第20回 四国のてっぺん酸欠マラソン大会(自主開催)
2020年10月11日(日)、高知県伊野町において第20回四国のてっぺん酸欠マラソン大会が開催される予定だった。
このレースは、暑い暑い四国の真夏に開催される大変貴重なマラソン大会だ。
しかもコースは四国の道路としては最も標高が高い瓶ヶ森林道を走る。トヨタ自動車のテレビCMにも使われたりしている絶景コースだ。
こんな貴重で楽しい夏場の山岳レースには何があっても出たくなるが、2015年に初めてエントリーしてから5年連続でエントリーしてきたのに、その2015年を始めとして、なんと、そのうち3回も悪天候で中止になったという幻のマラソン大会なのだ。
特に一昨年と去年は連続して悪天候で中止になったため、今年こそは久しぶりに走りたいと思ってウズウズしながら待ってたんだけど、それなのに、ああ、それなのに、なんと今年は新型コロナウイルス騒ぎのせいで大会が中止になってしまった。
事の発端は3月1日の東京マラソンの一般ランナー参加中止だ。これに続き、3月8日の第9回名古屋ウィメンズマラソンも一般市民ランナーの参加が中止になった。ただ、これらの大会は東京オリンピックのマラソン代表選考会を兼ねていたため、エリートランナーの部は開催された。
しかし、3月22日の徳島マラソンが中止になった頃から雲行きが怪しくなってきた。全国的にマラソン大会が次々と中止になり始めたのだ。
これらのマラソン大会中止騒ぎってのは、どう考えても、あまりにも非科学的で情緒的でヒステリックな対応だ。
(ピッグ)「本当にしつこいですね」
(幹事長)「腹が立って仕方ないから、自主開催を続けているうちは、いつまでも叫ぶぞ」
素人が見たら、マラソン大会ではランナーが密集しているように見えるかもしれない。しかし、毎日乗っている満員電車に比べたら、はるかにスカスカだ。そうでないと走れない。
しかも密室の満員電車に比べて、屋外のマラソン大会はウイルスが蔓延できる環境ではない。新型コロナウイルスは感染した人の咳やくしゃみの飛沫による飛沫感染でうつっていくが、飛沫感染は屋外では感染しない。
多くの国民が新型コロナウイルスを非常に恐ろしいもののように勘違いしているが、決して、エボラ出血熱のように極めて致死率の高いウイルスでもなければ、風疹のような感染力の強いウイルスでもない。
(幹事長)「コロナなんてちょっとした風邪じゃないか」
(ピッグ)「ブラジルのボルソナーロ大統領ですか」
(幹事長)「ボルソナーロ君もコロナに感染して、すぐに回復したやろ?ただの風邪なんだよ」
多くの国民がヒステリックに踊らされているのは、視聴率さえ稼げればいい下品なマスコミがキチガイみたいに煽り立てるのと、新型コロナウイルスの新規患者数をゼロにしようなんていう狂信的な妄想に取り憑かれた医療関係者の独善のせいだ。
いい加減に、このようなヒステリックな対応は止めて欲しいのだが、新型コロナウイルスの蔓延よりも、このようなヒステリックな対応の蔓延の方が遙かに早い。
もちろん、大会主催者側は苦渋の決断というか、断腸の思いだろう。なぜなら、大会の成功を一番願っているのは大会主催者なんだから。だから、僕も大会主催者を責める気は、さらさらない。
悪いのは、こういう状況に大会主催者を追い込んだ世間のプレッシャーというか、コロナ自警団に代表される、社会を覆い尽くすバカ騒ぎだ。
そして、恐れていた通り、その後は5月のオリーブマラソン、6月の北山林道駆け足大会、7月の汗見川マラソンと、続々とマラソン大会の中止が発表になり、このままでは今年はマラソン大会もサイクリングイベントも全滅になりそうな雲行きになってきた。もうお先真っ暗だ。
って嘆き悲しんでいた時、ピッグが突然ナイスなアイデアを提示した。
(ピッグ)「しつこく、この話をするんですねえ」
(幹事長)「これは画期的な話やったからね」
5月のオリーブマラソンや6月の北山林道駆け足大会や7月の汗見川マラソンの記事にも書いてきたエピソードだが、これを外す訳にはいかないので、しつこくピッグに提案してもらう。
(ピッグ)「中止になった大会をペンギンズで自主開催しましょうよ」
(幹事長)「え?」
あまりのナイスなアイデアに一瞬、言葉が出なかったが、これは画期的なアイデアだ。そうなのだ、大会が中止になったのなら、我々で独自に勝手に自主開催すればいいのだ。
(幹事長)「なんて素晴らしいアイデアだ!君がこんな素晴らしいアイデアを出したのは実に23年ぶりやぞ」
(ピッグ)「このくだりも、しつこく説明するんですね」
23年前に我々がペンギンズを立ち上げた時、クラブの名前を何にしようか相談したんだが、幹事長の私の意見を差し置いて、ピッグが「ペンギンズにしましょう」なんて言い出し、押し切られてしまったのだ。
しかし、よくよく考えてみれば、むやみにスピードを追求するのではなくマイペースでゆっくり走る我々のスタンスは、まさに「ペンギンズ」の名前がピッタリであり、素晴らしいネーミングだったと思う。
ピッグがナイスなアイデアを出したのは、その時以来、実に23年ぶりのことだ。
と感心していたのだが、5月にオリーブマラソンを自主開催して走っていた時、同じように一人で走っている女子がいて、支部長が聞いたところ、彼女も自主開催していた事が分かった。
また7月に汗見川マラソンを自主開催して走っていた時も、同じように走っているカップルがいて、支部長が聞いたところ、彼らもやはり自主開催していた事が分かった。
つまり、マラソン大会の自主開催ってのは、誰でも思いつくような平凡なアイデアだったことが分かったので、ピッグに対する賞賛は雲散霧消した。
(ピッグ)「自分は思いつかなかったんですよね」
てなわけで、今年は中止になったイベントは、できる限り自主開催することとなった。
その第1弾が5月17日に開催したサイクリングイベントの第7回ツールド103であり、これが思いのほか楽しくて大成功だった。
続いてマラソン大会として5月のオリーブマラソン、6月の北山林道駆け足大会、7月の汗見川マラソンを自主開催したが、これらもとても楽しくて大成功だった。
(支部長)「結果は私の3連勝だったけどな」
(幹事長)「きーっ、悔しいっ!」
それに続く自主開催マラソン大会の第4弾が今回の四国のてっぺん酸欠マラソンだ。
酸欠マラソンの開催日は、これまで9月初旬だった。ところが、今年は早々に中止になったのでよく分からないが、事務局の発表では「10月11日開催予定だった」としている。
これまでずっと9月初旬だったのに、なぜ10月になっているのかは分からない。9月は暑いので、今年から10月に変更しようとしていたのか、あるいはコロナ騒ぎがあったから、今年だけは少しでも遅らそうとしたのかは不明だ。
