第20回 四国のてっぺん酸欠マラソン大会

〜 霧雨の中の激烈な戦い 〜



2023年10月1日(日)高知県伊野町において第20回四国のてっぺん酸欠マラソン大会が開催された。

このレースは、暑い暑い四国の真夏に開催される大変貴重なマラソン大会だった。
しかもコースは四国の道路としては最も標高が高い瓶ヶ森林道を走る。トヨタ自動車のテレビCMにも使われたりしている絶景コースだ。
こんな貴重で楽しい夏場の山岳レースには何があっても出たくなるが、2015年に初めてエントリーしてから5年連続でエントリーしてきたのに、その2015年を始めとして、なんと、5回のうち3回も悪天候で中止になったという幻のマラソン大会なのだ。
特に2018年2019年は連続して悪天候で中止になったため、2020年こそは久しぶりに走りたいと思ってウズウズしながら待っていた。

それなのに、ああ、それなのに、なんと2020年新型コロナウイルス騒ぎのせいで大会が中止になってしまった
このマラソン大会の中止騒動は全国的なもので、
日本中のあらゆるマラソン大会が次々と中止になっていった

これらの
マラソン大会中止騒ぎってのは、どう考えても、あまりにも非科学的で情緒的でヒステリックな対応だ。
素人が見たら、マラソン大会ではランナーが密集しているように見えるかもしれない。しかし、毎日乗っている満員電車に比べたら、はるかにスカスカだ。そうでないとぶつかって走れない。
しかも密室の満員電車に比べて、
屋外のマラソン大会はウイルスが蔓延できる環境ではない。新型コロナウイルスは感染した人の咳やくしゃみの飛沫による飛沫感染でうつっていくが、飛沫感染は屋外で走っている時に感染なんかしない。
多くの国民が新型コロナウイルスを非常に恐ろしいもののように勘違いしていたが、決して、
エボラ出血熱のように極めて致死率の高いウイルスでもなければ、風疹のような感染力の強いウイルスでもない
多くの国民がヒステリックに踊らされていたのは、視聴率さえ稼げればいい
下品なマスコミがキチガイみたいに煽り立てるのと、新型コロナウイルスの新規患者数をゼロにしようなんていう狂信的な妄想に取り憑かれた医療関係者の独善のせいだ。

このようなヒステリックな動きに対抗するため、我々は
マラソン大会を自主開催する事にした。その第1号が、2020年の第43回オリーブマラソンだった。
それ以降、中止になったマラソン大会はことごとく自主開催を続け、酸欠マラソンも2020年の第20回大会から始まって2021年の第21回大会2022年の第22回大会と3年連続で自主開催を続けてきた。
そして4年目の今年になって、ようやくコロナのバカ騒ぎが収束し、
全国的にマラソン大会が復活し始めた
国民の多くが理解するまで3年もかかったが、ようやくコロナなんてただの風邪に過ぎないっていう理解が進んできたからだ。
そして、
この
酸欠マラソンも4年ぶりに復活となったのだ。まことに喜ばしい限りだ。めでたいめでたい。

なお、今回の大会は
第20回大会と銘打たれている。これには、ちょっと説明が必要だ。
コロナのバカ騒ぎで中止になる前に最後に開催されるはずだった2019年の大会は第19回大会だったから、正式に開催された大会としては今回は確かに20回目の大会になる。
丸亀マラソンなんかも、コロナのバカ騒ぎで中止になっていた期間はカウントせず、実際に開催された大会の回数をカウントしている。これが当たり前と言うか、最も正当な数え方と言えよう。
一方、オリーブマラソンなんかはコロナのバカ騒ぎで開催されずに中止になった年も全てカウントしている。これは内部的に準備を進めていたが中止になったものもカウントしているのだろう。内部管理上、それはそれで理解できなくはない。
多くのマラソン大会は、このどちらかの数え方をしている。
どういう数え方でも別に構わないが、我々はコロナのバカ騒ぎで中止になっていた期間も酸欠マラソンを自主開始しており、回数をカウントし続けてきたので、このホームページでは自主開催した2020年大会を第20回大会2021年大会を第21回大会2022年大会を第22回大会と銘打ってきた。
それから数えると
今回は第23回大会になるはずだったが、正式な本大会が今回、第20回大会と銘打って開催されるので、このホームページでも第20回大会とする。

(幹事長)「第20回大会が2つできてしまったので、ややこしくて済みません」
(ピッグ)「だーれも気にしてないと言うか気付いてないですよ」


今年、参加するのはのほか、D木谷さん、のらちゃん、加藤選手、O野選手の5人だ。
一方、これまで常に一緒に出場してきた支部長は、今年は不参加だ。

(幹事長)「なんで出場しないん?」
(支部長)「春先に足を故障して以来、不調が続いてるから、酸欠マラソンの序盤の激坂を登り切る自信が無いよ」
(幹事長)「仕方ないなあ」


常日頃なら、そんな甘えた弱音は許さないところだが、今回は故障が原因だから仕方ない。
支部長はかつては坂に極端に弱く、後半に坂が集中する小豆島オリーブマラソンなんかでは、後半に坂が現れてくると必ず歩いてしまうので、前半にいくらリードされても、絶対に後半には逆転できていた。
それが近年は、坂に滅法強くなり、北山林道駆け足大会のような激坂があるレースでも、上り坂の途中で追い抜かれて愕然とする事がある。

(ピッグ)「それは幹事長が衰えてきたからじゃないですか?」
(幹事長)「どきっ!」


しかしながら、この酸欠マラソンだけはまだ支部長に負けた事が無い。いくら上り坂に強くなった支部長であっても、酸欠マラソンの前半の激坂を前にすると撃沈してしまうのだ。
支部長にとっては、ただでさえ酸欠マラソンは絶望的なレースなのに、さらに今年は故障により練習不足が顕著なので「絶対に出たくない」と言うのも理解できなくはない。


〜 開催時期の変更 〜


酸欠マラソンは、コロナのバカ騒ぎで中止になる前の2019年までは9月初めに開催されていた。そのため、7月末の汗見川マラソンと並ぶ四国の夏場の貴重なマラソン大会だった。
四国で夏場にマラソン大会が非常に少ないのは、あまりにも暑くて走るのが大変だからだ。なので、かつては、夏場にはマラソン大会にほとんど参加せず、5月のオリーブマラソンが終わった後は、秋までマラソン大会には出てなかった。
でも、真夏にレースに出ないと、夏の間、ランニングをサボってしまいがちになる。レースが無くても地道にトレーニングできる真面目な人ならいいんだけど、我々のように心が弱いと、レースが無いとどうしてもサボってしまう。
なので、少しでもモチベーションを維持するため、暑い中でもレースに出たい訳だ。

酸欠マラソンと並ぶ貴重な真夏のレースである汗見川マラソンは7月末なので、天気が良いと間違いなく炎天下の灼熱地獄となる。おまけに天気が悪いと豪雨になり、土砂崩れが発生して、すぐ中止になる。つまり炎天下の灼熱地獄か土砂崩れによる中止かという極端な二者択一になる。
それに比べれば、酸欠マラソンは9月初旬だったし、標高が非常に高いので、炎天下でも気温は少しマシだ。ただ、標高が高いため直射日光は強烈で、肌がじりじりと焦げていく。

でも、私は夏の猛暑の炎天下に走るのは嫌いじゃない。寒い中を走るよりは暑い中を走る方がよっぽど楽しい。なので、暑くても割りと平気だ。

(支部長)「タイムは悪いけどな」

もちろん炎天下のレースはタイムは悪くなる。タイムの事を言えば、やはり寒い冬場のレースの方が良いタイムが出る
厳冬期に開催される丸亀マラソンなんか、雪が降ることもあるが、風さえ無ければ寒ければ寒い方がタイムは良い。季節的には11月から3月くらいまでのマラソン大会が良いタイムを期待できる。
なので、「暑くても平気」ってのは「嫌いじゃない」という意味であって、タイムは寒ければ寒いほど良い。夏場なら雨が降って肌寒いくらいが良い。
でも、それじゃあ本当は楽しくない。夏場のマラソン大会なら、やはり猛暑の炎天下のレースが楽しい。タイムは悪くても楽しい。

(支部長)「タイムが悪くても言い訳できるしな」

夏場のマラソン大会なら、タイムが悪くても暑さのせいにできるのも嬉しい。もし、それほど悪くなければ、「こんなに暑いのに、よく頑張ったな」なんて自己満足に浸ることもできる。

ところが、貴重な真夏のレースだった酸欠マラソンの開催日が遅くなってしまった。
2019年までは開催日は9月初旬だった暑い暑い四国の真夏に開催される大変貴重なマラソン大会だった。
それが、コロナのバカ騒ぎで中止になった2020年は早々に中止が発表されたのでよく分からないが、事務局の発表文では「10月11日開催予定だった」としている。
また2022年も早々に中止になったので詳細は不明だが、事務局の発表文では「10月に開催予定だった」としている。
そして、遂に復活した今年は、やはり10月になった

