われなかった。周囲にも、マラソン大会に出てるような人は見あたらなかったので、誰にも相談する事もできなかった。
(幹事長)「相談って言っても、何を相談すべきかすら分からなかったけどな」
(石材店)「分かってしまえば、どうって事ないんですけどね」
申し込もうと思い立ったとき、実は既に申し込み受付期間は過ぎていたんだけど、主催者の瀬戸内海放送まで行ったら、申し込むことができた。今みたいに、申し込み受付スタートと同時にパソコンのキーを叩いて一秒を争ってネットで申し込みしないとエントリーすらできないという世紀末的な状況からは考えられない牧歌的な時代だった。
そして、右も左も分からないまま出場した初マラソン大会なんだけど、初めて出たときの感動は、今でも覚えている。誰でも参加できる市民マラソン大会に単なるド素人が走っているだけなのに、沿道の住民からは熱い応援があり、まるで一流選手になったような気分になれるのだ。始めて出たマラソン大会が、すごく楽しかったというのは幸せだと思う。もし、天気が悪かったとか、故障したとか、悪い思い出になっていれば、もう走るのは止めたかもしれない。この初マラソンでマラソン大会に出る楽しさを知ってしまい、それ以来、やみつきになり、20年に及ぶ私の長いマラソン人生がスタートした訳だ。
(石材店)「長さだけは長いマラソン人生ですよね。何の進歩も無いですけど」
(幹事長)「長けりゃ長いほど良いってもんでは・・・、あるぞ」
このタートルマラソンは坂が非常に多くて厳しいコースなんだけど、季節が良いせいか、それとも最初に出たときのイメージが良くて、相性も良いと思いこんでいる精神的な要因のおかげなのか分からないが、タイムは悪くない。私のハーフマラソンのベストタイムは、坂が全く無くて高速レースとの評価が高い丸亀マラソンではなく、このタートルマラソンで出したものだ。これは私のマラソンに関する3大不思議の1つだ。
(石材店)「あんまり聞きたくもないですけど、あとの2つは何ですか?」
(幹事長)「まず、ハーフマラソンのワースト記録が、炎天下の汗見川マラソンでもなく、塩江山岳マラソンでもなく、青森のワカサギマラソンだったこと」
(石材店)「体調も悪くはなかったのに、それは不思議ですね。最後の1つは?」
(幹事長)「20年も走ってるのに記録が伸びないこと」
(石材店)「練習量から考えたら、それは不思議でも何でもないですね」
てなことで、最初に出た第16回(1995年)からほぼ毎年欠かさず出ている。フルマラソンの部とハーフマラソンの部があり、徳島マラソンが出来るまでは近場の貴重なフルマラソンだったので、ときどきフルマラソンの部に出ており、だいたい3回に2回はハーフマラソンに、3回に1回はフルマラソンに出ている。
ただ、このレースは坂が多く、ハーフマラソンで7つ、フルマラソンになると大きな坂が14もある。前半は良いにしても、後半になると、これらの坂が大きな負担になり、終盤の坂は例外なく歩くという、非常に辛いレースになる。なので、6年前に坂が無いフラットな徳島マラソンが出来てからは、タートルマラソンではフルマラソンの部にはあんまり出ていない。もちろん、今年もハーフマラソンだ。
(幹事長)「他のメンバーがハーフマラソンで、自分だけフルマラソンに出ると、大きな迷惑をかけるしな」
(石材店)「一緒にフルマラソンに出た時ですら、大迷惑だったですよ」
石材店なんか速いから、一緒にフルマラソンに出ても、僕がゴールするまで1時間以上も待たなければならない。しかも、全員がフルマラソンに出る場合は、まだ許容範囲だが、他のメンバーがハーフマラソンに出てるのに僕だけフルマラソンに出たら、3時間くらい待ってもらわなければならなくなる。なので、今回は全員揃ってハーフマラソンに出ることにした。
練習量が少ないのは例年のことだが、今年は練習だけでなく、本番も少ない年になった。6月末の徳島航空基地マラソンの後、7月末の汗見川マラソンも9月始めの四国のてっぺん酸欠マラソンも、申し込みが遅くて申し込みし損ねてしまい、なんとか申し込むことができた10月始めの龍馬脱藩マラソンは台風で中止になってしまい、毎年出ていた10月末の庵治マラソンはサイクリングしまなみ2014と同日だったため今年は出られず、結局、6月末以来、出たのは超マイナーな色物レースこんぴら石段マラソンだけだ。
(石材店)「あれはマラソン大会と言えるんですか?」
(幹事長)「いいえ、言えません」
本番が少ないと、当然ながら練習量も少なくなる。本来は、健康維持のために日常的に走る事が第一目的であり、せっかくだからたまには楽しみのためにレースにも出る、というのが基本的なスタンスなんだけど、実際には、レースが無いと日常的に走る気合いが入らなくなり、ついついサボりがちになるのだ。てことで、去年に比べると今年の練習量は非常に少ない。
(石材店)「ただでさえ少ないのに、さらに減ったんですか!?」
(幹事長)「自転車の走行距離は増えたぞ」
自転車は楽しい。自転車は面白い。自転車は楽だ。てことで、レースの2週間前にも小豆島へ行った。
(石材店)「また行ったんですか!?何回目ですか?」
(幹事長)「自転車で行ったのは8月、9月に続いて3回目だ」
8月は小豆島一周サイクリングの第一弾。それが完走できなかったので、9月にはリベンジに行き、合わせ技一本で小豆島一周を成し遂げた。そして11月は紅葉の名所である寒霞渓へヒルクライムに出かけたのだ。さすがに寒霞渓は標高が800mあり、累積の獲得標高は1000mを越えるコースだったので、國宗選手やヤイさんは参加を拒み、唯一支部長だけが同行してくれた。
(國宗)「支部長、大丈夫でしたか?」
(支部長)「行く前は、絶対に死ぬと思ったけど、意外に楽勝やったな」
(幹事長)「もう我々に怖いものは無いぞ」
レースの2週間前になってもロクにランニングせずに自転車で遊んだりしていたから、さすがに焦ってきて、レースの1週間前には21kmほどランニングした。こんなに長距離を走ったのは春のオリーブマラソン以来だ。
(幹事長)「さすがにレース前に一度くらいは本番と同じ距離を走っておかないとな」
(國宗)「いきなり、そんなに長距離を走れたんですか?」