いずれにしても自主開催なので我々の都合で勝手に開催日は設定できるので、幹事長の個人的な都合により8月23日の開催とした。
(支部長)「えらい早いやないか!8月は暑いで!暑さに弱い私を陥れるためか?」
(幹事長)「9月初旬でも8月下旬でも暑いのは同じや」
(ピッグ)「何ですか?個人的な都合って?」
(幹事長)「実は手術することになってな」
(ピッグ)「手術するのにマラソン大会を自主開催するんですかっ!」
急遽、8月末に手術することになったんだが、特に自覚症状は無いし、おとなしくしてろとは言われていない。(あえて聞いてないだけだが)
手術後は1ヵ月くらいは運動してはいけないと言われているので、9月の開催は無理だ。てな訳で、手術の直前の8月23日の開催としたのだ。
〜 夏場のマラソン大会は楽しい 〜
9月初めの酸欠マラソンは7月末の汗見川マラソンと並ぶ四国の夏場の貴重なマラソン大会だ。
四国で夏場にマラソン大会が非常に少ないのは、あまりにも暑くて走るのが大変だからだ。なので、かつては、夏場にはマラソン大会にほとんど参加せず、5月のオリーブマラソンが終わった後は、秋までマラソン大会には出てなかった。
でも、真夏にレースに出ないと、夏の間、ランニングをサボってしまいがちになる。レースが無くても地道にトレーニングできる真面目な人ならいいんだけど、我々のように心が弱いと、レースが無いとどうしてもサボってしまう。
(ピッグ)「レースがあっても、こう暑いと練習はサボりがちになりますけどね」
レースが無いと完全に休養してしまう心が弱い我々としては、少しでもモチベーションを維持するため、この暑い中でもレースに出たい訳だ。
酸欠マラソンと並ぶ貴重な真夏のレースである汗見川マラソンは7月末なので、天気が良いと間違いなく炎天下の灼熱地獄となる。おまけに天気が悪いと豪雨になり、土砂崩れが発生して、すぐ中止になる。つまり炎天下の灼熱地獄か土砂崩れによる中止かという極端な二者択一になる。
それに比べれば、酸欠マラソンは9月初旬だし、標高が非常に高いので、炎天下でも気温は少しマシだ。ただ、標高が高いため直射日光は強烈で、肌がじりじりと焦げていく。
でも、私は夏の猛暑の炎天下に走るのは嫌いじゃない。寒い中を走るよりは暑い中を走る方がよっぽど楽しい。なので、暑くても割りと平気だ。
(支部長)「タイムは悪いけどな」
もちろん炎天下のレースはタイムは悪くなる。タイムの事を言えば、やはり寒い冬場のレースの方が良いタイムが出る。
厳冬期に開催される丸亀マラソンなんか、雪が降ることもあるが、風さえ無ければ寒ければ寒い方がタイムは良い。季節的には11月から3月くらいまでのマラソン大会が良いタイムを期待できる。
なので、「暑くても平気」ってのは「嫌いじゃない」という意味であって、タイムは寒ければ寒いほど良い。夏場なら雨が降って肌寒いくらいが良い。
でも、それじゃあ本当は楽しくない。夏場のマラソン大会なら、やはり猛暑の炎天下のレースが楽しい。タイムは悪くても楽しい。
(支部長)「タイムが悪くても言い訳できるしな」
夏場のマラソン大会なら、タイムが悪くても暑さのせいにできるのも嬉しい。もし、それほど悪くなければ、「こんなに暑いのに、よく頑張ったな」なんて自己満足に浸ることもできる。
てな訳で、個人的には夏場の暑いマラソンは大好きなんだけど、実はこの酸欠マラソンは暑さよりも、むしろ悪天候の方が強敵だ。
酸欠マラソンに我々が初めてエントリーしたのは5年前の2015年だ。初めての参加だったので、緊張しつつもワクワクしながら麓の西条から延々と瓶ヶ森林道を上って行った。
瓶ヶ森林道は気持ちの良い絶景コースだが、麓から上がっていくのが一苦労で、曲がりくねった狭い坂道を延々と1時間も上り続けてようやく瓶ヶ森駐車場に着くため、レース前からグッタリしてしまう。
瓶ヶ森林道は標高が高いので、天気が悪くなる事は覚悟はしていたが、上に着いたらやはりガスの中で、小雨もパラついていた。それでも大した雨ではないし、大した風でもない。ガスで景色は見えないし、風の中を走るのは辛いが、それでも我々は走る気まんまんだった。
ところが、スタートを待っていたら、なんと、突然、中止になってしまった。これには呆然とした。かつてマラソン大会は、どんなに暴風雨が荒れ狂っても、天気のせいで中止にはならなかった。
2012年の徳島マラソンは台風顔負けの暴風雨の中でも決行された。あの時に比べたら、雨が降っていると言っても、大したことはないし、風も弱い。
そもそもマラソン関係者の間では、雨や風の影響で大会を中止にするなんて発想は皆無だったはずだ。 それが、いつから変わってしまったのだろうか。おそらくは、事故でも起きたらアホなマスコミ共が一斉に声高に非難するからだろう。
参加しているランナー達は、天候の事は自己責任で出場しているのだから、天候のせいで事故が起きても文句言うような幼稚な人はいないはずだ。そもそも、夏場のマラソン大会なら、天気が良くて炎天下を汗だくになって走るより、むしろ雨の方が望ましいくらいだ。
怒り狂いながら下山したが、どうしても参加したくて、翌年の2016年に再チャレンジしたら、打って変わって快晴となり、気持ち良く走ることができた。
ただし、酸欠マラソンのコースは1400〜1700m前後で、四国の道路としては最も標高が高いから、快晴でも下界よりはだいぶ涼しいだろうと期待してたら、甘かった。
標高が100m違えば気温は0.6℃違うから、下界より10℃くらい低いはずだが、下界がめちゃ暑い日だったら、山の上もそこそこ暑い。
しかも、高原なので曇っていると夏でも肌寒いくらいで、空気も澄んで気持ち良いが、ひとたび太陽が顔を出すと空気の薄い高原のギラギラした直射日光が強烈に当たり、肌が焼けていくような灼熱地獄になるのだ。
おまけに強烈な激坂にぶちかまされて、ハーフマラソンとしては歴史的な敗北を喫するタイムとなった。
その翌年の2017年は、時々雲に陽が隠れる天気だったので、前年ほど暑くはなく、そのおかげで少しはタイムがマシだった。とは言っても、ほんの少しマシだった程度で、他の大会のタイムに比べたら歴史的敗北に変わりは無い。
てな訳で2年連続で順調に出場したのだが、2018年は再び雨で中止になってしまった。
この年は酸欠マラソンだけでなく、マラソン大会の中止が相次いだ。まず最初は7月初旬の高松トライアスロンで、続いて7月末の汗見川マラソンも中止になり、そして最後に酸欠マラソンまでもが中止になったのだ。