これまでずっと9月初旬だったのに、なぜ1ヵ月も遅らせて10月になったのかは分からない。9月は暑いので10月に変更したのだろうか
酸欠マラソンの事だけを考えると、暑い9月初旬よりは10月の方が好ましいのかもしれない。
しかし、我々としては9月初旬に開催されるからこそ存在意義が高かった夏場の空白期間を7月末の汗見川マラソンと共に、埋めてくれる貴重なマラソン大会だったからだ。

それに、10月になると他にもいっぱいマラソン大会があり、存在意義が無くなるどころか、スケジュールが立て込んで大変な事になる
まずは、超過激な山岳マラソンである酸欠マラソンと脱藩マラソンが2週連続で開催されると言う大惨事になった。いくらなんでも、こりゃ厳し過ぎる。
さらにその後も、スケジュールが立て込んで大変な事になっている
 10月1日 酸欠マラソン
 10月8日 脱藩マラソン
 10月15日 こんぴら石段マラソン、四万十ウルトラマラソン
 10月29日 庵治マラソン
 11月5日 下関海響マラソン


(幹事長)「完全に川内優輝状態やな」
(ピッグ)「心構えはまるで違いますけどね」


このような状況なので、是非とも酸欠マラソンの開催は9月初旬に戻して欲しいところだ。


〜 8年間で6回も中止になった幻のマラソン大会 〜


個人的には夏場の暑いマラソンは大好きなんだけど、実はこの酸欠マラソンは暑さよりも、むしろ悪天候の方が強敵だ。

酸欠マラソンに我々が初めてエントリーしたのは7年前の2015年だ。初めての参加だったので、緊張しつつもワクワクしながら麓の西条から延々と瓶ヶ森林道を上って行った。
瓶ヶ森林道は気持ちの良い絶景コースだが、麓から上がっていくのが一苦労で、曲がりくねった狭い坂道を延々と1時間も上り続けてようやく瓶ヶ森駐車場に着くため、レース前からグッタリしてしまう。
瓶ヶ森林道は標高が高いので、天気が悪くなる事は覚悟はしていたが、上に着いたらやはりガスの中で、小雨もパラついていた。

それでも大した雨ではないし、大した風でもない。ガスで景色は見えないし、風の中を走るのは辛いが、それでも我々は走る気まんまんだった。
ところが、スタートを待っていたら、なんと、突然、中止になってしまった。これには呆然とした。かつてマラソン大会は、どんなに暴風雨が荒れ狂っても、天気のせいで中止にはならなかった
2012年の徳島マラソンは台風顔負けの暴風雨の中でも決行された。あの時に比べたら、雨が降っていると言っても、大したことはないし、風も弱い。

そもそもマラソン関係者の間では、雨や風の影響で大会を中止にするなんて発想は皆無だったはずだ。 それが、いつから変わってしまったのだろうか。
おそらくは、事故でも起きたらアホなマスコミや民主党が一斉に声高に非難するからだろう
参加しているランナー達は、天候の事は自己責任で出場しているのだから、天候のせいで事故が起きても文句言うような幼稚な人はいないはずだ。
そもそも、夏場のマラソン大会なら、天気が良くて炎天下を汗だくになって走るより、むしろ雨の方が望ましいくらいだ

てな事で、怒り狂いながら下山したが、どうしても参加したくて、翌年の2016年に再チャレンジしたら、打って変わって快晴となり、気持の良いレースとなった
ただし、酸欠マラソンのコースは1400〜1700m前後で、四国の道路としては最も標高が高いから、快晴でも下界よりはだいぶ涼しいだろうと期待してたら、甘かった。
標高が100m違えば気温は0.6℃違うから、下界より10℃くらい低いはずだが、下界がめちゃ暑い日だったら、山の上もそこそこ暑い。
しかも、高原なので曇っていると夏でも肌寒いくらいで、空気も澄んで気持ち良いが、ひとたび太陽が顔を出すと空気の薄い高原のギラギラした直射日光が強烈に当たり、肌が焼けていくような灼熱地獄になるのだ。
おまけに強烈な激坂にぶちかまされて、ハーフマラソンとしては歴史的な敗北を喫するタイムとなった。

他のマラソン大会なら、走っている最中は「早く終わりたいなあ。なんでわざわざこんな辛い思いをしてるんだろう。途中でリタイアしたいなあ。もうこんなマラソン大会には出たくないなあ」なんて思うけど、ゴールしたとたん、「よし、来年もまた出よう!」なんて思うものだ。
でも、2016年の酸欠マラソンではレース後も「あまりにも厳しかったから、こんなレースにはもう二度と出たくないなあ」なんて思った。それほど厳しかったのだ。
ところが、それに対して支部長

(支部長)「いやいや、こんなタイムでは終われないぞ。来年はリベンジせんと」

なんて言ったのだ。
真っ先に脱落に同意してくれると思った支部長がやる気を見せたので、翌年の2017年にもチャレンジしたら、時々雲に陽が隠れる天気だったので、前年ほど暑くはなく、そのおかげで少しはタイムがマシだった
とは言っても、ほんの少しマシだった程度で、他の大会のタイムに比べたら歴史的敗北に変わりは無い。
それでも、2回出ると楽しさが分かってきて、もう止められなくなった。

てな訳で、翌年も出場しようと思っていたら、2018年は再び雨で中止になってしまった
確かに天気予報は悪かったが、台風でも何でもない、ただの雨だ。2012年の徳島マラソンの時のような台風並みの暴風雨ではなくて、単なる雨だ本当に中止にする必要があったとは思えない

そして、2019年もまた中止になってしまった前々日に事務局から電話があり天気が悪そうなので中止になりました」と告げられた。確かに天気予報は雨だったが、大雨の予報ではなく降ったり止んだり程度の雨の予報だ。
しかも前々日だから、まだ本当に降るかどうかも分からないそんな曖昧な天気予報で中止決定するなんて、早まり過ぎだ
そして、結果論だが、当日はほとんど雨も降らず、風も弱かった。どう考えても開催できた天気だ

そして、2020年も3年連続で中止となり2021年も4年連続で中止となり2022年も5年連続で中止になってしまった
ここ3年間の中止の理由は、悪天候ではなくてコロナのバカ騒ぎだから別問題ではあるが、エントリーし始めてから8年間で6回目の中止だ。
開催されたのは8年間で僅か2回だ。毎年エントリーしているのに2回しか出場していないのだ。
ここまで中止が続くと、まさに幻の大会だ。

(幹事長)「本当に存在するのかどうか確信が持てなくなってきたな」
(支部長)「夢か幻やったかもしれんなあ」


それが、今年、ようやく復活したので、幻ではなかった事が証明された。

(幹事長)「9年間で3回目の開催やから3割3分3厘やな」
(石材店)「素晴らしい3割バッターですがな」


〜 超厳しい山岳マラソン 〜


酸欠マラソンは夏場の貴重なマラソン大会というだけでなく、非常に厳しいコースも魅力だ。
四国の夏場のマラソン大会と言えば、高知県内の標高の高い場所で開催される山岳マラソンばかりだ。
我々も、ここんとこ毎年、夏場は高知の山岳マラソン4連戦が恒例となっている。6月上旬の北山林道駆け足大会7月下旬の汗見川マラソン、9月上旬から10月上旬に変わった酸欠マラソン、そして10月上旬の龍馬脱藩マラソンだ。

なぜ山岳マラソンが夏場に集中しているのかと言えば、夏は暑いから、少しでも気温の低い山岳地帯でマラソン大会を開催しようという発想からだ。特に四国の夏はアホみたいに暑く、平地でマラソン大会なんか開催したら死屍累々の大惨事になる。
そのため山岳地帯で開催するんだけど、じゃあ山の上なら涼しいのかと言えば、これはトンでもない勘違いで、四国では山の上でも暑いのは同じだ
暑いのには変わりがないうえに、山岳マラソンなのでコースは非常に厳しいから、暑さとコースの厳しさとダブルパンチで、トータルとすれば極めて過酷なマラソン大会となる。

酸欠マラソンが開催されるのは高知県伊野町だが、伊野町と言っても、元々の伊野町のイメージではない。元々の伊野町は、高知市のすぐ西側にある和紙の産地であり、山深い町ではない。
酸欠マラソンが開催されるのは、合併で伊野町に吸収される前は本川村だったところだ。しかもコースは瓶ヶ森林道で、本川村の中でも北の端にあり、高知県と愛媛県の県境近くを走る道だ。

瓶ヶ森林道UFOラインとも呼ばれ、標高1300m〜1700mの尾根沿いを縫うように走るルートは、天空へと続く絶景のドライブコースとして人気があり、トヨタ自動車のテレビCMにも使われたりしている絶景コースだ。
尾根の上の道を走るから、天気が良いと展望が素晴らしくて気持ち良い。少なくとも車で走ると、それほどアップダウンがあるような感じはなく、快適な尾根の道だ。