(幹事長)「途中、うどん屋で休憩したら、結構、長距離を走れるということが分かったぞ」
(國宗)「それじゃいかんでしょーっ!」
ただ、いくら途中で昼食を取ったとは言え、半年ぶりに21kmも走ったもんだから、かなりヨタヨタになったので、ハードな練習は止めにして、その後は短い距離を1回だけ走って疲労を抜き、大会当日に万全のコンディションで臨むという作戦にした。
(石材店)「作戦ってほどのもんではないですね」
私にとって最も愛着ある瀬戸内海タートルマラソンだが、四電ペンギンズの他のメンバーには何の思い入れも無いため、従来は参加者が少なかった。過去の記事を読み返してみると、ほとんどのメンバーが一度は出てるんだけど、毎年、参加者は少なかった。ただ、支部長が初めて参加した去年は、ほかにも國宗選手やゾウさん、それに出来谷さんなんかも参加してくれた。
今年は、私と支部長、國宗選手、ゾウさんのほか、ピッグとヤイさんも出ることになった。ピッグは久しぶりだし、ヤイさんは初出場だ。
レースが開催される小豆島土庄町へは、高松から船に乗っていくんだけど、マラソンブームが到来する前は、楽勝だった。スタート時間にギリギリで間に合う時間に到着する高速船で行けば、全然、待たずにスタートできたのだ。
(石材店)「ウォーミングアップする時間も無かったですけどね」
(幹事長)「レースが始まってからがウォーミングアップやないか」
ところが昨今の異常なまでのマラソンブームのせいで、この高速船に乗るためには、かなり早くから並ばなければならなくなった。そんなに早くから並ぶくらいだったら、早めに出発するフェリーに乗るのと変わらない。おまけに、定員を無視してなんぼでも積み込んでくれるフェリーと違い、高速船は定員を厳守するため、長い間、並んだあげく、満席で乗れないなんて事態になれば悲惨だ。てことで、最近は最近はフェリーを利用することが多い。
ところが、なんと、昨今の異常なまでのマラソンブームは、フェリーに乗るのでさえ困難をきたし始めていて、積み残しが出る事態になった。そのため、なんと今年は、臨時便が出ることになった!
(支部長)「まさか奴隷船じゃないやろなあ?」
(幹事長)「オリーブマラソンとは違うからな」
春の小豆島オリーブマラソンは、坂手港が会場なんだけど、現在、高松から坂手港に行く定期便は無いため、臨時船が出る。この臨時船は古いフェリーボートを借り切ったものであるため、座席が少くて、早く行かないと通路の片隅に体を丸めてしゃがみ込むか、広い車両甲板に寝転がるしかない。車両甲板は固い鉄板で、おまけに朝は冷え込み、逆に帰りは太陽熱で焼けて熱くなり、とても人間扱いされているとは思えない状況だ。そのため、我々は、この臨時船を奴隷船と呼び、恐れおののいているのだ。おまけに、昨今の異常なマラソンブームにより、奴隷船には定員の3倍くらい詰め込まれるという状況になり、ますます厳しい環境で、もはや奴隷船と言うより家畜船になっている。
しかし、奴隷船は、定期便が無い航路にマラソン大会の主催者が運行しているものなので非人道的だが、今回の臨時便は、あくまでも船会社が定期便に加えて設定したものであり、あくまでもまともなフェリーのはずだ。ちゃんと法令を遵守し、普通のサービスを提供するはずだ。なので奴隷船や家畜船のようなものではないはず。
てことで、我々は、この7時発の臨時便に乗ることにした。これだと遠方からJRで来るヤイさんやゾウさんの便利が良くなるのだ。臨時便ともなると、客が殺到し、当日の朝は切符売り場で大混雑する恐れがあるので、親切な支部長さまが事前に切符を買ってくれることになった。なんと献身的な行為!
(幹事長)「で、当日は何時頃に集合しようか?」
(支部長)「1時間前の6時頃にしようか?」
以前なら、船が出る10分くらい前に港に行くのが常であったが、そんなトロトロしていたら、座席どころか、通路でさえ座る場所が無くなる。それに、最近の高齢化により、早起きがあんまり苦痛でなくなったため、6時集合を目指すことにした。
当日の朝、そんなに苦労することなく早起きし、早々に家を出る。こんなに早いと、家で朝食を摂るには早すぎる。フルマラソンの場合なら、食事はゴール予想時間の5時間前が理想だ。ハーフマラソンだから、そこまで気にする必要は無いだろうけど、スタート時間が9時40分で、2時間でゴールするとすれば、その5時間前は6時半頃だ。家を出る前に食べるのは、ちょっと早すぎる。て言うか、そこまで普段の生活と異なる事をしたら、お腹を壊す可能性が高まるので、菓子パンを3個持って家を出た。
6時過ぎに港に着いたら、既に船が岸壁に着いていて、乗客が列を作って待っている。でも、それは6時25分の定期便だろう。待合室に行ってみると、既にヤイさんが来ていた。
(幹事長)「あれは定期便ですよね?」
(ヤイ)「いや、あれが臨時便ですよ」
(幹事長)「でも並んでる人がいましたよ」
(ヤイ)「早々に並んでるんですよ」
げげっ、もう並んでいるのか。しばらくすると支部長が到着し、事前に買ってくれていた切符をもらう。ゾウさんはJRが到着してから来るので、先に我々が乗り込んで座席を確保しておき、ゾウさんが来たら支部長が切符を渡して一緒に乗り込む、という手順にした。
ヤイさんと一緒に列に並んだら、すぐに乗船が始まった。慌てて乗り込んだが、さきほど6時25分の定期便が出たばかりなので、そんなに混んでいない。しかも、臨時便の後にも7時20分に定期便があるので、臨時便に殺到はしなかったわけだ。余裕を持ってボックス席を押さえることができた。
しばらくするとピッグと國宗選手が乗り込んできた。さらに、ゾウさんを連れて支部長もう乗り込み、全員揃った。さすがに出港時間ギリギリに乗り込んできた客は座る席がなく、床に座っているが、オリーブマラソンの奴隷船のような混雑ぶりではない。