確かに天気予報は悪かったが、台風でも何でもない、ただの雨だ。2012年の徳島マラソンの時のような台風並みの暴風雨ではなくて、単なる雨だ。本当に中止にする必要があったとは思えない。
そして、去年もまた中止になってしまった。前々日に事務局から電話があり「天気が悪そうなので中止になりました」と告げられた。確かに天気予報は雨だったが、大雨の予報ではなく、降ったり止んだり程度の雨の予報だ。
しかも前々日だから、まだ本当に降るかどうかも分からない。そんな曖昧な天気予報で中止決定するなんて、早まり過ぎだ。
そして、結果論だが、当日はほとんど雨も降らず、風も弱かった。どう考えても開催できた天気だ。
そして、今年も3年連続で中止となった。今年の中止の理由は悪天候ではなくてコロナ騒ぎだから別問題ではあるが、エントリーし始めてから6年間で4回目の中止だ。
ここまで中止が続くと、まさに幻の大会であり、本当に存在するのかどうか誰にも分からなくなってしまうぞ。
〜 超厳しい山岳マラソン 〜
酸欠マラソンは夏場の貴重なマラソン大会というだけでなく、非常に厳しいコースも魅力だ。
四国の夏場のマラソン大会と言えば、標高の高い場所で開催される山岳マラソンばかりだ。
我々も、ここんとこ毎年、夏場は高知の山岳マラソン4連戦が恒例となっている。6月上旬の北山林道駆け足大会、7月下旬の汗見川マラソン、9月上旬の酸欠マラソン、そして10月上旬の龍馬脱藩マラソンだ。
なぜ山岳マラソンが夏場に集中しているのかと言えば、夏は暑いから、少しでも気温の低い山岳地帯でマラソン大会を開催しようという発想からだ。特に四国の夏はアホみたいに暑く、平地でマラソン大会なんか開催したら死屍累々の大惨事になる。
そのため山岳地帯で開催するんだけど、じゃあ山の上なら涼しいのかと言えば、これはトンでもない勘違いで、四国では山の上でも暑いのは同じだ。
暑いのに変わりがないうえに、山岳マラソンなのでコースは非常に厳しいから、暑さとコースの厳しさとダブルパンチで、トータルとすれば極めて過酷なマラソン大会となる。
酸欠マラソンは今年で20回目にもなるが、2014年までは参加したことはなかった。存在すら知らなかった。
存在を知ったのは2014年だ。その年は、汗見川マラソンの申込みに油断して失敗してしまい、その代わりになる夏場のマラソン大会を探していて、酸欠マラソンを見つけたのだ。ただその時は、酸欠マラソンも油断して申し込みし損ねたので、参加できなかった。
それを教訓に、最近は、新年早々、年間スケジュール表を作成して、常にそれを確認して申し込みを忘れないようにしており、そのおかげで2015年以降は汗見川マラソンも酸欠マラソンも龍馬脱藩マラソンもエントリーに成功している。
酸欠マラソンが開催されるのは高知県伊野町だが、伊野町と言っても、元々の伊野町のイメージではない。元々の伊野町は、高知市のすぐ西側にある和紙の産地で、山深い町ではない。
一方、酸欠マラソンが開催されるのは、合併で伊野町に吸収される前は本川村だったところだ。しかも本川村の中でも北の端で、私らのイメージでは高知県と言うより愛媛県だ。
なぜなら、コースは瓶ヶ森林道だからだ。瓶ヶ森林道は、ほぼ高知県と愛媛県の県境に沿って走る道で、正確に言えば大半は高知県側を走ってるんだけど、この道を通るのは石鎚山や瓶ヶ森などの石鎚山系の山々へ登山に行く時だから、イメージとしては愛媛県の道だ。
よく地図を見ると、そもそも石鎚山系の山々も県境にあり、愛媛県の山とも高知県の山とも言えるのだけど、愛媛県側から登るのが一般的なので、なんとなく愛媛県の山というイメージがある。高知県の人だって、石鎚山系が高知県の山と言う認識は無いんじゃないだろうか。
そのため瓶ヶ森林道も愛媛県のイメージなので、伊野町ってのは違和感があった。
瓶ヶ森林道はUFOラインとも呼ばれ、標高1300m〜1700mの尾根沿いを縫うように走るルートは、天空へと続く絶景のドライブコースとして人気があり、トヨタ自動車のテレビCMにも使われたりしている絶景コースだ。
尾根の上の道を走るから、天気が良いと見晴らしが良くて気持ち良い。少なくとも車で走ると、それほどアップダウンがあるような感じはなく、快適な尾根の道だ。
だが、しかし、それは車で走ってるから勘違いしているだけであり、自分の足で走ると、かなり強烈にアップダウンがある。
酸欠マラソンのコースはスタート地点から最高地点までの高低差が285mだ。しかもスタート直後の序盤で、3kmちょっとの間に250mも登るから、勾配は8%以上となる。8%もの勾配を3kmも登るなんて、これは強烈以外の何物でもない。
最高地点はスタート地点から4kmほど走った瓶ヶ森登山口の少し先で、そこを超えると今度は下りが6kmほど続いて折り返し点に至る。
折り返した後は、当たり前だが、6kmほどの坂を登り返し、最後に4kmの急坂を下ってゴールとなる。終盤の4kmが下りになるのは嬉しいような気がするが、レース終盤で足がヘタってきた頃の急な下り坂は決して楽なものではない。
つまり、最初から最後まで厳しいコースだ。
他のマラソン大会と比較すると、ハーフマラソンでは、地獄の山岳マラソン大会だった塩江温泉アドベンチャーマラソンが最大標高差が約350mなのに対して酸欠マラソンは300m弱なので、少し低い。
しかし、累積の獲得標高で見ると、塩江温泉アドベンチャーマラソンが550mちょっとだったのに対して酸欠マラソンは560mちょっとなので、ほぼ同じだ。
また、上り坂の距離は少しだけ塩江温泉アドベンチャーマラソンの方が長かったので、上りの平均斜度は酸欠マラソンの方が少しだけきつい。
また四国カルストマラソンや龍馬脱藩マラソンのハーフマラソンや汗見川マラソンと比べると、最大標高差、獲得標高、平均斜度のいずれをとっても酸欠マラソンの方が厳しい。
つまり、塩江温泉アドベンチャーマラソンが無くなった今となっては、酸欠マラソンは四国内の山岳マラソンで文句なしに一番厳しいコースと断言できる。
実は去年はコースが変更となった。会場の山荘しらさが工事中で使えなくなったため、会場が瓶ヶ森駐車場になったからだ。しかし、結局、去年は中止になったため、コース変更は幻となった。
もし今年、コロナ騒ぎで中止にならなかったとしたら、コースが以前のものに戻っていたのかどうかは分からない。山荘しらさはまだ工事中とのことなので、新しいコースになったかもしれない。
しかし、自主開催なので、あえて馴染みの無い新しいコースを試す必要はないから、今回は従来のコースを走ることにした。
参加するのは汗見川マラソンと同じく、私のほか、支部長、ピッグ、D木谷さん、T村選手の5人だ。
〜 会場へ出発 〜