(幹事長)「加藤くんは自転車で走った事があるそうだが、自転車なら坂は厳しく感じた?」
(加藤)「いえいえ、自転車で走ってもフラットな感じで、快適でしたね」


瓶ヶ森林道は標高が高いので、麓から自転車で上がってくるのは非常に厳しいが、もちろん加藤選手は瓶ヶ森林道まで車に自転車を積んで上がり、なだらかな天空の絶景コースだけを走ったに過ぎない。

(加藤)「わざわざ言う必要があるんですか?」
(幹事長)「知らない人が、加藤さんって凄いのね、なんて誤解したらいかんからな」

瓶ヶ森林道は展望が素晴らしい絶景コース


だが、車や自転車で走っているとフラットに思えるが、自分の足で走ると、かなり強烈にアップダウンがある

酸欠マラソンのコースはスタート地点から最高地点までの高低差が300m近くある。しかもスタート直後の序盤で、3kmちょっとの間に250mも上るから、勾配は8%以上となる。8%もの勾配を3kmも登るなんて、これは強烈以外の何物でもない。
最高地点はスタート地点から4kmほど走った瓶ヶ森登山口の少し先で、そこを超えると今度は下りが6kmほど続いて折り返し点に至る
折り返した後は、当たり前だが、6kmほどの坂を登り返し、最後に4kmほどの急坂を下ってゴールとなる。終盤の4kmが下りになるのは嬉しいような気がするが、レース終盤で足がヘタってきた頃の急な下り坂は決して楽なものではない
つまり、最初から最後まで厳しいコースだ。

他のマラソン大会と比較すると、ハーフマラソンでは、龍馬脱藩マラソンのハーフマラソンや汗見川マラソンと比べると、最大標高差、獲得標高、平均斜度のいずれをとっても酸欠マラソンの方が厳しい。
つまり、酸欠マラソンは四国内の山岳マラソンのハーフマラソンで文句なしに一番厳しいコースと断言できる。

なお、酸欠マラソンにはハーフマラソンのほか、10kmの部がある

(幹事長)「こんな遠方までわざわざ行って10kmの部に出る奴なんて、おらんわなあ」
(加藤)「すんませーん。私、10kmの部に申し込んでおりまする」
(幹事長)「なんとかーっ!」


なんと、加藤選手は10kmの部にエントリーしたんだそうだ。

(支部長)「え?10kmの部なんてあったの?それなら、10kmの部にエントリーしたら良かったかなあ」

ただし、10kmの部は距離は短いが、ハーフマラソンの5km地点で折り返してくるから、最初の3kmの激坂は同じように上らなければならない。なので、それほど楽ではない。
むしろ、コースの大半が激坂の上り下りとなる厳しいコースだ。

(幹事長)「むしろ厳しいコースだ」
(加藤)「えっ?そうだったんですかっ!?」


酸欠マラソンの定員はハーフマラソンの部と10kmの部を合わせて400人だ。定員400人のマラソン大会なんて全国的にも少ないだろう。
もっと増やせばいいと思うんだけど、道の狭さとか駐車場の容量とか考えると、それが限界なのかもしれない。
て言うか、僅か400人の参加者のために、こんな山奥でマラソン大会を開催してくれる伊野町様には本当に感謝だ
北山林道駆け足大会や汗見川マラソンや脱藩マラソンもそうだけど、高知県の市町村はマラソン大会の開催に熱心なので、本当に本当に有難い。
香川県の市町村も見習って欲しいところだ。


〜 ドタキャン 〜


レースの前日の朝、D木谷さんから連絡が入る。

(D木谷)「あのう、朝っぱらから済みません」
(幹事長)「ええですよ。支部長ほどではないけど、最近は高齢化が進んで早起きになってますからね」
(D木谷)「実は、明日の酸欠マラソンなんですけど・・・」
(幹事長)「車出しができなくなったんですか?困りましたねえ。加藤選手を脅して車を出させるしかないなあ」
(D木谷)「いえ、違うんです・・・」
(幹事長)「じゃあ、何ですか?」
(D木谷)「体調不良で走れる状態じゃなくなって」
(幹事長)「なんとかーっ!底知れぬ体力を誇るD木谷さんが体調不良とな!」

今年5月には、食あたりで激烈な腹痛と極度の体調悪化でのたうち回っていたにもかかわらず、五色台サイクリング&登山に参加したほどの強靭な肉体を誇るD木谷さんが出られなくなってしまった。
それで、急遽、代役を募った。

(幹事長)「支部長はどうかな?」
(支部長)「せやから私はあの激坂を走り切れるイメージが湧かないんやってば」


支部長の意思は固かったの、今回は4人で参戦する事になった。


〜 会場へ出発 〜


急遽、車はO野選手に出してもらい、加藤選手をピックアップしたあと、4時20分に私を迎えに来てくれ、その後、のらちゃんをピックアップして5時頃に出発した

なんで、そんなに早く出るのかと言えば、現地に着くまでに関門があるからだ。
現地での受付時間は9時半までOKなんだけど、車は会場までは行けず、4kmほど手前の瓶ヶ森登山口にある駐車場に車を置いてシャトルバスで移動しなければならない
シャトルバスの最終は9時だから、それまでに駐車場に入れば良いんだけど、麓から少し登った旧寒風山トンネル出口に関所があり、マラソン大会の交通規制のため、そこを通れるのは8時20分までで、さらにその手前の新寒風山トンネル出口にある関所を通れるのは8時までとなっている。
順調に行けば新寒風山トンネル出口まで2時間もかからないだろうけど、何かトラブルでもあれば遅れてしまうから、少し余裕を持つためには5時頃には出発した方が安全だ。

4時過ぎに屋外に出ると、まだ真っ暗だが、それほど寒くはない。今年はキチガイみたいな猛暑が続いており、10月に入ってもまだまだ寒くはないのだ。
しかも、天気予報では今日は晴れるとの見通しだ。10月になっても、天気が良ければ暑くなるのは避けられない。山の上なので、麓に比べたら気温は低目だけど、天気が良いと日射しが強い炎天下のレースになる。
なので、今日は酷暑のレースに備えて薄いメッシュのシャツも持ってきたし、日焼け止めクリームや日射しを避けるための帽子も持ってきた。

ところが、車で走り出すと、なんと雨が降ってきた

(幹事長)「雨が降るなんて、天気予報で言ってた?」
(O野)「全然言ってませんでしたよ!」


晴れが曇りになるとか、曇りが雨になるのなら分かるし、それなりに用心もするけど、晴れ予報なのに雨が降り出すなんて予想もしてなかった。
たぶん、雨は夜のうちだけで、夜が明けたら止むのだろうとは思うけど、それは下界の話だ。
一般的に山の上は麓に比べたら天気が悪い。下界が晴れていても曇っている事は多いし、下界が曇りなら雨の可能性がある。
そもそも、酸欠マラソンの天敵は悪天候だ。上にも書いたように、過去5回エントリーしたうち3回もが悪天候のために中止になってしまっている。
四国山地で最も標高が高く、日本海側から瀬戸内海を越えて太平洋側まで風が通り抜けていくような地域なので、下界は天気が良くても、山の上は天気が荒れやすいのだ。

もちろん、少なくとも夏場のマラソン大会なら、雨そのものは決して嫌いではない。
2010年の第33回小豆島オリーブマラソン大会で大雨の中を快走できたため、雨に対する抵抗感は払拭されたし、2013年の汗見川マラソンでも、直前に雨が降って気温が下がったため快走できたので、もう雨は恐れていない
とは言え、瓶ヶ森林道は四国で最も標高が高い林道であり、風が北から南へ吹き抜ける稜線なので、風雨を甘く見てはいけない。
今日の気象状況を考えると、暴風雨の可能性は低いと思うが、寒くて走れなくなる恐れはある。炎天下対策ばかり考えて、寒さ対策なんて考えてもみなかったから、これはマズい事になるかも。

小雨が降る中、高速道路を走り、西条インターで高速道路を降りて国道11号線を西へ進む。
車の中で朝食を食べる。もちろん、朝食はおにぎりだ。
以前はレース中にお腹を壊すことが多かったので、用心して朝食と一緒に下痢止めの薬も飲んでいたが、2015年の徳島マラソンから朝食を菓子パンからおにぎりに変えてみたらその後はお腹を壊さなくなった
パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く、下痢になりやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いので、おにぎりを食べれば、もう下痢を心配する必要は無いのだ。
なーんて、すっかり油断してたら、なんと2020年の高知龍馬マラソンでは5年ぶりにレース中にお腹を壊して20分もトイレにこもってしまった。さらに2022年の神戸マラソンでも、29km地点でトイレに駆け込み、大幅にタイムをロスしてしまった。
原因は分からない。でも、少なくともおにぎり路線が悪い訳ではないだろう。栄養補給が重要だと考えて、おにぎりの他にバナナやゼリーも食べたりしていたから、それらを控えるべきかもしれない。また、レース中に調子に乗ってエイドで色々食べ過ぎるのも良くないかもしれない。
今日もゼリーは持ってきたが、これはスタート前に必要に応じて食べることにする。