船の中で、暖かい飲み物と共に、ゆっくり朝食のパンを食べる。昔は、レース中にお腹を壊すことは無かったんだけど、ここ数年は、2008年の徳島マラソンや2009年の走れメロスマラソンや去年のオリーブマラソンのように、レース中にトイレに駆け込むこともあるし、そこまでいかなくても、ゴールと同時にトイレに駆け込むこともよくある。ゴールと同時にトイレに駆け込むパターンでは、必死でゴールするからスピードが上がるように思われがちだが、漏れないようにお尻に力を入れて走るから、スピードは落ちる。それに精神衛生上、非常に良くない。なんにしても、お腹を壊す可能性があることは出来るだけ避けなければならない。飲み物も温かいし、ゆっくり噛んで食べればお腹を壊すこともないだろう。
(國宗)「ゾウさんは、相変わらずテニスばっかりやってるんじゃない?」
(ゾウ)「日本一になりましたよ」
(支部長)「え?日本一?テニス日本一!?」
ゾウさんはテニスが強くて、香川県大会で優勝したこともあるけど、今回はテニスじゃなくて剣詩舞の大会だった。剣詩舞とは、刀や扇子を持って詩吟に合わせて舞うものだ。ゾウさんは4年前に全日本きもの装いコンテスト世界大会なんてものに出場したこともある(「番外編」参照)が、色んなことをやるもんだ。
(幹事長)「テニスで痛めた足首は治ったん?」
(ゾウ)「なんとか治りました」
ゾウさんは、今年のオリーブマラソンの直前に、テニスの大会で全治3ヵ月の大怪我をしてしまい、オリーブマラソンは欠場になってしまった。その後も、長い間ランニングは控えていたから、一応、治ったとは言え、実際に走ってみなければ分からない。
今年は事前にゼッケンやタイム計測チップが送られてきているので、船に乗ってる時間を利用して、Tシャツにゼッケンを着けておく。そこで初めてゼッケンを見て、びっくり。
(幹事長)「すごい!僕のゼッケン番号10001番や!」
(國宗)「うわ、すごい。一番に申し込んだんですね!」
ゼッケンは年代別になっており、50〜65歳の部で一番最初に申し込んだということだ。これは、すごいことだ。支部長は、自分のと、ヤイさん、國宗選手、ゾウさんのも一緒にまとめて申し込んだんだけど、ヤイさんが10004番で支部長は10005番だから、50〜65歳の部で僕との間に誰か2人いたようだが、それにしても、とても早く申し込めたということだ。
そしてなんとゾウさんも16001番だ。女子の10kmの部で申し込みが一番早かったということだ。
國宗選手は35〜49歳の部なので、9007番だった。50〜65歳の部に比べたら少しは出足が早かったようだ。
さらに、自分で申し込んだピッグは2025番だった。少しだけ出遅れようた。
(ピッグ)「それにしても、10001番だなんて、凄いですね」
(幹事長)「て言うか、他の人たち、申し込むのが遅すぎっ!」
徳島マラソンに象徴されるように、最近のマラソン大会は、本番より、むしろ申し込みの方が緊張する。申し込みするときは、事前にパソコンの前に陣取って待機し、申し込み開始時間と同時に1秒を争ってパソコンのキーを叩かなくては申し込めない状態になっている。だから、このタートルマラソンの申し込みに当たっても、受付時間になると同時にパソコンのキーを叩いて申し込んだんだけど、なぜか、このマラソン大会に限って、他の人は誰も急いで申し込まなかったって訳だ。なんでだろう?
(幹事長)「10001番なんて、招待選手みたいやなあ」
気になる天気だが、前日はちょっと不安定な天気だったし、今日も午後からは不安定な天気になるとの予報だが、少なくとも今日の午前中は良い天気という予報だ。本当に、そんなうまいこと今日の午前中だけ天気が良い、なんて事になるのか不安ではあるが。
(幹事長)「午前中だけでも良い天気なら万々歳だな」
(ピッグ)「いや、午後の天気も重要ですよ。終盤に雨が降ると辛いですよ」
(支部長)「9時40分スタートやから、なんとか12時までにはゴールできるやろ」
(ピッグ)「12時にゴールは無理でしょう?それにスタートは9時30分ですよ」
(幹事長)「フルマラソンは9時30分スタートやけど、ハーフマラソンは9時40分スタートやで」
(ピッグ)「だから9時30分スタートでしょ?」
(支部長)「え?何言うてるん?」
(ピッグ)「え?だから・・・、え?まさか、みんなハーフマラソンなんですか?」
(幹事長)「え?ピッグはフルマラソンなん?」
(ピッグ)「みんな、違うんですか!?」
(幹事長)「みんなハーフマラソンにしたはずやで」
(支部長)「当然、ハーフマラソンやで」
(ヤイ)「私は支部長に申し込んでもらったからハーフマラソン」
(國宗)「私も支部長に申し込んでもらったからハーフマラソン」
(ゾウ)「えっと、私は足の故障があったから、10kmの部です」
(幹事長)「え?」
なんと、全員ハーフマラソンの部に出場するものとばかり思っていたんだけど、どこで手違い勘違いがあったのか、ピッグはフルマラソンの部に申し込んでいたのだ。それから、ゾウさんはテニスで足首を負傷していたので、今日は軽く10kmの部に出るのだ。
(ピッグ)「てっきり、みんなもフルマラソンに出るものとばかり思っていたのに、しくしくしく」
(幹事長)「フルマラソンには、そんなに気軽には出られんよなあ」
(支部長)「フルマラソンは徳島マラソンだけで十分やなあ」
(幹事長)「どうせ、いつものように、ロクに練習はしてないんやろ?」
(ピッグ)「先月、60km走りましたからねえ」
ピッグは先月、四万十ウルトラマラソンに出て60kmを走ったため、フルマラソンなんて練習しないでも、いつでも走れる自信が着いたようだ。
このレースは、とにかく坂が多い。まず、2kmちょっと走ったところから大きな坂が始まる。この坂が終わると、今度は5kmちょっと走ったところから中くらいの坂がある。さらに9kmほど走ったところから3つ目の大きな坂がある。そして、それに続く小さな坂の途中でハーフマラソンは折り返して帰ってくる。この他にも、小さな坂がちょこちょことあり、フラットな区間は非常に少ないので、非常に厳しいコースと言える。特に支部長は坂に弱いから、初参加だった去年のレース前は不安を隠せなかった。ただ今年は、コースの状況が分かっているので、もう緊張感はないようだ。
(國宗)「苦手な坂を克服したんですか?」
(支部長)「坂は歩くと割り切ったのよ」