最後に開催された3年前と同じように、今年もピッグ様に車を出して頂いた。ピッグ様がD木谷さん、T村選手、支部長をピックアップしたあと、私を迎えに来てくれて、6時に出発した。
例年の正式大会は、スタート時刻が10時、受付時間は9時半までOKなんだけど、途中の新寒風山トンネル出口にある関所を通れるのは8時までなので、余裕をもって5時半には出発していた。
今年は自主開催のため関門が無いので、もっと遅くても大丈夫だが、天気予報では午後から雷雨の可能性があるとのことなので、そこそこ早目に終わらそうということで6時の出発とした。
今年は7月の梅雨が異常な長雨となり、全国で土砂崩れや河川の氾濫による大災害をもたらしたが、8月に入ると一転して高温が続いている。本当に異常気象だ。
もちろん、このような異常気象を招いているのは地球温暖化であり、地球温暖化を食い止める唯一の手段は原子力発電の強力な推進しかない。
ま、それはさておき、下界は異常な猛暑が続いており、連日、最高気温が40度近くにまで上昇している。
今朝も6時前に屋外に出ると、既に生暖かい。でも、暑くなるのは大歓迎だ。
(幹事長)「支部長の連勝をストップさせるには暑さが必要だ!」
むしろ不安なのは天候の悪化だ。今日の天気予報は「晴れたり曇ったりだけど午後は急な雷雨があるよ」ってな感じだ。
香川県地方なら「雷雨があるかも」なんて言われて実際に雨が降る事は皆無だけど、瓶ヶ森林道は天候が厳しい。一般的に山の上は、晴れた日は午後になって急な雷雨が発生する事が多い。
しかも酸欠マラソンが開催される場所は四国山地で最も標高が高く、日本海側から瀬戸内海を越えて太平洋側まで風が通り抜けていくような地域なので、下界は天気が良くても、山の上は天気が荒れやすいのだ。
実際、一昨年と去年は風雨で中止になったくらいだから、いつ天候が悪くなっても不思議ではない。
もちろん、夏場のマラソン大会なので、雨そのものは決して嫌いではない。
2010年の第33回小豆島オリーブマラソン大会で大雨の中を快走してからは、雨に対する抵抗感は払拭されたし、2013年の汗見川マラソンでも、直前に雨が降って気温が下がったため快走できたので、もう雨は恐れていない。
ただし、瓶ヶ森林道は四国で最も標高が高い林道であり、風が北から南へ吹き抜ける稜線なので、吹き飛ばされるような風が吹く可能性はあり、甘く見るのは厳禁だ。
高速道路を走り、西条インターで高速道路を降りて順調に進む。
車の中で朝食を食べる。もちろん、朝食はおにぎりだ。以前はレース中にお腹を壊すことが多かったので、用心して朝食と一緒に下痢止めの薬も飲んでいたが、5年前の徳島マラソンから朝食を菓子パンからおにぎりに変えてみたら、その後は一度もお腹を壊さなくなった。
パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く、下痢になりやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いので、おにぎりを食べれば、もう下痢を心配する必要は無いのだ。
なーんて、すっかり油断してたら、なんと2月の高知龍馬マラソンで5年ぶりにレース中にお腹を壊して20分もトイレにこもってしまった。原因は分からない。でも、少なくともおにぎり路線が悪い訳ではないだろう。
エネルギーをいっぱい摂取しようと思って、おにぎりの他に、バナナやゼリーも食べたりしていたが、それらを控えるべきかもしれない。あんまり無理してレース前に食べすぎるのは禁物だ。
空を見ると、よく晴れてほとんど雲も無い。西条から国道194号線を南に進み、新寒風山トンネルを抜けたら山道に入り、クネクネした急勾配の道を登っていく。
かなり標高が上がったところで旧寒風山トンネルの出口に着く。国道194号線からの上り口が標高700mで、ここの標高は1100m程度だ。瓶ヶ森林道の最高点は1700m程度だから、まだまだ上がらなければならない。
正式な大会が開催される時は、ここから先は通行制限区間となり、関所には番兵がいるが、今年は自主開催のためフリーパスだ。
道幅の狭いクネクネの山道は続き、いくつかある小さなトンネルは完全に1車線分しかないから、すれ違うのは不可能だ。また、トンネル以外でも道は狭くて対向車とすれ違うのは難儀する。
こんな山の上に朝早くから来る人は少ないから対向車は滅多にいないが、一歩間違えたら脱輪して谷底まで転落しそうだ。
私は乗り物酔いに弱いから、こういうクネクネした急勾配の坂道は苦手だ。すぐ酔ってしまうので、思いっきりシートを倒して横になる。こうやって寝ていると酔いにくくなる。
それでも、前日、もっと早く寝れば良かったんだけど、ついつい油断して夜更かししてしまい、なんとなく頭が重く、カーブの揺れが頭に響く。
(幹事長)「できるだけ優しく運転してね」
(ピッグ)「一人寝ているのに我が儘ですねえ」
車で上がるのも苦労しているというのに、自転車で上っている人がいる。この道を自転車で上るのは厳しいだろうなあ。
しばらく進むと、東黒森山の近くに折り返し点がある。スタート地点からここまで走ってきて折り返して帰って行くのだ。そのすぐ先に2つの小さなトンネルがある。
(幹事長)「今年はトンネルの手前で折り返すことにしたい」
正式なコースは、この2つの小さなトンネルを抜けてから折り返すんだけど、狭いトンネルは暗いため、車が通ると危険だ。正式な大会の時は車は通行止めになっているから良いけど、今日は車が通る可能性がある。
少しでも危険を回避するために、トンネルを通りたくないので、本日のレースの折り返し点はトンネルの手前とする。
本来の折り返し点はトンネルを通りぬけてすぐの場所なので、スタート地点を少し手前に移動すれば、トンネルの手前で折り返したとしても距離はほとんど変わらない。
(T村)「このトンネルの手前で折り返せばいいんですね?」
(幹事長)「はいな」
T村選手は初めての出場なので、コースを入念にチェックしている。
折り返し点からはずっと上り坂が続く。
(T村)「結構きつそうなコースですねえ」
(幹事長)「いやいや、この辺りはフラットな方やな」
(T村)「どう見ても結構きつそうに見えますよ」
(幹事長)「でも序盤の4kmに比べたら傾斜は緩いんよね」
(ピッグ)「それは序盤の4kmに比べたらマシっていうだけで、やっぱり厳しいのは間違いないですよ」
(支部長)「しかも疲れた足にはきつく感じるんよね」
(T村)「思った以上に大変なコースですねえ」
このコースで最も坂が厳しい区間はスタートから4km地点辺りにある瓶ヶ森登山口までで、そこを過ぎた後は緩やかな下り坂が6kmほどダラダラ続く。その後、折り返し点で折り返したら、その道を戻っていくので、今走っているのは折り返した直後の緩い上り坂だ。