国道11号線から加茂川を渡ったところで南に折れて国道194号線に入る。そのまましばらく南へ走った後、新寒風山トンネルを抜けたら山道に入り、クネクネした急勾配の道を上がっていく。

(O野)「聞いてはいましたが、なかなか険しい道ですね」
(幹事長)「ふふふ、甘いな。もっともっと酷くなるよ」


小雨は降ったりやんだりだが、標高が上がるに従って雲の中に入っていくのでガスが濃くなり視界が悪くなってきた


〜 瓶ヶ森林道 〜


山道を20分ほど上がると、旧寒風山トンネルの出口に着く。ここから瓶ヶ森林道が始まる。
ここから先はマラソン大会のための通行制限区間となり、関所には番兵がいる。一般車両は7時から通行止めで、マラソン大会参加者も8時20分からは通行止めとなるが、まだ7時半なのでそのまま通してくれた。

ここには登山客用の駐車場がある。紅葉シーズンの日曜日ともなると、トンでもない大勢の観光客がやって来て、駐車場は満車になるし、林道にも数多くの車が路肩駐車するようになる。
今日はまだ紅葉シーズンには早いし、天気も悪いが、それにもかかわらず早朝から既にかなりの台数の車が停まっている。

(幹事長)「こんな天気の悪い日に登山しに来るアホがようけおるな」
(加藤)「登山家の幹事長とは思えないお言葉」
(幹事長)「わしは天気の悪い日には絶対に登山しない主義やからな」
(加藤)「天気の悪い日に山の上でマラソンするのは良いんですか?」
(幹事長)「雨の中を登山するのは辛いだけやけど、雨の日のランニングは楽しいな」
(のら)「雨の中のランニングも辛いだけだよ!」


国道194号線からの上り口が標高700mで、ここの標高は1100m程度だから、まだ400mしか上がってきていない。瓶ヶ森林道の最高点は1700m程度だから、まだまだ上がらなければならない。
駐車場を過ぎると、傾斜は緩やかになるが、道幅の狭いクネクネの林道は延々と続く。一歩間違えたら脱輪して谷底まで転落しそうだ。

(O野)「道幅が狭くてクネクネしてて、本当に気が抜けない道ですね」
(幹事長)「だからわしは自分で運転しない事に決めたんだよ」


いくつかある小さなトンネルは完全に1車線分しかないから、すれ違うのは不可能だが、トンネル以外でも道は狭くて対向車とすれ違うのは難儀する
しかも、今日みたいにガスで視界が悪いと、対向車があると突然現れる事になる。

(幹事長)「でも今日はマラソン大会で交通規制がかかってるから対向車が現れる可能性は無いけどな」

なーんて言ってたら、突然、対向車が現れた。

(幹事長)「こんな時間に山を下りてくるなんて迷惑な車やな。一体何をしてるんや!」
(加藤)「大会関係者じゃないですか?」


私は乗り物酔いに弱いから、こういうクネクネした急勾配の坂道は苦手だ。すぐ酔ってしまうので、思いっきりシートを倒して横になる。こうやって寝ていると酔いにくくなる。
それでも、前日、もっと早く寝れば良かったんだけど、ついつい油断して夜更かししてしまい、なんとなく頭が重く、カーブの揺れが頭に響く。

しばらく進むと、東黒森山の近くに小さなトンネルが2つ並んでいる。このトンネルの東側が折り返し点となる。
例年なら、ここに既に折り返し点の三角コーンとか関係者用の椅子とかが準備されてるんだけど、何も見当たらない

(幹事長)「この時刻になって何も無いって、おかしくない?」
(加藤)「まさか中止じゃないでしょうねえ」
(幹事長)「まだ開催するかどうか迷ってて準備してないのかなあ」


ここは携帯電話が通じないが、瓶ヶ森林道へ上がってくる直前に大会事務局の電話案内にかけてみたら、「今日は開催します」とは言っていた。
とは言え、スタート直前になって中止が決まった2015年の例があるから、まだ迷っているのかもしれない。
とりあえず、開催されるだろうとの前提で進まなければならない。

コースは、スタート地点からこの折り返し点まで走ってきて、折り返して戻って行く事になる。

(幹事長)「ここからがマラソンコースやな」
(O野)「運転に必死なので、あんまりコースのチェックができません」


折り返し点からは基本的に上り坂が続く

(O野)「車で走ってると、ほとんどフラットに感じますね」
(のら)「これが足で走るとかなりきついのよ」
(幹事長)「序盤の4kmに比べたら緩いんだけどね」
(のら)「序盤の4kmに比べたらマシっていうだけで、疲れた足にはすごくきつく感じるよ」
(O野)「思った以上に大変なコースですね」

このコースで最も坂が厳しい区間はスタートから4km地点辺りにある瓶ヶ森登山口までで、そこを過ぎた後は緩やかな下り坂が6kmほどダラダラ続く
その後、折り返し点で折り返したら、その道を戻っていくので、今走っているのは折り返した後の緩い上り坂だ。
でも、緩い上り坂とは言え、それはスタート直後の激坂との比較であって、実際に走ってみると、結構、厳しい坂だ

折り返し点の西にある2つの小さなトンネルを抜けると見晴らしの良い区間になり、前方に自念子の頭と呼ばれる小山が見えてくる。
ここがUFOラインの絶景ポイントで、とても有名な景色だ。走るのが厳しい上り坂ではあるが、晴れていれば一番気持ちが良い区間なので、気が紛れるところだ。
しかし、今日はガスで真っ白で何も見えない。

(O野)「ここの景色が素晴らしいと聞いて参加したんですけど、何も見えなくて残念ですねえ」
(幹事長)「何も見えないと、単にアホみたいに厳しいだけのコースやな」


自念子の頭の辺りは、ほぼフラットな感じになるが、そこを過ぎると再びトンネルがあり、トンネルを抜けると景色が一変する
前面に瓶ヶ森の山腹が現れ、それを横切る林道がはるか上に見える。あんな所まで上っていくのかと思うと気が遠くなる。
しかし、今日はガスで真っ白で何も見えない。

(幹事長)「ここは見えると絶望的になるので、何も見えない方がマシかな」

かなりきつい上り坂を上り終えると、ややフラットに近くなり、吉野川源流の碑がある。10kmの部は、この500mほど手前(西)が折り返し点になる。
この辺りがピークのように見えるが、実はそれは偽ピークであり、まだまだ上りが続く。ようやくピークになったかなと思ってカーブを曲がると、もっと高いピークが見えてくるっていう事が何度も繰り返される。かなり精神的に辛い区間だ。
折り返し点から6.5kmほど走ったら、ようやく瓶ヶ森駐車場に着いた。


〜 会場へ移動 〜


ここまでコース上には距離表示が全く見当たらなかった。最近、認知症がひどいので、自分の記憶には絶対的な自信が無いんだけど、確かこのレースは1kmごとに距離表示があったはずだ。
折り返し点にも三角コーンとかが準備されてなかったくらいだから、まさか今から準備するのか?それとも今年は距離表示が無いのか?単に私の記憶違いなのか?
真相は、ガスで真っ白で何も見えない。

(加藤)「うまいこと言いましたね」

瓶ヶ森駐車場に順調に来られたため、時刻はまだ7時過ぎだ。ちょっと早く着き過ぎた。
それでも既にそこそこの数の車が停まっている。ナンバーを見ると大阪とか神戸とか遠方から来ている車もある。

(幹事長)「こんな四国の山奥の超過激な山岳マラソンに遠路はるばるやってくるなんて、好きものやなあ」
(加藤)「全国各地に出没している幹事長には言われたくないでしょうね」
(幹事長)「鉄オタの君には負けるけどな」

外は相変わらず霧雨が降っていて、肌寒い。

(幹事長)「こんなに寒くなるなんて考えてもみなかったぞ」

寒いので車の中で待機していたが、しばらくするとスタート会場の山荘しらさへ送ってくれるマイクロバスがやってきたので、すぐさま乗り込む。
ここから会場までの4kmが最も傾斜が急な厳しい坂だ