坂が多いのはフルマラソンの部も同じで、ハーフマラソンの折り返し点を過ぎてからも、同じように大きな坂が繰り返し出現し、支部長でなくても終盤はヨレヨレになって歩くこと必至だ。なので、フラットが徳島マラソンができてからは、僕はあんまりフルマラソンの部には出てなくて、一昨年に久しぶりにフルマラソンの部に出たら、大会自己ワースト記録を達成してしまい、もう二度とフルマラソンの部には出ないと固く誓ったところだ。それなのに、ピッグは軽い気持ちでフルマラソンに申し込んでしまっただなんて、やはり四万十ウルトラマラソンの効果だろう。
みんなでおしゃべりしていたら、あっという間に土庄港に着いた。港から会場までは送迎バスがあるが、歩いても10分少々くらいなので、適度なウォーミングアップになるから、迷わず歩く。
(幹事長)「これが唯一のウォーミングアップやからな」
(ヤイ)「そんなんで大丈夫ですか?」
日なたを歩いていると、11月末の朝とは思えないくらい暖かい。このタートルマラソンは、なぜか天候に恵まれ、この季節にしては暖かい日が多いが、それでも暖かいのはゴール後であり、朝はまだまだ寒いのが普通だ。それが今日は朝から暖かい。気温が暖かいだけでなく風が無いから、体感温度としては、さらに暖かい。て事は、今日はレース中は暑くなるかもしれない。
(幹事長)「ここまで暖かいと半袖にするか長袖にするか、着るものには悩まなくて済むな」
(ゾウ)「ほんとに幹事長は着るものに神経質ですからね」
寒い時に備えて長袖シャツからビニール袋まで取り揃えてきたが、全部、不要だった。
会場に着いて受付を済ませ、男子の更衣室になっている中央公民館の会議室に入る。今日も着用するのは、去年の大阪マラソンでもらったTシャツだ。普通のマラソン大会の記念品のTシャツは、プリントしている柄は良くても、Tシャツそのものは普通のTシャツで、どうってことはないが、この大阪マラソンのTシャツはマラソン用にメッシュが入ったりした格好良い品で、柄も格好良く、最近はいつも着用している。
更衣室で着替えていると、小松原選手に会う。彼は会社の同僚だが、同じ職場になったことがないこともあり、会社で会うことは滅多になく、最近は、このタートルマラソンの更衣室でしか会わない。でも、何千人も参加するこのタートルマラソンの更衣室では必ず会う。彼は今年も10kmの部に出る。なぜなら、彼は毎年、この翌週の那覇マラソンに出るから、今日はあくまでもその事前調整で出ているのだ。彼は3年前に初フルマラソンとして那覇マラソンに参加し、すっかり、その虜になってしまい、それ以来、毎年欠かさずに出ており、今年で4回目になるのだ。ただ、超スピードランナーの彼なので、練習代わりに軽く流すって訳ではなく、いつも上位入賞して賞品をゲットしている。
そして、驚いた事に、なんと彼のゼッケンも15001番だ!
の部で申し込みが一番だったって事だ。
(幹事長)「これ気持ち良いよなあ」
(小松原)「まるで招待選手みたいですよねえ」
小松原選手も僕らと同じく、徳島マラソンの時と同じように、申し込み受付開始と同時にパソコンのキーを叩いて申し込んだそうだ。
(幹事長)「そら、そうよなあ。で、徳島マラソンにも出るん?」
(小松原)「それが徳島マラソンの申し込みには失敗しました。くすん」
小松原選手は僕らと同じように、徳島マラソンでも申し込み受け付け開始と同時にパソコンのキーを叩いたんだけど、サーバーのトラブルにより、なかなか申し込みができず、なんとか申し込み画面に辿り着いた時には既に定員オーバーで申し込めなかったそうだ。
(幹事長)「どれくらい時間かかったん?」
(小松原)「たった20分ですよ!」
(幹事長)「しょえーっ!」
たった20分のトラブルで申し込めなかっただなんて、あまりにも悲惨。
着替えが終わって外に出て集合写真を撮ろうとしていると、ピッグの元同僚のY浅さんが来てた。彼女はピッグと同じように、先月の四万十ウルトラマラソンで60kmの部に出場し、ピッグとほぼ同タイムで完走したのだが、ピッグが精根尽き果ててゴールしたのに対し、圧倒的な余裕を残してゴールしたスーパーランナーだ。
好天に恵まれてやる気がみなぎるメンバー
(左から國宗選手、支部長、ヤイさん、小松原選手、Y浅さん、ピッグ、ゾウさん、幹事長)
それにしても暖かい。て言うか、むしろ暑い。スタート前から暑いなんて、11月末とは思えない。今日は寒くないから長袖を着る必要が無くて、着るものに悩まなくても済んだ、なんて思っていたけど、半袖でも暑いくらいだ。こりゃ、ランニングシャツにした方が良かったかも。もちろん、まさかランニングシャツが必要になるとは思ってもいなかったから、持ってきてない。
(幹事長)「どんな場合にも対処できるように、色んな準備しておかなければいけないなあ」
(ゾウ)「結局、着るものに悩んでますねえ」
スタート地点に行くと、既に暖かいソーメンが振る舞われており、食べているランナーもいる。美味しそうだけど、レース前に食べるのは止めておく。
(幹事長)「て言うか、走る前にソーメンなんか食べて、お腹は大丈夫なのか?」
(國宗)「私も去年は食べましたけどね」
さらに弁当を引き替えている選手もいる。
(幹事長)「レース前に弁当も食べるのか!?」
(國宗)「レース後は混雑するから事前に引き替えてるんでしょ」
途中で、会社では会わない取引先のK野さんに会う。
(K野)「佐藤さんにも会いましたよ」
佐藤さんというのは、もちろんさとやんの事だ。さとやんも会社の同僚だけど、マラソン大会でしか会わない関係だ。K野さんは10kmの部に出るが、さとやんはパソコンのキーの打ち間違いでフルマラソンに申し込んでしまったとのことだった。ありがちなミスではあるが、吉と出るか凶と出るか。
さらに、SS木さんにも会う。SS木さんは、2003年の丸亀マラソンで、視力障害のランナーの伴走者を探す件で知り合ったランナーだ。その後もマラソン大会では時々お会いしていたが、ちょっと前の休日に、近所でランニングしていたら、偶然、お会いした。1年間に足を痛めて、しばらくランニングは休んでいたんだけど、久しぶりに再開したとのことだった。
(幹事長)「もう足の故障は治ったんですか?」
(SS木)「いやいや、まだ治ってないから、今日は応援に来ただけ」