でも、緩い上り坂とは言え、それはスタート直後の激坂との比較であって、実際に走ってみると、結構、厳しい坂だ。
ただ、走るのは厳しい上り坂ではあるが、見晴らしの良い区間であり、前方に自念子ノ頭と呼ばれる小さな山が見えてくる。この辺りが一番気持ちが良い区間だ。
(T村)「良い景色ですねえ。車で走ってると気持ちよさそうなコースですね」
(幹事長)「足で走ってる時は景色を楽しむ余裕は無いけどね」
自念子ノ頭の辺りは、ほぼフラットな感じになるが、そこを過ぎると再びトンネルがある。トンネルは危険だとは言え、ここだけは通らざるを得ない。
このトンネルを抜けると景色が一変する。前面に瓶ヶ森の山腹が現れ、それを横切る林道がはるか上に見えるのだ。あんな所まで上っていくのかと思うと気が遠くなる。
さらに遠方には、スタートとゴール地点である山荘しらさがだいぶ下の方に見える。つまり瓶ヶ森の登山口まで上った後は、一気に急勾配を下っていくのだ。
(T村)「あんな遠くまで行くんですか?めちゃ過激なコースじゃないですか」
(幹事長)「最後が下りっていうのが救いやけどね」
折り返し点から6.5kmほど走ったら、ようやく瓶ヶ森登山口の駐車場だ。正式な大会の時は、ここに車を停めて、ここからはシャトルバスで会場まで移動する。
もちろん、今年はシャトルバスが無いので、会場まで車で行かなければならないが、ここが最後のトイレかもしれないので、トイレを済ませておく。
ここから山荘しらさまでの4kmが最も傾斜が急な厳しい坂だ。
(T村)「むちゃくちゃ急な坂じゃないですか!強烈ですねえ」
(幹事長)「登るのも下るのも過激すぎる坂やね」
坂のきつさは車で走ってると分かりにくいものだが、この坂は車に乗っていても明らかに厳しい坂だと分かる。クネクネの急坂だからピッグも慎重に運転するが、それでも乗っていて怖いほどだ。
(ピッグ)「道路に数字が書いてありますねえ」
(支部長)「これって距離表示かもしれないな」
以前は無かった表示だが、もし1kmごとの距離表示を書いているのなら、大いに助かるぞ。
急こう配の下り坂をしばらく落ちていくと、ようやく山荘しらさに到着した。
〜 会場到着 〜
ここ何年か、山荘しらさは工事中で使用禁止だったが、今も工事は続いているようだ。工事ったって改修工事なんだけど、遅々として進んでいない。予算が乏しいのだろうか。
この状態では、今年、正式な大会が開催されていたとしても、コースは新しいコースに変更になっていただろう。
会場に着いたら、いよいよ着替えだ。ウェアの選択は、どんな季節のマラソン大会であっても最も重大な問題だ。
(支部長)「今日はどういう悩み方をするつもり?」
(幹事長)「雨の心配ばかりしてたから炎天下になると困るなあ」
空を見上げると、今のところ強烈な炎天下のレースになりそうだ。でも今日は「急な雷雨があるかも」っていう天気予報だったので、そればっかり心配して炎天下のレースに対応できるようなウェアは用意してこなかった。
炎天下のレースなら、オリーブマラソンで愛用している秘密兵器のメッシュシャツや、北山林道駆け足大会で着た薄手の袖無しランニングシャツが涼しいが、今日は持ってきてないので、普通のTシャツを着るしかない。
持ってきたのは去年の丸亀マラソンでもらった黄色のTシャツだ。
普通のTシャツだと肩があるので暑いような気がするが仕方ない。
下は練習の時にいつも履いている短パンを履いた。これは短いから、暑い時でも、また雨の時でも走りやすい。
最近は筋肉の疲労防止のために寒い時期ならタイツを履くが、今の時期にタイツを履くと暑すぎるので脹脛サポーターを履いた。支部長とピッグも脹脛サポーターを履いている。
ランニングキャップは嫌いだが、強烈な日差しを避けるために今日は必要だろう。サングラスや日焼け止めクリームも必要だろうが、今日は雷雨の心配しかしてなかったから、迂闊にも持ってきてない。仕方ないからピッグ様に日焼け止めクリームを貸してもらった。
自主開催なので給水所が無いため、水分の補給は自己責任で何とかしなければならない。
D木谷さんは飲料ボトル用ホルダーを腰に巻いているが、私は腰に着ける飲料ボトル用ホルダーは揺れて気になるので、トレランリュックにスポーツドリンクを入れて背負って走る。この方が少し重いが安定している。
支部長も同じトレランリュックにスポーツドリンクを入れている。
一方、ピッグは自転車用のサイクルジャージを着ている。サイクルジャージは背中にポケットがいっぱいついていて、そこに飲料ボトルを入れようというのだ。
実はピッグは汗見川マラソンの時はD木谷さんのように飲料ボトル用ホルダーを腰に巻いて走ったが、揺れて邪魔になったので、今日はサイクルジャージを試そうというのだ。
(幹事長)「色々と試す姿勢は評価するが、それも邪魔になるんじゃないの?」
(ピッグ)「邪魔にならないように小さいボトルを用意してきましたから」
なるほど。ミニサイズのボトル2本を別々のポケットに入れるようだ。これなら邪魔にならないかも。
そのほか、顔を拭くハンドタオルとティッシュのほか、カメラやスマホもリュックに入れる。
やる気を炸裂させるメンバー
(左からT村選手、D木谷さん、幹事長、ピッグ、支部長)
準備が終わったところで、初参加者がいるのでコースを再確認する。コースは今、車で走ってきた一本道なので、とてもシンプルだ。
スタート地点は会場の山荘しらさの前で、4km地点辺りにある瓶ヶ森登山口まで激坂が続き、そこから少し進んだ最高点からは緩やかな下り坂が6kmほどダラダラ続く。
2つ目のトンネルの手前で折り返すと、帰りは逆に緩やかな上り坂を6kmほど走り、最後は激坂を4km転げ落ちるというコースだ。
(T村)「道に迷いそうな場所は無いですよね?」
(幹事長)「迷う余地は無いぞ」
途中に分岐は無いので、道に迷う可能性はゼロだ。
〜 スタート前 〜
スタート時間の9時半が近づいてきたので、本日の目標を立てなければならない。
もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、常に大会自己ベストを狙うのが良い子のランナーとしてあるべき姿だ。
マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるため、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。特に、このレースは坂が厳しいから、他のレースとの比較は意味が無い。
なので、目安はあくまでも過去のタイムだ。