(O野)「これはすごい坂ですねえ。強烈ですね」

普通、坂のきつさは車で走ってると分かりにくいものだが、この坂は車に乗っていても明らかに厳しい坂だと分かる。車が転倒しないか心配になるほどの急勾配だ。

瓶ヶ森の登山口からしばらく下ると子持権現山がある。
子持権現山瓶ヶ森のすぐ南にある山で、標高は1677mもあるが、一般的な登山口は瓶ヶ森林道にあり、登山口から山頂までの標高差は100mにも満たない小さな山だ。山と言うより、大きな岩の塊と言った方が相応しい。
この山の存在はだいぶ前から知ってて、「剱岳のカニのタテバイより怖い」と言った話を聞いていたので、とても興味があった。
でも、100mにも満たない山に登るのに、わざわざ遠路はるばる出かけていくのは面倒なので、延び延びになっていた。
酸欠マラソンは子持権現山の登山口がある瓶ヶ森林道で開催されるので、酸欠マラソンに参加したついでに登ろうと思えば登れるように思える。
だが、本番のレースの日は瓶ヶ森林道は全面的に車両通行止めになるので、レースの前後に登山口まで行くのは困難だ

それが、2020年にコロナウイルスのバカ騒ぎが勃発して大会が中止に追い込まれたため、我々で初めて酸欠マラソンを自主開催したとき、ふと子持権現山の話題が出た
それで、翌年の2021年の酸欠マラソン自主開催の際に子持権現山の登山も決行しようと言うことになった。自主開催なので何の制約も無いのだ。
その結果は子持権現山登山として登山部の活動のコーナーに掲載しているが、雨で濡れた岩がとても滑りやすくて、思いのほか登りにくかったにもかかわらず、誰も滑落することなく無事に登山する事ができた。

(幹事長)「誰か一人くらい落ちると思ってたんやけどなあ」
(D木谷)「これから毎年、酸欠マラソンに合わせて登りましょう!」
(のら)「うん、それが良い、それが良い!」
(支部長)「嫌だ。もう二度と登りたくない!」

子持権現山を過ぎると、道は一段と急になっていく。クネクネの急坂だから車も慎重に走り、会場の山荘しらさに着くまで結構、時間がかかった。

山荘しらさは数年前から工事中で使用禁止だったが、一昨年、ようやく工事が終わり、新装開店した
外観はどう見ても古い建物を塗り直しただけのように見えるが、内部は全く新しい建物に生まれ変わっている。宿泊施設だけでなく、レストランも併設されており、とてもきれいでお洒落な造りに改装されている。

会場に着いたら、まずは受付だ。
Tシャツやタオルやパンフレットをもらう。たいていのマラソン大会はTシャツかタオルのどっちかだが、この大会は両方くれるのが嬉しい。
今年のTシャツは背中に大きく「酸欠」と書かれたインパクトのある画期的なデザインだ。色を申込時に選択できるのも良い。私とのらちゃん加藤選手はピンクにし、O野選手は黒、D木谷さんのは青だった。


〜 出走準備 〜


受付が終わったら、山荘しらさの中に入り、着替えをしなければならない。
ウェアの選択は、どんな季節のマラソン大会であっても最も重大な問題だ

(のら)「今日は何を着るの?」
(幹事長)「こんなに寒くなるとは思ってなかったから困ったなあ」


今日は炎天下のレースになると思っていたので、炎天下対策しかしてこなかった。暑さを見ながら、薄いメッシュのシャツか普通のTシャツのどちらかを選ぼうと思っていた。
ところが、こんな肌寒い雨になると、長袖が欲しい。
雨と言っても霧雨ならなんとかしのげるが、意外に強く降ったりしている。下界なら、今の季節なら多少の雨は平気だが、標高が高いので雨に打たれると体が冷えるだろう

(のら)「一昨年着ていた長袖インナーウエアにしたら?」
(幹事長)「持ってきてないのよね」
(のら)「何があっても対応できるように色んな準備をしてくるんじゃなかったの!?」


予想外のコンディションになった時は、いつも「次回は何があっても対応できるように色んな準備をしてこなければならない」と反省する。
なので、今日も薄いメッシュのシャツや普通のTシャツや、ランニングタイツや脹脛サポーターやアームウォーマーや手袋や嫌いなランニングキャップまで持ってきた。
しかし、ここまで寒くなるなんて想像もしてなかったから長袖は持ってこなかった

(のら)「やっぱり認知症がひどいね」
(幹事長)「自分が情けなくなりますわ」


薄いメッシュのシャツの上にTシャツを重ね着しようかとも思ったが、アームウォーマーを着けると思いのほか寒さが和らいだ。これならTシャツ1枚でもいけるかもしれない。
て事で、2017年のタートルマラソンでもらったピンクのTシャツを着た。
のらちゃんもTシャツにアームウォーマーを着けているが、さらに雨除けのビニール袋を被っている。

(のら)「これで暖かいよ」
(幹事長)「それって、走り出すと凄く暑くなるんよ」


ビニール袋の威力は強力で、とても暖かいんだけど、これまでの経験からすると、走り出すとすぐにとても暑くなり、走りながら脱がなければならなくなる。
私なら走りながらウェアを着たり脱いだりするのに慣れているから平気だが、のらちゃんはそんな事は慣れてないので、私の忠告に従って渋々ビニール袋を脱いだ。

下は練習の時にいつも履いているランニングパンツを履いた。
のらちゃんはいつものようにタイツを履いている。私も今日はタイツを持ってきたが、なんとなく寒さにも慣れてきたので、タイツは履かずに脹脛サポーターを履いた。
脹脛サポーターの役割は筋肉の疲労防止なんだけど、今日は寒さの軽減にも少しは役立ちそうだ。

雨が大降りになれば嫌いなランニングキャップも被ろうと思っていたが、どうやら小降りになってきたので、ランニングキャップは被らない事にした。
手袋も時計のボタンが押しにくいので履くのは止めた。
ランニングパンツのポケットにハンドタオルとティッシュを入れたら、準備完了だ。

準備が終わった頃におんちゃんと連絡が取れ、再会できた。

(幹事長)「今日も10kmの部ですか?」
(おんちゃん)「いえいえ、今日はハーフマラソンに出ます」


おんちゃんは、前回の2017年大会では上位入賞狙いで10kmの部に出ていたが、今日はハーフマラソンに出るそうだ。

おんちゃんと合流したところで、みんなで記念撮影をする。小雨が降っているので、あんまり外には出たくなかったが、混雑している山荘の中では撮りにくいので、仕方なく外に出る。

悪天候のためイマイチ気分が乗らない参加メンバー
(左から加藤選手、のらちゃん、幹事長、O野選手、おんちゃん)


雨の中をウォーミングアップで軽やかに走っている人にお願いして撮影してもらった。

(幹事長)「めちゃ軽やかに走ってるね」
(のら)「私もあんな風に走りたいよ」


小雨は降り続いているが、意外にそんなに寒くはない。猛暑のなごりで気温が高いせいだろうか。これなら薄着でもなんとかなりそうだ。

スタートの時間までまだ時間があるので、すぐに山荘の中に戻ると、庵治マラソンで毎回のらちゃんと女子年代別部門の優勝争いを繰り広げているライバルさんがいたので、色々と世間話をする。
彼女はなんと、前回の2017年大会で女子年代別部門で優勝したため、今日は招待選手で来たんだそうだ。招待選手なので参加費がタダなんだそうだ。

(のら)「じゃあ私も優勝を目指さなくちゃ!」
(ライバル)「あれから6年が経ち、同じ年代別部門に若い人が6年分入ってきたから、もう優勝は無理よ」
(幹事長)「そうやろねえ」


今日は彼女は10kmの部に出るので、のらちゃんとの一騎打ちが見られないのが残念だ。

そのうち開会式が始まったが、小雨が降っているので、大半の参加者は山荘から出ようともしない。
それでも、10時のスタートの10分くらい前になり、ようやくゾロゾロと出始めたので、我々も重い腰を上げて外に出た。


〜 スタンバイ 〜


既に大半のランナーが集まっていたが、ハーフマラソンの参加者数は206人と少ないから、どこに並んでもさほど変わりは無い。
て言うか、この厳しいコースで良いタイムは出るはずがないからスタート時の多少のタイムロスは誤差の範囲だ。

参加者の総数も少ないけど、女子の参加者はさらに少なく、ハーフマラソンの部は女子は僅か33人だ。男子の173人に比べると2割にも満たず、とても少ない。最近のマラソン大会は女子の参加者が多いんだけど、この大会はコースが厳しいから少ないのだろう
逆に言えば、こんなレースに参加する女子ってのは相当な実力者揃いだから、決して女子だからと言って侮ってはいけない。もちろん男子だって、こんな厳しいレースに参加する選手の実力はレベルが高い。
10kmの部は女子も結構多く、参加者数102人のうち全体の4割が女子だ。

(幹事長)「狙い通りやな」
(加藤)「滅相もない!」


このレースは最初の4kmの上りが厳しいコースであり、10kmの部だってそこまでは上らなければならないから、厳しい事に変わりはない。

参加者僅か206人のマイナーなレースなのに、タイムは計測チップで計ってくれる。同じようにマイナーで過激な山岳マラソンの北山林道駆け足大会も計測チップでタイムを測定してくれるようになったが、こんなに坂が強烈な山岳マラソンなんて良いタイムが出るはずないから正確に計っても何の参考にもならない
ランナーが自分の時計で計測する自己申告制度でもいいくらいだ。それなのに、不思議だ。ランナーからの要望が多いんだろうか。