それにしても、会社では滅多に会わない人に、こういう場所では次々に会うってのは本当に不思議だ。そんなにキョロキョロしている訳ではないから、たいてい先方から声を掛けてくれる。何千人もの参加者がいるのに、よくもまあ偶然に見つけてくれるものだ。
いよいよスタート時間が近づいてきた。まずはフルマラソンがスタートするので、ピッグが一人でスタート地点に向かった。今日は天気が良いから、終盤に力尽きて歩いても、そんなに辛くはないかもしれないが、ウルトラマラソンで60kmを走ったピッグだから、最後まで歩かずにゴールするかも。
フルマラソンがスタートして10分後にハーフマラソンのスタートとなる。去年は台風の大雨による土砂崩れのために、コースの一部の県道が通行止めになり、通行止めの場所がハーフマラソンの折り返し点を過ぎた地点だったので、ハーフマラソンは問題なく開催されたが、フルマラソンは中止になってしまった。それで、当初フルマラソンに申し込んでいた人も全員、ハーフマラソンに参加することになったため、ハーフマラソンは大混雑だった。しかし、今年は県道の復旧工事も終わり、フルマラソンが走れるようになったので、ハーフマラソンの参加者は去年より大幅に減り、混雑もだいぶ解消された。
最近は、たいていのマラソン大会で計測チップを着けるが、大会によっては、ゴールタイムは計測してくれるものの、スタートは全員、ピストルの合図に合わせるグロスタイムだけ計測する場合と、各人がスタートラインを越えた時からのネットタイムを計測してくれる大会がある。ネットタイムを計測してくれるとばかり思って余裕を持ってスタートしたら、実はグロスタイムしか計測してくれなかったという場合があるので、事前に確認しておかなければならない。ゴール付近の係員に聞いたら、「ネットタイムも計測しますよ」と言ってくれたので、スタート時に焦る必要はない。なので、そんなに前からスタートする必要はない。
もちろん、丸亀マラソンのような1万人規模のマラソン大会になると、後ろの方からスタートしたらいつまで経っても大混雑から抜ける事ができず、世間話しながらゆっくり走るおばちゃん軍団に走路をブロックされたりして、ペースが滅茶滅茶になってしまうので、適度に前方からスタートする事が重要となる。しかし、このタートルマラソンは、そこまで参加者が多くなくて、ハーフマラソンの部で1000人ちょっとなので、スタートしてしばらくしたら混雑は解消されるだろう。
それにしても、本当に気持ちの良い天気で、攻める気持ちが沸いてくる。
(幹事長)「こんな絶好のコンディションだと、何の言い訳もできないぞ」
(支部長)「いやいや、言い訳のタネは尽きないって。後から何とでも言い訳できるって」
(幹事長)「そう言えば、昨日、インフルエンザの予防接種をしたんだっ!」
(ゾウ)「それ、何かの言い訳になるんですか?」
もちろん、天候が良いからと言ってタイムが良くなった実績は、実は、無い。タイムとしては、多少、寒いくらいが一番いい。今日は明らかに暑すぎるだろう。でも、これくらい少し暑いくらいの方が気持ちは良いから精神的にはよろしい。
今日の目標は、例によって、もちろん大会自己ベストの更新だ。どんなレースであれ、出場する限りは、目標は常に大会自己ベストの更新だ。マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるので、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。
この瀬戸内海タートルマラソンのハーフマラソンの部の大会自己ベストは50を過ぎた5年前に出したものだ。今日は、そのときのタイムとペース配分を書いたメモを持ってきている。これを見て参考にしながら自己ベストを狙って走るつもりだ。
(支部長)「どんなメモ?ちょっと見せてよ」
(幹事長)「ええよ。あれ・・・?おかしいな、・・・無いがな!」
せっかくメモを作ってきたのに、荷物の中に忘れてきてしまったようだ。なんとなくは覚えているけど、正確な数字は忘れてしまった。
ま、理想的なレース展開としては、最初は、まあまあ抑え気味でスタートして、徐々にペースを上げていくパターンだ。以前なら、それは理想だけど、現実には不可能だと思っていた。ペースは下がるものであり、上げていくなんて非現実的な理想に過ぎないと思っていた。しかし、昨年のこの大会では、5kmごとのタイムは、最初から最後まで上がりっぱなしで、最後の1kmは圧倒的なスパートで仕上げた。
(國宗)「で、去年は大会自己ベストだったんですか?」
(幹事長)「それが、駄目でした」
レース展開は理想的だったんだけど、スタート時のペースを抑えすぎていたため、終盤にペースアップできたにもかかわらず、大会自己ベストは更新できなかった。なので、今年は、昨年よりやや速いペースで入り、そこからさらにペースアップしていって大会自己ベストを更新しようというのが目標だ。
とは言え、いくら天候が良くてやる気が沸いてきても、きちんと練習してない限り、良い結果が出るはずがない。当たり前だ。天気が良いと気持ちも良くなり、精神的には前向きになるが、気持ちが前向きになれば好タイムが出るわけでもなく、むしろ序盤に調子に乗ってオーバーペースになって終盤に潰れる可能性の方が高い。なので、絶好のマラソン日和はむしろ要注意だ。今年は例年以上に練習不足なので、ますます前半の飛ばしすぎは自重しなければならない。
最近、どのレースもそうだけど、スタート地点に立って初めて、ストレッチすらしてないことを思い出す。これは、普段からストレッチをするという発想が無いからだ。普段からランニングする前とした後は、きちんとストレッチをすべきだ。分かってはいる。分かっているものの、面倒くさくてやった事がない。なので、レースの直前になって突然思い出すのだ。
慌てて膝の屈伸だけやってたら、スタート時間となった。合図が鳴ると、一斉にランナーが拍手して、スタートラインに向かってだらだら動き始める。みんなスタートラインを越えるまでは走ろうともしないが、だらだら歩きながらスタートラインを越えると小走りで走り始める。