この大会は、過去5回エントリーしたが、実際に開催されたのは2回で、その2回ともがトンでもない大惨敗タイムだ。
この2回のタイムに匹敵するのは、あの死の山岳マラソン塩江温泉アドベンチャーマラソンくらいだ。登山事故で靭帯を損傷して走れるかどうかも不安だった2017年のオリーブマラソンの最悪タイムよりも遅い。
なので、大惨敗タイムではあるが、そのうちのマシな方の2017年の2時間13分を本日の目標とする。
余りにも過激なコースなので、今日の戦略は、自然体で思うままに走っていくことにした。
(ピッグ)「前半に調子に乗って飛ばして終盤に失速するという、今まで何百回も失敗したパターンですか?」
(幹事長)「このコースでは、いくら調子に乗っても、飛ばすのは不可能やろ」
スタートから4kmは超過激な激坂の登りなので、飛ばすなんて不可能だ。逆に、自然体で走っていると、歩いてしまうんじゃないかって心配してしまうくらいだ。
(支部長)「私はいつでも歩く用意ができてるよ」
あまりにも激坂なので、走っても歩いてもスピードはさほど変わらないから、最初から歩いて力を温存するってのは悪い戦略ではない。
そもそも、5月のオリーブマラソンや6月の北山林道駆け足大会や7月の汗見川マラソンの結果を見ても分かるように、正式な大会でもないのに自己ベストを出すのは不可能だろう。
ゾウさんやのらちゃんら女子部員は精神力が強いから、練習の時でも本番同様のスピードで走ることができる。しかし私なんかは練習になると、どんなに気合を入れようとしてみても、本番のような気持ちの高まりを得る事はできないため、アドレナリンの分泌が皆無になる。
今日はみんなで走るので、単独での練習よりは気合も入るだろうと思うが、そうは言っても正式な本番とは比べ物にならないスローペースになるのは目に見えている。
(支部長)「その後、練習はできてるんかいな?」
(幹事長)「すんませーん」
相変わらず練習不足は解消されていない。
徳島マラソンが中止になり、その後のマラソン大会も続々と中止が発表されてきたため、3月以降はロクに練習する気が起きず、やたら登山ばかりにうつつを抜かしてきた。
登山に行かない日は、できるだけ練習はしようとは思ってきたものの、気合が入らないので、せいぜい1日5km程度の練習でお茶を濁してきた。
その結果がオリーブマラソンでの惨敗だ。暑い時期の、しかも坂が多いオリーブマラソンで支部長に負けるだなんて、これほど衝撃的な屈辱は無い。支部長の力強い走りを後ろから見ていて「こら、あかんわ」って絶望的になった。
それで慌てて自主トレを強化しようとしたんだけど、長い間のサボりのせいで、長い距離を走ろうとしてもすぐ力尽きてしまい、なかなかまともに練習できない。そのため北山林道駆け足大会でも惨敗してしまった。
その後も少しは気合を入れて練習したつもりだったが、汗見川マラソンでも支部長に惨敗してしまい、なんと支部長に3連勝を許してしまった。
(支部長)「コンスタントに月に200kmは走ってるからな」
(幹事長)「どひゃーっ!」
私も2月まではそれくらい走っていたが、暑くなるにつれて練習量は激減している。特に8月に入ってからは記録的な猛暑が続き、ランニングなんてやってたら自殺行為だ。
支部長の連勝はなんとしてもストップさせないといけないのだが、さすがに3連勝されると、悔しいより諦めの境地になってきた。
てことで、8月に入ってからは涼しい山の上ばかりに登っていて、ランニングの練習はますます少なくなっている。
こんな事では驚異的な練習量を誇る支部長に勝てる訳がないよなあ。
主催者の幹事長からありがたいお言葉が発せられ、開会式が10秒ほどで終わり、事務局から注意事項がアナウンスされた。
(幹事長)「狭い道で車とすれ違う時は危険なので、車から見えにくい山側ではなく、車からも見えやすい谷側を走ってね」
(支部長)「それは怖い!」
支部長は極端な高所恐怖症なので、谷側を走るのは怖いそうだ。
(幹事長)「それから、2年前の開会式で『熊に気を付けてください』なんて周知があったので気を付けてね」
(支部長)「え?そんなことあったっけ?」
(ピッグ)「気を付けてって言われても、どうすればいいんですか?」
(支部長)「こないだテレビで熊を叱るじいさんの話を見たぞ」
支部長によると、熊に出くわしたら、じっと目を見て大きな声で叱ると逃げていくんだそうだ。
普通、登山では、熊に遭遇したら決して慌てて背中を見せて逃げたりしないで、目を離さずにゆっくりと後ずさりするってのが基本だ。大声なんか出したら襲われるんじゃないだろうか?
(ピッグ)「大勢で走っていれば熊も出てこないかもしれませんけど」
(幹事長)「みんなに取り残されて独りトボトボと歩いていると餌食になるぞ」
なんとしてもダントツの最下位という事態は避けなければならない。
〜 スタート 〜
いよいよ9時半になり、支部長のカウントダウンにより一斉にスタートとなった。
タイムはもちろん自己計測だ。自主開催なので当たり前だ。
天気はずっと晴天のままで、日差しが強烈なので嫌いな帽子をかぶる。
普通のマラソン大会なら、スタートの合図が響くと一斉にランナーが勢いよく駆け出すが、この大会は正式な大会の時でも、参加者はそれほど勢いよくは飛び出さない。スタートから4kmは超過激な激坂が続くので、ゆっくり走り始めるのだ。
しかも、今日は参加メンバー5人の自主開催だから、取りあえずは何も考えずに自然体で走る。
大勢のランナーと競いながら真剣勝負する正式大会のような緊張感は無いが、それでも、みんなと走っているので、単独で練習している時に比べたら、だいぶ気合が入り、清々しい気分でしっかり走れている。競い合う感じが心地いい。
すると、ここで突然、空が曇ってきた。あんなに晴れて炎天下だったのに、いきなり曇ってくると、一気に涼しくなり、走りやすくなる。これで俄然、気合が入る。帽子を脱いで手に持って走る。
ふと見ると、ピッグが飲料ボトルを背中のポケットから出して両手に1本ずつ持っている。
(ピッグ)「背中のポケットにボトルを入れると、やっぱり揺れて邪魔ですねえ」
小さな軽いボトルとは言え、やはり邪魔になって鬱陶しいようだ。
しばらく走ると道路に「20」と大きく数字が書いてある。山荘しらさの前の道路には「21」と大きく書いてあった。
(T村)「ちょうど1kmですね。やっぱり距離表示ですよ」
T村選手は高性能のGPS時計を付けており、それによると山荘しらさの前からちょうど1kmとのことだ。今日は自主開催なので距離表示が無いのが難点だったが、これで距離が分かり、常にペースを把握することができる。素晴らしい!