(のら)「今日は完走できるかなあ?」
(幹事長)「完走できれば万々歳やなあ」


どんな時でも、どんなレースでも、常に大会自己ベストを狙うのが良い子のランナーとしてあるべき姿だ
マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるため、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。
特に、このレースは坂が厳しいから、他のレースとの比較は意味が無い。

この大会は、正式な大会には過去5回エントリーしたが、実際に開催されたのは2回だけだ。
コースが超厳しいため、2回ともハーフマラソンとしては空前絶後の歴史的大敗のタイムで、2016年が2時間15分台で、2017年が2時間13分台だ。
なので、とりあえずは2017年のタイムを目指すことになる。

ただ、2020年から2022年まで自主開催した時のタイムは、3回とも正式大会のタイムより良かった。
他のマラソン大会では、自主開催のタイムは正式大会のタイムよりかなり悪い。自主開催では緊張感もモチベーションも低いからだ。
それなのに酸欠マラソンだけは自主開催の方が正式大会よりタイムが良かった。理由は全く分からないが、正式大会の大会自己ベストを出すのが難しくない事は確かだ。

なーんて言いたいところだが、今回は圧倒的な練習不足だ。7月も8月も9月も、月間走行距離は100kmにも満たない。去年は多い月には200km以上は走っていたのに激減だ。
月間走行距離が100kmにも満たないのは、6年前の2017年春に登山で滑落して靭帯を損傷した時以来だ。
練習不足の原因は、この夏は北海道やら東北やら遠方への長期登山遠征が続いたからだ。この直前も南アルプスでの超厳しい登山が終わったばかりだ。
そのため、1週間前に慌てて20km走をしたが、終盤には足が動かなくなってトボトボ歩いたりした。登山に同行していたのらちゃんも同じ症状だ。
なので、今回は二人とも、まともに完走できるかどうか不安なのだ。私の定義では、完走と言うのは「歩いてでもゴールする」という意味ではない。「絶対に歩かない」のが完走だ。

(幹事長)「言うとくけど、一歩でも歩いたらアウトやで」
(のら)「ひえ〜!」


急な上り坂では走っても歩いてもさほどスピードは変わらない割りには、走ると体力を大きく消耗する。序盤から無理して不必要に体力を消耗すると、終盤の失速に繋がる。
なので、序盤の激坂を最初から歩くという作戦には一理ある。
しかし、一度でも歩いてしまうと、歩くのに抵抗が無くなり、すぐ歩くようになってしまう。そんなだらしない展開は回避したい。

コースを再確認すると、コース自体は車で走ってきた一本道なので、とてもシンプルだ。迷う場所は無い。
スタート地点は会場の山荘しらさの前で、4km地点辺りにある瓶ヶ森登山口まで激坂が続き、そこから少し進んだ最高点からは緩やかな下り坂が6kmほどダラダラ続く
2つ並んだトンネルを抜けてすぐ折り返すと、帰りは逆に緩やかな上り坂を6kmほど走り、最後は激坂を4km転げ落ちるというコースだ。

距離表示が無かった事が気になったので、スタッフに聞いてみた。
そしたら、1kmごとの距離表示は無いんだそうだ。確か以前はあったと思うんだけど、やめてしまったのだろうか。

ただ、この瓶ヶ森林道には、旧寒風山トンネルの駐車場を起点として、西に向かって1kmごとに道路の真ん中に大きな数字の距離表示がある
山荘しらさの前がちょうど21km地点なので、大きな数字で「21」と書いてある。スタート地点は山荘しらさの前から50mくらい北にあるが、それが分かっていれば目安になる。
道路に「11」と書かれていれば、そこから600mくらいで折り返し点があるはずだ。


〜 スタート 〜


間もなくスターターが時計を見ながらカウントダウンを始め、10時ちょうどにピストルの音が鳴ってスタートとなった。ランナーが少ないので、スタート地点を越えるまでのタイムロスは誤差の範囲だ。
普通のマラソン大会なら、スタートの合図が響くと一斉にランナーが勢いよく駆け出すが、さすがに最初から厳しい上り坂なので、それほど勢いよく飛び出さない
前の方に陣取って優勝争いをするような実力者達は勢いよく飛び出していったかもしれないが、中程より後ろのランナー達はペース配分を考えた節度ある態度で地道なスタートとなった。

最初の4kmは激坂区間だが、自主開催を含めると5回も走っているので、どういうコースか分かっている。まずスタート直後は、まだまだそれほど傾斜は厳しくはないので、淡々と走っていける。

しばらく走ると道路に「20」と大きく数字が書いてある1km地点と考えて良い。時計を見ると1km6分半弱だ。
ただ、スタート地点は山荘しらさの前の「21」の場所より50mほど北にあったので、それを考えると、最初の1kmのラップは7分ちょっとって事になる。過去の実績と比べると遅めの出だしだ。

このマラソン大会は、不便な山の中を走る小規模なレースだが、天気が良いと炎天下の厳しいレースになるため給水所はきちんと用意されている。片道に3箇所と折返し点に1箇所あるから、往復で7箇所もある。
そして序盤の急な上り坂の途中に早速、最初の給水所がある。まだまだ走り始めたばかりだが、これは嬉しい。しかもマイナーな大会なのに、水だけでなくスポーツドリンクもある。
まだ序盤で喉は渇いてないが、喉が渇いてからでは遅いので、まずはスポーツドリンクを頂く。

雨は小雨から霧雨程度になってきた。恐れていたほど寒くはないし、全く問題ない。むしろ、霧雨のおかげで呼吸が楽だ。
しかし、坂の傾斜がだんだんきつくなってきたため、徐々にペースが落ちていく。
すると、おんちゃんが早々に追い抜いていく。一瞬、着いていこうとかと思ったが、かなりスピードの差があったので諦めた。
他のランナーも追い抜いていくランナーが多いような気がするが、序盤で無理すると中盤以降に失速する恐れがあるので、無理はしない。
すると、今度はのらちゃんまで追い抜いて行った。さすがに、ここは着いていこうと思ったが、ちょっときついので早々に諦めた。

道路に「19」と数字が書いてある2km地点では、ペースは一気に落ちて1km8分近くかかっていた。
いくらなんでも、遅すぎる。序盤でここまで遅かった事は過去に無い。
一方、背中に大きく「酸欠」と書かれた今回の黒の記念Tシャツを着たお姉ちゃんが歩いている。こんな序盤で歩いているようでは完走できないぞ、と思ったが、他にも時々歩いている人がいる。

厳しい傾斜の坂は続き、道路に「18」と数字が書いてある3km地点でも、やはり1km8分近くかかっていた。
ただ、周囲のランナーも同じようなペースで走っており、私だけが大きくペースダウンしている訳でも無さそうだ。
しかも、早々に追い抜かれたのらちゃんだが、その背中はずっと見えており、差は広がっていない。これなら追いつけそうだ。

3km地点を過ぎてすぐの所に、なんと3kmの距離表示が出現した。え?どゆこと?スタッフは「距離表示は無い」と言っていたけど、所々にはあるんだろうか?
とりあえずタイムを計測している時計のボタンは押しておく。
この辺りで早くも10分後にスタートした10kmの部のトップランナーが追い抜いていく。めちゃめちゃ速い。ただ、2位のランナーはなかなか現れず、かなり差が着いていたし、3位以下のランナーには最後まで追いつかれなかった。

さらに1km走ると、ようやく坂の傾斜が緩やかになって、車を停めている瓶ヶ森登山口に辿り着いた。ここが道路に「17」と数字が書いてある4km地点だ。
なんと、ペースはさらに落ちて1km8分をオーバーしてしまった。いくら超厳しい激坂区間とは言え、過去、この序盤で1km8分をオーバーした事なんて無かった。やっぱり今日は厳しい戦いになりそうだ。
4km地点でも、少し進むと4kmの距離表示が立っていた。どういう事が分からないが、ここから先は正式な距離表示の看板が立っているのかもしれない。混乱しつつも、道路に数字が書いてある地点と、距離表示の看板が立っている地点の両方で時計のボタンを押して計測していく事にした。

ここには2つ目の給水所があるので、スポーツドリンクをもらう。
かなりタイムは悪いけど、これでようやく激坂区間が終わった。最高点まであと少しだ。もう少しで楽になれる。
気分が楽になったので少しスピードを上げると、なんとかのらちゃんに追いついたので、「上り坂も後少しやで」と声をかけながら追い抜いていく。
山の上に上がっても辺りはガスで真っ白で視界は悪い