今日の作戦は、最初は抑え気味でスタートして、徐々にペースを上げていくパターンなんだけど、重要なのは、最初にどれくらい抑えて走るか、という程度の問題だ。最初から遅いペースで走れば、最後までペースは落ちないだろうが、適度に頑張らないと良いタイムは出ない。終盤に潰れないギリギリのペースが理想だ。しかし、それが難しい。どれくらい抑えればいいのか、という微妙なペース調整は、当然ながらその日のコンディションによって変わってくるため、さじ加減は難しい。前半に貯金をするのは難しくはなく、ちょっと頑張れば、なんぼでも貯金は出来る。しかし、ちょっとでもオーバーペースになると、終盤には足を引きずるようになる。終盤のペースの落ち方は、たいていの場合、想定した以上に大幅にガクンと落ち込んでしまい、前半の貯金など、一気に無くなってしまうのだ。
かと言って、余力を残しすぎると良いタイムは出ない。去年は理想的なレース展開が出来たとは言え、序盤のペースを抑えすぎていたため大会自己ベストは更新できなかった。なので、今年は去年よりは多少、早めのペースで始めたいところだ。
ところが、このマラソン大会は距離表示が5kmおきにしか無いから、5km走るまでは、なかなかペースが分からない。まずは自然体で走ってみて、最初の1kmのタイムで、その日の調子を把握しつつ、軌道修正を図ったりしたいのに、それができないのだ。前半から頑張れるだけ頑張って貯金を貯めて、終盤に力尽きたらそれまでよっていう作戦なら、距離表示は不要だろうけど、最後までペースを維持して走る作戦なら、きめ細かいペース管理が必要だ。いくら調子が良いような気がしても、オーバーペースになっていると注意しなければならないし、あんまり遅すぎると多少は頑張る必要もあるし。でも距離表示が少ないから、適度な緊張感を維持しながら、なるべくペースが一定になるように気をつけながら自然体で走るしかない。
天気が良くて気分が高揚してて、気持ちよく走れるので、体は軽い。日なたは多少、暑いけど、日陰ではちょうど良い気温で、快適にスタスタ走れていく。最初だけは混雑して走りにくかったが、1kmも走れば、かなり走りやすくなってきた。
2kmほど走ったら、最初の大きな坂が現れ、1kmほど上りが続く。大きな上り坂ではあるが、庵治マラソンの折り返し点にある巨大な坂ほど勾配はきつくなくて、距離は長いけど、淡々と走っていけば、そのうちピークが現れる。以前は、前半はまだ力があるから、上り坂でもストライド走法の大股でグイグイ上っていってた。その方が気持ち良いからだ。でも、最近、NHK教育テレビでやっている金哲彦さんの「3ヵ月でフルマラソン」によると、上り坂で無理に筋肉を使うと、終盤に大きなダメージになって返ってくるので、チョコチョコとピッチ走法で刻んで上るのが良いらしい。また、腕の振り方は、腕を下に降ろして地面を叩くように振ると楽になるらしい。テレビで見ていると、まるで子供の走り方みたいで格好良くないんだけど、今日は試しにやってみる。特にそれで楽になったような気もしないが、かえってしんどくなる訳ではない。よく分からないまま、今日は上り坂では腕を下げて振っていく。こういうマラソン大会に出ている人なら、そのテレビを見ている人も多いとは思うが、周囲に同じような変な腕の振り方をしている人はいなかった。
抑え気味なペースで坂を上っていると、小柄な女性ランナーが抜いていく。なんとなく癪に触ったので食らいついていくと、着いて行けないスピードではない。こんな所であんまり無理すると終盤にツケが回ってくるが、それほど無理はしないでも着いていけるので、勝手にペースメーカーに見立てて走る。さすがに上り坂になると暑くなって汗がしたたり落ちる。ハンドタオルを持ってきてて良かった。
1kmほど走ると上り坂が終わり、下り坂となる。教育テレビでは、下り坂も、大股でガンガン走ると足に筋肉にダメージが溜まり、終盤に足が動かなくなるから、やはり小走りで下りろ、と金さんが言ってたが、フルマラソンなら気をつけた方が良いだろうけど、所詮ハーフマラソンなので足へのダメージなんて気にしないでもいいと思い、従来通り、重力のなすがまま思いっきり転げ落ちるように大股で駆け下りる重力走法で走った。
さきほどから着いていってる小柄な女性ランナーは、ややペースが落ち気味になったというか、僕が大股でガンガン飛ばしたので、あっさりと追い越す事ができた。気持ち良い。下り坂はスピードも上がって体感温度も下がるので、ちょっと涼しくなるのも気持ち良い。
坂を下りてしばらく走ると、ようやく最初の5km地点の距離表示がある。時計を見ると、ちょうど良いペースだ。最初の混雑で少しタイムロスがあるにもかかわらず、なかなか良いペースだ。このままのペースを維持できれば、ギリギリ大会自己ベストに近いタイムになる。て事は、終盤にスパートすれば大会自己ベストも可能だ。
なーんて思っていたら、いきなりさきほどの小柄な女性に抜き返された。油断も隙もない。慌てて追いかけてピッタリ後ろを着いていくと、そのうちペースが少し落ちたような感じになり、その隙に一気に抜く。彼女も僕も、抜くときは一気に抜いて差を付けるんだけど、そんなに長くはスパートしないので、すぐに追いつかれ、逆に抜き返されるという繰り返した。
5km地点を過ぎると、今度は中くらいの大きさの2つ目の坂がある。最初の坂に比べると、そんなに大きくもないので、あんまり負担は感じない。まだまだ快調に飛ばせていて、ペースは落ちていないはず。それなのに、ライバルの小柄女性に上り坂でまた抜かれた。しかも、結構速いペースで抜かれてしまい、すぐさまは追いつけなかった。でも、ここは無理せず我慢して金さんが指導していたフォームで上り続け、下りになってから再び大股でスタスタと抜き返した。この調子では、まだまだしばらくは激しいつばぜり合いが続きそうだ。
最初の給水所が現れるが、好天気で暑いくらいとは言っても、まだまだ全然喉は渇いてないし、せっかく快調に走れているペースを落としたくないので、迷わずパスする。もし、ライバルの彼女が水を補給していたら、ここで差を広げられるはずだ。