最初の1km地点のラップは7分弱だ。激坂なので、これくらいのスローペースは仕方ない。
恐れていた炎天下じゃなくて涼しくなってきたので、割としっかり走れている。もちろん、他のメンバーの足音も後ろからしっかり聞こえてくる。
自主開催を始めてからの3レースでは、いずれも2〜3km走ったところで支部長が私を追い抜いていき、その後はどんどん差を広げられて逆転することができなかった。
そもそも上り坂に弱く下り坂に強い支部長に上り坂でリードを許したら逆転できるわけがない。
なので、できれば前半の激坂のうちに支部長をリードしなければならない。
坂の傾斜はだんだんきつくなってきたため、徐々にペースは落ち始め、2km地点のラップは7分を少しオーバーしている。
それでも、まだ誰も前に出てこようとしない。T村選手は実力者なので、単に私に付き合って一緒に走っているだけだろうが、他のメンバーもまだ様子を伺っているのだろうか。
次の3km地点のラップはさらに遅くなっているが、他のメンバーはさらに少しずつ遅れているような気配だ。
すると突然T村選手の足音が聞こえなくなった。たぶん他のメンバーの写真でも撮っているのだろうと思っていると、やはりしばらくしてすぐに追いついてきた。
(幹事長)「他のメンバーは来てる?」
(T村)「D木谷さんとピッグさんは来てますけど、支部長は歩いてますね」
ふむふむ、そうか。支部長は宣言通り、最初は無理せず歩いて力を温存して後半に爆発させる作戦のようだ。
敵がそう来るなら、こっちは前半のうちにできるだけリードを広げておかなければならないぞ。過激な上り坂が続いて苦しいが、ここで頑張らなければならない。
なーんて思って自分では力強く走り続けたつもりだったが、次の4km地点のラップは、8分近くにまで落ちていた。いくらなんでも遅くなり過ぎだ。ちょっと焦るが、T村選手以外のメンバーは姿が見えない。
ここには瓶ヶ森登山口があり、正式な大会の時は給水所が設置される。今日は給水所が無いので、自分でペットボトルのスポーツドリンクを飲み、最初の給水をする。
ここからは、これまでの激坂は終わるが、まだしばらく緩い上り坂が続く。そしてスタート地点から4.5kmほど走ったところが標高の最高点となり、ようやく下り坂になる。
折り返し点まで6kmほど下り坂が続くんだけど、一様な傾斜ではなく、ここからしばらく傾斜のきつい下り坂となる。
かつて高知のおんちゃんから「ここで調子に乗って勢いに任せてガンガン下ると足に負担がかかり、終盤で足が動かなくなる」という忠告は受けているが、ここまでの過激な上り坂から解放された嬉しさと、ここで貯金しようという気持を抑えられず、どうしてもガンガン駆け下りてしまう。
少し進んだところに5km地点があり、この1kmは上りと下りが半々だったから、まだまだ大して良くはないが、なんとか6分ほどのラップになっていた。
この辺りから稜線沿いの道になり、見晴らしが良く、ずっと向こうの遙かかなたまで道が見える。あんな遠くまで走るのかと思うと、かなり気が遠くなるが、基本的には下り坂なので、折返し点までは気持ち良く走れる。
後ろを見ると、一緒に走っているT村選手のほかのメンバーの姿は見えない。予想外の良い展開だ。
調子に乗ってガンガン走り続けた結果、次の6km地点でのラップは5分ちょっとにまでスピードアップしていた。
さらに7km地点、8km地点でのラップも、少しずつ遅くはなっているものの、5分台なかばだった。
ただし、7km地点を過ぎたら、まだ下ってはいるものの傾斜は緩やかになり、もうガンガン走れるような道ではなくなる。て言うか、なんとなく上り坂になっているような気がする。
これは微妙なところで、本当に上り坂になっているのか、それとも緩い緩い下り坂なのか分かりにくい。それまで急な下り坂をガンガン走ってきた反動で体感的には登っているような気がするが、よく分からない。
8km地点の手前には最初のトンネルがあり、それを抜けてしばらく進むと本当の上り坂になる。上り坂と言ったって、序盤のような激坂ではなく緩い坂なんだけど、既に疲れ始めた足には堪える。ちょうど自念子ノ頭の側を通っている辺りだ。
すると、並走していたT村選手が突然、道からはずれて、稜線に向かって登り始めた。高いところから景色を見ようというのだろうか。もちろん私にはそんな余裕はないが、T村選手が尾根に上がったところを写真で撮ったりする。ついでに周辺の風景の写真も撮る。
そんな事をしていたら、なんと後からD木谷さんが近づいてきた。さっきまで姿が見えないほどリードしていたはずなのに、徐々にペースダウンしているうちに追いつかれたようだ。
慌てて走りだすが、疲れた足には緩やかな上り坂にも対応しきれず、9km地点でのラップは一気に6分半くらいまで落ちていた。
ただ、9km地点を過ぎたら再び下り坂になる。結構、急な下り坂だ。再び力任せにガンガン駆け下りたら、10km地点でのラップは再び5分台にアップした。
しばらく行くと小さなトンネルがあり、今日はこのトンネルの手前で折り返す。
なんとか半分まで走ったかと思うと一安心だ。折返し点でのタイムは3年前の自己ベストの時より少し速い。自主開催にしては健闘している。
私が折り返すと、すぐ後を稜線から降りてきたT村選手が折り返し、続いてD木谷さんが折り返す。しばらくは3人で固まって走る。
しばらく行くとピッグがやってきた。私より3〜4分遅れか。まだまだ油断はできない。
さらに私から5〜6分遅れで支部長がやってきた。かなりリードしているが、見るからに元気そうで、全く弱った気配が無い。やはり前半で戦略的に歩いて力を温存しているのだろう。全く油断はできない。
折り返すといきなり急な上り坂となった。さっきは急な下り坂だったんだから当たり前だ。後ろからピッグや支部長が迫ってきていると思うと焦ってくるが、かなり足に疲れが出てきているため、どうしてもスピードダウンしてしまい、12km地点でのラップは6分半くらいに落ちていた。
この辺りは、このコースの中でも最も景色が良い場所で、特徴的な形の自念子ノ頭がよく見える。気持ちの良い区間だ。
自念子ノ頭がよく見える景色が良い区間
(T村)「最初、車で通った時は、長いなあって思いましたけど、こうやって走っていると、景色が良いので長く感じないですね」
景色が良いので気が紛れるのは確かだ。ただ、足の疲労は着実に蓄積してきて、徐々に2人から遅れ始める。
12km地点を過ぎると、束の間の下り坂だ。自念子ノ頭の側を通る区間で、来るときは上り坂で一気に遅くなったが、今は下り坂なので、できるだけ大股で駆け下りる。
見通しが良い区間なので後ろを振り返って確認するが、はるか遠くまでピッグや支部長の姿は見えない。ただし、前を走るD木谷さんの後ろ姿もだんだん小さくなっていく。
下り坂で頑張ったおかげで、13km地点でのラップはなんとか6分を切っていた。
しばらく進むとトンネルがあり、このトンネルを抜けると残りのコースの全貌が見えるようになる。はるか遠くにゴールの山荘しらさの屋根が見える。高度としては、だいぶ下にある。
ところが、その途中に越えていく瓶ヶ森登山口は、はるか上に見える。あんな上まで登っていかないといけないのか、と呆然とする。