激坂区間が終わった後も、まだしばらく緩い上り坂が続くが、スタート地点から4.5kmほど走ったところがピークとなり、ようやく下り坂になる。そこから折返し点まで基本的に下りの区間が続くのでホッとする。
全体的に平均的に言えば、序盤の4kmの急な上り坂が終わった後は、折返し点まで6kmほど緩やかな下り坂になると言えるんだけど、6kmもあるから一様ではなく、最初はしばらくは傾斜のきつい下り坂となる
ここで調子に乗って勢いに任せてガンガン下ると足に負担がかかり、終盤で足が動かなくなる」と言う忠告もあるが、ここまでの過激な上り坂から解放された嬉しさと、ここで貯金しようという気持を抑えられず、どうしてもガンガン駆け下りてしまう

少し進んだところに5km地点があり、この1km区間は上りと下りが半々だったから、なんとか1km6分ちょっとになったが、過去最悪のペースなのは変わらない。
この辺りから稜線沿いの道になり、晴れていれば見晴らしが良く、ずっと向こうの遙かかなたまで道が見える。あんな遠くまで走るのかと思うと気が遠くなるところだが、今日はガスで何も見えないので、その点では走りやすい。

下り坂になると自然に足が前にスタスタ出て、とても気持よく走れるようになってきた。快感だ。
なーんて思ってたんだけど、6km地点7km地点でのラップは1km5分半ほどだ。過去の実績では、この辺りの下り坂区間では5分ちょっとだったので、やはりスピードは上がっていない。

7km地点を過ぎたら、まだ下ってはいるものの傾斜は緩やかになり、もうガンガン走れるような道ではなくなる。て言うか、なんとなく上り坂になっているような気すらしてくる。
これは微妙なところで、本当に上り坂になっているのか、それとも緩い緩い下り坂なのか分かりにくい。それまで急な下り坂をガンガン走ってきた反動で体感的には上がっているような気がするが、よく分からない。
しばらく走ると最初のトンネルが現れる。このトンネルを抜けると8km地点があり、そこで時計を見ると、1km5分半をオーバーしていた。

このトンネルを抜けると、今度は錯覚ではなく明らかな上り坂になる。上り坂と言ったって、序盤のような激坂ではなく緩い坂なんだけど、既に疲れ始めた足には堪える。ちょうど自念子の頭の側を通っている辺りだ。
上り坂になると、序盤の上り坂で追い抜いた黒の「酸欠」Tシャツのお姉ちゃんを再び追い抜いた。実はこの酸欠姉ちゃんは上り坂に弱いらしく、上り坂になるとすぐ歩く。ところが、しばらく歩くと回復し、再び走り出すとすごいスピードで追い抜いていく。その繰り返しだ。
すぐ歩くけど、走り出すと一気にトップスピードで走り出す、って言うのは支部長と全く同じパターンだ。支部長に「そんな走り方しないで、もっとペースを抑えたら歩かずに済むのに」と言っても、「ゆっくり走るって事ができないんや」って言う。
私には理解できないんだけど、似たような人がいるって事は、そういうタイプの人が存在するって事だ。

この辺りで早くも先頭ランナーが折り返してきた。8km地点ってことは、帰りは13km地点だから、5kmも先を走っていることになる。この厳しいコースで驚くべき速さだ。
一方、私は、大したことない緩やかな上り坂のはずなんだけど、疲れた足は対応できず、9km地点でのラップは一気に6分半をオーバーした。
ただ、9km地点を過ぎたら再び下り坂になる。結構、急な下り坂だ。再び力任せにガンガン駆け下りたら、10km地点でのラップはかろうじて6分を切った。それでも過去の実績に比べたらすごく遅い。

折り返し点が近づいてきたと思ったら、おんちゃんが折り返して戻ってきた。だいぶ差がついている。O野選手は見つけられなかった。
少し進むと小さなトンネルが2つ連続しており、それを抜けると間もなく折返し点だ。なんとか半分まで走ったかと思うと一安心だ。
折返し点の給水所で水を補給し、すれ違いながら後ろから来るランナーを確認すると、すぐ後ろにのらちゃんが来た。もっと差をつけてるのかと思ってたけど、ほとんど差は無い。

折り返すといきなり急な上り坂となった。さっきは急な下り坂だったんだから当たり前だ。
今日はここまで、上り坂ではあんまり無理はせず自然体で走ってきたが、すぐ後ろからのらちゃんが迫ってきている今、もうそんな事は言ってられない。なので、上り坂だけど頑張って走る。
でも、坂の傾斜が厳しくて、なかなか足は前に出ない。珍しくお尻の筋肉がヒクヒクしている。
折り返してしばらく走ると、道路に「11」と数字が書いてある。折り返し点はスタート地点から10.55kmの所だったから、「11」と書かれた場所が11km地点だ。正確には残り9.95kmだから11.15km地点だ。
折り返して急な上り坂があったとは言え、ラップは1km8分をオーバーし、ものすごく遅くなっている。かなりヤバいぞ。

この辺りは、このコースの中でも最も景色が良い場所で、晴れていれば特徴的な形の自念子の頭よく見える場所だ。しかし、今日はガスで真っ白で何も見えない。
絶景が見えないのでモチベーションが上がらないためか、頑張っているつもりなのに12km地点のラップもパッとしない。

ところが、ここで再び酸欠姉ちゃんと抜きつ抜かれつの激烈な戦いとなった。追い抜かれる時は、絶対に着いていけない圧倒的なスピードで追い抜いていくんだけど、すぐに歩き出すから、その隙に追い抜く。それの繰り返しだ。
あまりにも何度も繰り返されるので、遂に追い抜きざまに声を掛けた。

(幹事長)「もうさっきから10回以上、抜いたり抜かれたりですね」
(酸欠)「そうですよねえ」


しばらく行くと、また抜かれた。

(幹事長)「また抜かれた!」
(酸欠)「いえ、またすぐに止まりますよ」


本当にすぐに止まったので、また追い抜く。でも、 追い抜いても、すぐまた後ろから足音が近づいてくる。そして、やはり追い抜かれる。

(幹事長)「すごいスピードですねえ」
(酸欠)「そちらこそ、絶対に止まりませんねえ」


この激烈な戦いのおかげでペースが上がり13km地点から17km地点までの間の1kmごとのラップは、上り坂の区間や下り坂の区間にかかわらず、全て過去5回の記録を上回った。
だが、遂に後ろから近付いてきた彼女の足音が、私を追い抜く前に止まった。遂に私を追い抜く前に止まってしまったのだ。やった!なんとか逃げ切れそうだ!

と思った瞬間、なんと今度はのらちゃんが追いついてきた。彼女も酸欠姉ちゃんと熾烈な争いをしていたらしい。そして酸欠姉ちゃんの足が止まった時に、一気にスピードを上げて私を追い抜きにかかったのだ。
レースも終盤に入りつつあるので、さすがにここは踏ん張らなければ再逆転は難しくなる。なので、珍しく頑張ってのらちゃんに着いていく。

折り返してからの後半のコースは、時々は下り坂もあるはずなんだけど、疲れているので下り坂を感じられない事が多い。
自念子ノ頭の側を通る区間は、束の間の下り坂のはずなんだけど、なんとなく下り坂を感じられない。せいぜいフラットな感じだ。やはり足に疲れが出てきたようだ。

しばらく進むとトンネルがあり、このトンネルを抜けると残りのコースの全貌が見えるようになる
今日はここまでガスで真っ白で何も見えない状態が続いていたのに、ここでガスが晴れて前方が見えた。
すると、もうそろそろピークが近づいてきて上り坂も終わるはずだと思っていたのに、これから向かう瓶ヶ森登山口がはるか上に見えた
あんな上まで登っていかないといけないのか。ガスで真っ白なら見えなかったのに、見えてしまったのでガッカリだ。

この辺りは、往路では、上りなのか下りなのか分からなかった場所だ。下っているはずなのに、体感としては上っているような気がした場所だ。
でも、こうやって走っていると、今は明らかに上りだ。つまり、さっきは上っているような気もしたが、実は下っていたのだ。下っていたのに、傾斜が緩やかになったから上っているのかと錯覚したのだ
足が疲れてくると、なかなか厳しい場所だ。でも、のらちゃんも同じようなペースなので、なんとか着いていける。

そこからはさらに傾斜がきつくなる。序盤の4kmよりはずっと緩やかなはずなんだけど、もういい加減足がくたびれているため、序盤より厳しく感じてしまう上り坂が続く。
それでも、のらちゃんとの激烈な戦いにより、なんとか踏ん張れている。

霧雨はやんだかと思うと、また少し降り出したりして安定しない。少し風も出てきて、手がかじかんできた。手袋を履いてくれば良かった。
でも体はそれほど寒くはなく、なんとか耐えられている。むしろ寒さのおかげで疲労は軽減されているような気がする。これが炎天下だったら、2016年大会のように、もうバテバテになっているだろう。
前半は過去の実績よりかなり遅かったが、折り返してから盛り返せたのは、酸欠姉ちゃんのらちゃんとの激烈な戦いに加え、少し寒かったおかげだろう。
これなら大会自己ベストも可能かもしれない。スタート前は完走すら不安だったのに、これは大健闘だ。