2つ目の坂をクリアし、ちょこちょこと小さい坂をいくつか越えると、3つ目の大きな坂が出現する。この坂を上り始めた頃、トップランナーが折り返してくる。タイムからすると、恐らく9kmほど走った地点だ。9km地点ですれ違うって事は、僕より3km先を走っているって事だ。僕とは走りが全く違う。でも、そんなトップランナー達の事は別に気にならない。気にするのは、ライバルの小柄女性だ。今度の坂では、上り坂で抜かれなかった。もしかして力尽きたかな、なんて油断していたら、なんと今度は下り坂で抜かれた。下り坂は、僕は大股でスタスタ走っていたので、小柄な彼女には抜かれることはないだろうって思っていたのに、ものすごいピッチでガンガン走っていく彼女に、あっという間に置いて行かれた。
3つ目の坂を下りた辺りに、10km地点の距離表示がある。時計を見ると、この5kmは、最初の5kmに比べたら、ややペースが落ちている。だんだんペースを上げていくっていう理想のパターンはいきなり崩れてしまった。ただ、まだまだ踏ん張れるほどの遅れであり、足もまだ軽い。今後の頑張り次第だ。
折り返し点が近づいてくると、すれ違うランナーがだんだん多くなってくる。ここで、なんと川口選手とすれ違った。こっちは折り返し点まで、まだかなり距離があるはずなので、彼はかなり速いってことだ。彼は一昨年はフルマラソンの部に出て、3時間40分なんていう素晴らしいタイムを出しているので、これくらい速くても不思議ではないが、相変わらず速いなあ。
例のライバルの女性は、その後、再びペースが落ちてきて、なんとか追いつけたので、ここでまたペースを上げて一気に抜く。お互いに抜くときは一気に抜く。これは相手に精神的ダメージを与えるためだ。諦めさせるためだ。ここまでは、お互いに、その戦法は通用してないが。
2つ目の給水所が現れ、まだ喉は渇いてないものの、さすがにここで水分を補給しておかないと後から悪影響が出そうなので、水分を補給しておく。
ほんの小さな坂を少し上ると、ようやく中間の折り返し点がある。ここで折り返して、すれ違うランナーをチェックする。例のライバル女性は、さすがにちょっとペースダウンしたようで、少し差が開いている。よしよし。
さらに他のメンバーを探す。3分ほど走ったところで、今日はまず、國宗選手が現れた。往復で6分の差だから、距離にして1kmちょっとの差だ。まあまあ余裕の表情をしている。次は誰かなと思っていたら、その少し後にヤイさんとすれ違う。完全に余裕の涼しい顔をしている。むしろ、もっと必死に走って欲しいぞ。支部長は見失ったのかなあ、って思っていたら、ヤイさんから少し遅れてすれ違った。3人とも、あんまり離れていないから、ここまでのペースは似たようなものなんだけど、表情は大違いで、前の2人に比べて支部長は既に撃沈寸前の疲れっぷりだ。
後半に入ると、なんとなく、だんだん足が重くなってきたような気がする。重いというか、前方にけり出せなくなってきた。ピッチは落ちてないけど、歩幅が狭くなっているので、ペースはだいぶ落ちているかもしれない。自己ベストを出すには、少しペースアップする必要があるのに、これじゃあ、ちょっとやばいかも。とは言え、まだまだ僕を追い抜いていくランナーよりも、僕が追い抜くランナーの方が多いので、そんなに遅くなっているとも思えない。
ただ、なんとなくお腹の調子が悪いような嫌な感じが出てきた。これって、もしかして、やばいパターンかも。でも、まだそんなにひどくはないし、あと10kmなら逃げ切れるかも。
相変わらず風はほとんど無く、日陰に入るとちょうど良いくらいだけど、日なたに出ると暑い。汗がどんどん噴き出てくる。
帰りの2つ目の坂を登り切った辺りに15km地点がある。ちょっと不安を抱きながらタイムを見ると、おや?全然、遅くなってない。さきほどの5kmより、むしろ、ほんの少しだけ速くなっている。てっきりペースダウンしていると思ったのに、これは嬉しかった。こうなると俄然、やる気が出てきた。ここから一気にペースアップできれば、まだ自己ベストの可能性は残っている。もう残り6kmだから、先の事を考える必要はなく、めっちゃ気合いを入れて、ラストスパートのつもりで頑張ってみる。
と思ったんだけど、気持ちではそう思っても、さすがに足は思うようには動かない。ちょっとだけスピードを上げたつもりでも、6kmもスパートはできない。思いっきり駆けてるつもりでも、客観的に見ると、あんまり足は上がっていない。最後の大きな坂になると、あっさりとペースダウンしてしまう。とは言え、歩きたいなんていう気持ちは沸いてこない。暑くてバテ気味だけど、まだまだ足は動く。お腹の調子は、やっぱり不吉な予感がする。明らかにお腹を壊している。ただ、もう残り少ないから、たぶん逃げ切れるだろう。
終盤になると、距離表示がややこしくなる。「あと3km」とか「フルマラソンの部40km」とか色んな表示が入り乱れてきて、何が何やら分からなくなる。混乱する疲れた頭で必死で計算したところ、さすがに終盤にきてペースが落ちてきている事が分かった。それでも、それほど大きな落ち込み方でもない。大会自己ベストは、さすがに不可能な水準になってきたが、このまま頑張れば大会自己2位だった去年を上回ることはできる。足は重くなってきているとは言え、下り坂ではまだまだなんとか駆け下りることができる。
最後の大きな坂を下り終えて19km地点を過ぎると、残り2kmはフラットな区間だ。ここを一気にスパートを掛けて突っ走れば好タイムが出るはず。
給水所があるが、少しの時間も惜しいし、ここまできて水を補給しなくても大丈夫なので、そのまま通り過ぎようと思っていたんだけど、小さい女の子がコップを差し出してくれているので、水より元気をもらおうと思って「ありがとう!」って大きな声を出して水をもらった。マラソンは極めてメンタルなスポーツなので、こういう些細な事で元気が蘇る。
ところが、19kmから20km地点にかけての1kmのタイムが信じられないくらい遅かった。これは一体、どうなってるんだ?実はこの区間は毎年、とてもタイムが悪く、恐らく距離表示が不正確なのではないかという疑念があるが、それにしても異常なまでに遅い。明らかに前半の飛ばしすぎの悪影響だ。それと、前半のライバル女性がいなくなり、孤独に走っているから、ついついペースが遅れがちになる。時々、僕を追い越していくランナーに着いていこうとするんだけど、ペースが違いすぎると、着いていくのも難しい。ちょうどいいペースのランナーって、なかなかいないもんだ。