この辺りは、さきほど走った時は、上りなのか下りなのか分からなかった場所だ。下っているはずなんだけど、体感としては上っているような気がした区間だ。
しかし、こうやって走っていると、今は明らかに上りだ。つまり、さっきは上っているような気はしたが、実は下っていたのだ。下っていたのに、傾斜が緩やかになったから上っているのかと錯覚したのだ。
14km地点でのラップは、やはり7分を超えてしまったが、そこからはさらに傾斜がきつくなる。序盤の4kmよりは緩やかなはずなんだけど、もういい加減足がくたびれているため、序盤より厳しく感じてしまう上り坂が続く。
そのため、15km地点のラップは7分半、16km地点のラップは遂に8分を超えてしまった。いくら激坂が続く酸欠マラソンと言えども、1km8分を超えるようなラップは過去に無かったはずだ。
今日だって前半の激坂区間でも1km8分を超えるような事は無かった。前半はまあまあ良い調子だったと思ったが、ここへ来て一気にペースが落ちてきた。
ただし、上り坂はきついけど、あと少し走って最後の4kmになれば、残りは下り坂だけだから、そこまで頑張ればいい。レースは実質的に残り1kmだ。
いつの間にか前を走るD木谷さんの姿は見えなくなり、目標を見失ってしまった。あとは後ろから迫ってくるピッグや支部長の見えない影による恐怖との戦いだ。
16km地点を過ぎても、まだしばらくは上り坂が続くが、傾斜は緩やかになり、だいぶ楽になる。さらに進むと、ようやく最高点に達して上り坂が終わり、緩やかな下り坂になる。残りは全て下り坂だけであり、苦しい区間は終わりだ。
瓶ヶ森登山口の17km地点でのラップはなんとか7分を切っていた。
ここからはゴールまで4kmの下り坂が続く。下り坂が続くとなると普段なら嬉しいところだが、下り坂に異常に強い支部長が後ろから迫ってきているとなると、手を抜く訳にはいかない。
ここで油断なんかしたら、あっという間に追い抜かれてしまう。て言うか、よっぽど頑張らなければ、あっという間に追い抜かれてしまう。
最後の給水として残っていたペットボトルの水を一気に飲み干すと、あとはゴールまで4kmの過激な下り坂をノンストップでガンガン駆け下りるだけだ。
タイムを確認すると、目標の2時間13分を切るには、残り4kmを21分で走ればいい。1km当たり5分15秒だ。激坂の下りなんだから、楽勝のようにも思える。
て事で軽快に駆け下りたつもりだが、18km地点でのラップは5分半近くかかっていた。おかしい。疲れが出てるのか?
これはまずいと思って頑張るが、次の19km地点でのラップも5分20秒くらいだ。こんなに激しい下り坂なのに、気ばかり焦って足が回らない。今日は涼しかったとは言え、やはり足が消耗してきているのだろううか。
それでも後ろから迫ってくる支部長の影に怯えて、逃げるように必死で走る。その恐怖のおかげで20km地点でのラップは5分10秒くらいにまでペースアップできた。目標タイムの達成が可能かどうかはギリギリだ。
いよいよラスト1kmというところで雨がポツポツ降り出した。天気予報は当たった。炎天下のレースなら雨は大歓迎だが、今日は曇って涼しかったので、もう雨は余計だ。本降りになる前にゴールしたい。
そう思って必死で走っていると、突然、前方にD木谷さんの後ろ姿が見えた。あんなに離されていたのに、こんなところで突然、追いつけるなんて思ってもみなかった。しかもペースが遅いから、あっという間に追いついて追い越してしまった。
〜 ゴール 〜
そのまま一気にゴールすると、ギリギリで目標の2時間13分を切って、一応、大会自己ベストのタイムを出せた。
折返し点をズラし、スタートやゴール地点もズラしているので、距離に誤差はあるだろうが、飲料を自分で持って走るというハンディもあるので、よく健闘したと言えるのではないだろうか。
緊張感に乏しい自主開催にしては良いタイムだと思う。
続いてゴールしたD木谷さんや、早々にゴールしたT村選手と一緒に待っていると、5分くらい遅れてピッグがゴールした。
雨が強くなってきたので、車の中で支部長を待っていると、ピッグからさらに5分くらい遅れて帰ってきた。
もうヘロヘロなのかと思ったら、妙に元気そうでハツラツとして駆け込んできた。
(幹事長)「遅かった割には妙に元気そうやなあ」
(支部長)「最後の4kmの下りは1km5分を切ったからな」
私が1km5分を切れたのはラストの1kmだけだったので、やはり支部長が下り坂に強い事は証明された。序盤の上り坂で早々に歩いたのが敗因だろう。
(支部長)「折り返した後の後半の上り坂でも歩いたよ。トータルして6kmくらい歩いたかな」
(幹事長)「いくらなんでも歩き過ぎや」
みんな無事にゴールした後は、そそくさと着替えて、車でよさこい峠まで下りてから昼食を食べた。
正式な大会ではお弁当とキジ汁が配給されるが、今日はボソボソとおにぎりを食べる。
よさこい峠まで下りてくると、天気は急回復し、暑くなってきた。やはり山の天気は変わりやすいなあ。
〜 反省会 〜
よさこい峠からは、瓶ヶ森林道に戻ることなく、そのまま反対方向に下界へ下って木の香温泉に行く。
木の香温泉は道の駅に併設された温泉だ。道の駅は大繁盛で車を停める場所に困ったくらいだが、温泉はそれほど混んでなくて、ゆったりと入れた。
特に屋外の露天風呂は、お湯がいつまでも浸かっていられるちょうど良い低めの温度で、厳しいマラソン大会で疲れた体を癒すには絶好の温泉だ。本当に気持ち良かった。
お風呂から出て、みんなでソフトクリームも食べる。いつもそうだけど、マラソン大会や登山の後は温泉と湯上がりのソフトクリームが欠かせない。
(幹事長)「支部長の破竹の連勝を遂にストップさせる事ができて、本当に喜ばしいぞ」
手術前の最後のレースに支部長に快勝したので嬉しい限りだ。
(支部長)「今日は体調が悪かったのかなあ」
ま、そういうときもあるだろう。いつもいつも絶好調を維持するのは無理だ。
私としては、気持よく走れたこともあり、激坂が繰り返されるこのコースは面白くて楽しいと思う。
北山林道駆け足大会と同じ楽しさだが、距離が13kmしかないから楽しいだけで終わる北山林道駆け足大会に比べたら、酸欠マラソンは距離が長いので苦しさも大きい。それでも、普通のマラソン大会に比べたら変化があって面白いのは間違いない。
(ピッグ)「今日は他に自主開催してる人はいなかったですね」
(幹事長)「今日は本当の開催日と違うからなあ」
ただし、阿南の美魔女Y浅さんは、最近、仲間たちと一緒にこのUFOラインを走ったそうだ。前もって分かっていれば、一緒に走れたかもしれない。
また、思いのほか自転車の人が多かった。我々もいつかはここを自転車で攻めなくてはならない。
それにしても自主開催のマラソン大会は楽しい。もちろん正式な大会の方が楽しいし、タイムも良くなるのは当然だが、自主開催も悪くはない。
今後の自主開催の予定は9月の高松トライアスロン、10月の龍馬脱藩マラソン、庵治マラソンと続く。
コロナ騒ぎを吹きとばして目標を見失うことなく頑張るぞ!
〜おしまい〜
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