16km地点を過ぎても、まだしばらくは上り坂が続くが、傾斜は緩やかになり、だいぶ楽になる。
さらに進むと、ようやく最高点に達して上り坂が終わり、緩やかな下り坂になる。残りは全て下り坂だけで、苦しい区間は終わりだ
なので、最後の力を振り絞ってスピードを上げ、のらちゃんを追い抜く。

最後の激坂の下りは遅くても1km4分半程度では走れるだろう。そうすれば大会自己ベストが出る。
17km地点には給水所があるが、もうこんな所では給水は不要だ。1秒でも時間は無駄にしたくない。
って事で、給水所の前を駆け抜ける。後はゴールまで4kmの過激な下り坂をノンストップでガンガン駆け下りるだけだ。

と思っていたのに、なんとのらちゃんが後ろから追いついてきた。そして、そのまま追い抜いていく。そんなアホな。
必死で食らい付いていこうとするが、足が前に出ない。こんな急な下り坂なのに足が前に出ないのらちゃんの背中がどんどん遠ざかっていく。一体、どうした事か?
18km地点でのラップは、4分半どころか5分を切ることもできてなかった。
北山林道駆け足大会では、最も傾斜が急な下り坂区間では1km4分ちょっとだったのに、それより1分も遅い。

下り坂の傾斜はますます強くなるので、必死でペースを上げようとするが、足が思うように前に出ない。まどろっこしい。ちょっと前にランナーが2人ほど見えており、すぐに追いつけそうなのに、一向に差が縮まらない。
思った以上に、ここまでで足を使い果たしてしまい、もう足が動かなくなったのだろう。

普通ならこんな急激な下り坂は気持よく駆け下りていけるはずなのに、足が疲れて走るのが苦痛になってきた。
こんな状態が続き、19km地点のラップも20km地点のラップも5分を切れず、焦るばかりで大会自己ベストは絶望的になった。
それでも、後ろから酸欠姉ちゃんが追い抜いてくるんじゃないかという恐怖と戦いながら、なんとか頑張って走り続ける。


〜 ゴール 〜


激坂の下り坂なのに最後までペースは思ったように上がらず、そのままゴールとなった。
結局、2016年のタイムよりはマシだったが2017年のタイムよりは悪く、大会自己ベストは出せなかった
2016年は初参加でコースが全く分からずペース配分に失敗したし、炎天下でヘトヘトになったから、それより良かったからと言って喜ぶ訳にはいかない。
ま、それでも、スタート前は完走も不安だった事を考えると、最後までちゃんと完走できて良かった良かった。

ゴールでは、10kmの部を走り終えた加藤選手が写真を撮ってくれた。
先にゴールしたのらちゃんO野選手おんちゃんも出迎えてくれた。
O野選手は2時間ちょっとでゴールしたとの事だ。このコースで2時間ってのは凄い。おんちゃんも追いつけなかったそうだ。

のらちゃんとは、なんと2分も差がついていた。17km地点で追い抜かれてから、最後の激坂の下り4kmで2分も差がついたのだ。1km平均で30秒も差がついたのだ。
私が1km4分半では走れるだろうと思っていた最後の激坂の下り4kmで、彼女は1km4分半で走ったけど、私は1km5分を切れなかったので、その分だけ差がついたって事だ。
疲れが限界になって足が出なくなったんだろうけど、同じ条件の彼女は最後まで足が動いたんだから、ショックは大きい。
そして、のらちゃんは見事、女子の年代別部門で2位になった。素晴らしい。素晴らし過ぎる。2位と言っても、3人中の2位なんかじゃなくて、11人中の2位だ。しかも、年代別部門には自分より10歳も若い人も含まれる中での2位だから大したものだ。

しばらく待っていると、激烈な戦いを繰り広げた酸欠姉ちゃんがゴールしたので、駆け寄ってお互いの健闘を称えあった
高知市内から来ているランナーで、去年の脱藩マラソン今年の丸亀マラソン北山林道駆け足大会汗見川マラソンにも出たとの事だ。後で調べてみると、今日のレースを入れた5大会の全てで、私やのらちゃんと勝ったり負けたりで、僅差の戦いを繰り広げていた。まさに好敵手現れるって感じだ。

(のら)「幹事長だけが男子だけどね」
(幹事長)「がーん!」


ま、しかし、2017年のタイムよりは悪かったが、男子56歳以上の部での順位はほんの少しだけ良くなった。2017年は半分より少し後ろだったが、今回はギリギリで半分より前だった。
僅かな差とは言え、このような強者しか出ないような超過激な大会でかろうじて半分以上になったのは嬉しい。

ゴールした後は、弁当とキジ汁を受け取りに行く。弁当引換券とキジ汁引換券はゼッケンに着いている。他の大会ならゴールした後にお弁当の引換券を取りに戻るのが面倒になるが、ゼッケンに付いているのは便利なシステムだ。
体が冷えたので、まずは暖かいキジ汁を食べる。

それから山荘しらさの中に戻って着替えを始めた。
ところが、濡れたシャツを脱いだところで、いきなり部門別の表彰式が始まり、のらちゃんが呼ばれたので、上半身裸のまま慌てて寒い屋外に飛び出す
震えながら、賞状を受け取る場面を撮影したが、まことに目出度い、目出度い。

なお、1位になると翌年は招待選手として無料で参加できるのだが、惜しくも2位だったので招待はされない。
気になったので、1位の選手のタイムを教えてもらいに行くと、なんとのらちゃんより15分以上も速かった。ハーフマラソンで15分以上も差がつくなんて、ものすごいスピードだ。あまりの差の大きさに大笑いしてしまった。どう間違っても1位にはなれない。
一方、次の3位の選手にも15分くらいの差をつけていた。つまり、1位、2位、3位とは言っても、ぜーんぜん接戦ではないと言うか、ものすごく差が大きかったようだ。

表彰式が終わって再び山荘の中に入り、着替えを済ませてお弁当を食べる。
お弁当は普通の幕の内弁当かと思ってたら、なんとキジ肉バーガーだった。普通のお弁当は走った後はなかなか喉を通らないが、キジ肉バーガーは美味しく食べやすかった。


〜 反省会 〜


閉会式が終わると、車を停めてある瓶ヶ森駐車場までシャトルバスで送ってもらう。
のんびり着替えをしてたら第1便に乗り遅れてしまい、寒い屋外で、第2便までかなり待たされてしまった。どうせ待つのなら屋内で待っていれば良かった。
て言うか、さっさと着替えて第1便に乗るべきだった。←来年への反省事項だ。

レースの後は、温泉に入るに限る。ランナーには木の香温泉の半額入浴券が支給された。これまでも毎年行ってる温泉だ。

木の香温泉は、瓶ヶ森林道から下界に降りると、すぐ近くにある道の駅に併設された温泉だ。ランナーが繰り出して大混雑になっているかと思ったが、そうでもなく、ゆったりと入れた。
特に屋外にある木製の露天風呂は、ちょっとぬるめのちょうど良い湯加減なので、いつまでも浸かっていられる。厳しいマラソン大会で疲れた体を癒すには絶好の温泉で、本当に気持ち良い。
最近、登山の後に入る温泉で「登山の喜びの半分は下山後の温泉ではないかと思うくらい下山後の温泉は気持ち良い」なんて思うが、同じように「マラソンの喜びの半分はレース後の温泉ではないかと思うくらいレース後の温泉は気持ち良い」なんて思う。

のんびりお湯に浸かりながら反省する。
今日はスタート前は完走すら不安だったのが、なんとか最後まで完走できたので、まずは良かった。
前半は過去の実績と比べて遅かったが、それは練習不足だったから仕方ないだろう。逆に後半は激烈な戦いを繰り広げたため、過去の実績より速かったから、まずは満足だ。気象条件も走りやすかったのだろう。
ただし、終盤の激坂の下りでどうしてもスピードが出なかったのが悔しい。下りなのに足が前に出ないなんて、まどろっこしくて情けない。
やはり練習はちゃんとしなければいけないなあ。

それでも、思いのほか充実したレースだったので、来年も是非とも出たいと思う。

(O野)「せっかく期待してた絶景が見られなかったのが残念ですねえ」
(幹事長)「5年に1回くらいは見られるから、ずっと参加してね」
(O野)「ご、ご、ご、5年もかかるんですか!?」


さて、次のレースは僅か1週間後に開催される脱藩マラソンだ。
今年は軟弱にもフルマラソンではなくてハーフマラソンにエントリーしたけど、それで良かった。終盤に足が動かなくなった今日の状態を考えると、とても1週間後にフルマラソンを走れる状態ではない。
頑張ってハーフマラソンを走るぞ。


〜おしまい〜




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