このペースでは、大会自己ベストどころか、自己2位の去年の記録を抜くのも難しくなってきた。ただ、そうは言っても、最後まで力は抜かない方がいい。どんなレースでも、ゴールしてから「わーん、あと数秒早かったら自己ベストだったのにーっ!」とか「うわあ、なんとか数秒差で自己ベストが出たっ!」って事は意外に多いので、自己ベストでなくても、例えば大会自己3位とかの記録でも塗り替えれたら嬉しいので、まだまだ気を抜かずに頑張り続けてみる。
それでも、最後の1kmはスパートしたつもりだったけど、去年より1分近く遅かった。1kmで1分近く遅いだなんて、気合の問題ではない。明らかにペース配分の失敗だ。19km地点までは去年より速かったのに、最後の1kmと、その前の1kmが、去年より1分近く遅かったから、結局、去年のタイムに及ばなかった。
序盤に調子が良くて飛ばしすぎて、その悪影響で終盤に足が止まるなんて、これまでに何十回、何百回と繰り返してきた失敗だ。せっかく去年はペース配分に成功して、最初から最後までペースを上げていくという理想的なペース配分ができたのに、今年はまたまた逆戻りで、ペース配分に失敗してしまった。だが、序盤からある程度は飛ばさないと大会自己ベストは出ない。このさじ加減が難しいところだ。
ゴールしたら、ゴールのすぐ横で、10kmの部に出ていたゾウさんが待っていてくれて、写真を撮ってくれた。
(ゾウ)「お疲れさまあ。速かったですね!」
(幹事長)「もうちょっと頑張れば良いタイムだったんだけど、最後に力尽きてしまって悔しいーっ」
とは言え、今日は暑いくらいの好天気で、最後まで気持ち良く走れたので、タイムはイマイチだったけど、とても楽しいレースだった。順位も、ハーフマラソン男子50〜65歳の部で上位2割に入れたから、まずまずだ。去年もそうだったけど、やはりこのマラソン大会は天気が良くて楽しい。お腹の調子は、ますます嫌な感じはしているけど、ゴールまでは問題なく我慢できたので、良かった良かった。
(ゾウ)「他の人は、まだですかねえ?」
(幹事長)「もう少ししたら帰ってくると思うよ」
ところが、なかなか誰も帰ってこない。おかしいなあ、って思っていたら、だいぶ経ってから國宗選手が帰ってきた。
(幹事長)「前半は余裕の表情だったのに、遅かったなあ」
(國宗)「後半は撃沈しましたね。坂はベタ歩きですよ」
しばらくするとヤイさんも帰ってきた。
(幹事長)「ヤイさんも前半は涼しい顔してたのに、だいぶ遅かったですねえ」
(ヤイ)「最後の方は、上り坂は歩きましたからね。やっぱり練習不足ですよ」
とは言え、どう見ても二人とも余裕を残している。全力を尽くしたとは言い難いなあ。
さらに、しばらく経って、ようやく支部長が帰ってきた。
(幹事長)「今日はバテバテやなあ」
(支部長)「坂という坂は、歩きまくったからなあ」
(國宗)「前半からしんどそうでしたよね」
坂と暑さに弱い支部長が、坂が多いうえに暑かった今日のマラソン大会で撃沈したのは、ちっとも不思議ではないとも言えるが、実は他にも要因がある。支部長は1年半前から単身赴任となり、食生活が偏ってしまったため、着実に肉というか脂を増量し続けているのだ。
(支部長)「やっぱり体重を落とさんといかんなあ」
(幹事長)「なんぼ増えたん?」
(支部長)「1年半で8kg増えた」
8kgと言えば、赤ちゃんを3人ほど抱えているようなものだ。ものすごい負担だろう。
一方、怪我から復帰したゾウさんは快走したようだ。239人がエントリーした女子10kmの部で、上位1割に入っている。
(國宗)「うわあ、同じ距離でなくて良かったあ。絶対に負けてるわ」
(支部長)「次の丸亀マラソンでの敗北は決定的やな」
國宗選手とヤイさんは、今年の丸亀マラソンでゾウさんに負けているし、支部長は今年の徳島マラソンで負けている。うかうかしてたら、僕だっていつ負けるか分からない状況になってきたぞ。
みんなゴールしたところで、このマラソン大会の一番の楽しみであるソーメンをもらいにいく。レースの終盤は、早くゴールしてソーメンを食べる事を心の支えにして頑張る、というほど、ソーメンはこのマラソンの重要な楽しみの要素だ。周辺に飲食店がほとんど無いこともあって、このマラソン大会ではお弁当が支給されるが、長距離を走り終わってバテている時にお弁当は喉を通らない。でも、暖かいソーメンは喉に優しく、いくらでも食べる事が出来る。食べ過ぎると後でお弁当が入らなくなるので今年は1杯だけにしておく。
ところが、ソーメンを1杯で我慢したにもかかわらず、お腹の調子は悪化の頂点を迎えたようで、更衣室に戻ってトイレに駆け込む。今日はハーフマラソンだったから逃げ切れたけど、これがフルマラソンなら終盤にトイレに駆け込んだだろう。何がいけなかったのかなあ。朝食は控えめに、暖かい飲み物と一緒にゆっくり食べたし。昨晩も暴飲暴食はしてないし。
コミュニケーションのミスにより、一人フルマラソンの部に出たピッグは、4時間25分でゴールした。坂の多いこのコースでは悪くないタイムだ。
(ピッグ)「でも終盤は足がつって苦戦しましたよ」
つい先月、60kmを走ったばかりだから余裕で走れるだろうと思ったけど、坂の多いこのマラソン大会のフルマラソンは、やはり厳しい。
帰りのフェリーは大混雑で、ギュウギュウに押し込まれ、隣にいたおばあちゃん3人連れと世間話になった。3人とも徳島から来ている75歳のランナーで、10kmの部に出たとのことだ。以前はフルマラソンの部に出たこともあるし、他にも仲間達であちこちに遠征に行ってるらしく、徳島マラソンにも出ているし、12月には高知の安芸タートルマラソンに出るそうだ。とってもとっても元気なおばあちゃん軍団だった。
(幹事長)「僕も歳寄りになっても頑張るぞ!」
(石材店)「心配したとおり、今回も結局、ダラダラ長くなりましたね」
〜おしまい〜
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