第44回 小豆島オリーブマラソン大会(自主開催)
2021年5月23日(日)、第44回小豆島オリーブマラソン全国大会が開催されるはずだった。
この大会は1997年の第20回大会から参加し続けており、我々にとっては欠かすことのできない重要なマラソン大会だ。なので、去年も2月には早々にエントリーを済ませ、楽しみにしていた。
それなのに、ああ、それなのに、なんと去年は新型コロナウイルス騒ぎのせいで大会が中止になってしまった。
事の発端は去年3月1日の東京マラソンの一般ランナー参加中止だ。これに続き、3月8日の第9回名古屋ウィメンズマラソンも一般市民ランナーの参加が中止になった。
ただ、これらの大会は東京オリンピックのマラソン代表選考会を兼ねていたため、エリートランナーの部は開催された。
しかし、その後、状況はますます悪くなり、遂に去年3月22日の徳島マラソンは全面的に中止になってしまった。あまりの事に呆然とした。
そして、その後も、全国的にマラソン大会が次々と中止になっていった。
これらのマラソン大会中止騒ぎってのは、どう考えても、あまりにも非科学的で情緒的でヒステリックな対応だ。
(ピッグ)「この説明、いつまで続くんですかね」
(幹事長)「ほんとにいつまで続くんだろうね。早くマラソン大会が再開して、こんな説明が要らなくなって欲しいよ」
素人が見たら、マラソン大会ではランナーが密集しているように見えるかもしれない。しかし、毎日乗っている満員電車に比べたら、はるかにスカスカだ。そうでないと走れない。
しかも密室の満員電車に比べて、屋外のマラソン大会はウイルスが蔓延できる環境ではない。新型コロナウイルスは感染した人の咳やくしゃみの飛沫による飛沫感染でうつっていくが、飛沫感染は屋外で走っている時に感染なんかしない。
多くの国民が新型コロナウイルスを非常に恐ろしいもののように勘違いしているが、決して、エボラ出血熱のように極めて致死率の高いウイルスでもなければ、風疹のような感染力の強いウイルスでもない。
多くの国民がヒステリックに踊らされているのは、視聴率さえ稼げればいい下品なマスコミがキチガイみたいに煽り立てるのと、新型コロナウイルスの新規患者数をゼロにしようなんていう狂信的な妄想に取り憑かれた医療関係者の独善のせいだ。
さらに、それに付け込んで何でもかんでも政府を批判する無能な民主党が調子に乗ってギャアギャア騒ぐからだ。
いい加減に、このようなヒステリックな対応は止めて欲しいのだが、新型コロナウイルスの蔓延よりも、このようなヒステリックな対応の蔓延の方が遙かに早い。
もちろん、大会主催者側は苦渋の決断というか、断腸の思いだろう。なぜなら、大会の成功を一番願っているのは大会主催者なんだから。だから、私も大会主催者を責める気は、さらさらない。
悪いのは、こういう状況に大会主催者を追い込んだ世間のプレッシャーというか、コロナ自警団に代表される、社会を覆い尽くすバカ騒ぎだ。
そして、恐れていた通り、その後も5月のオリーブマラソン、6月の北山林道駆け足大会、7月の汗見川マラソンと、続々とマラソン大会の中止が発表になり、このままではマラソン大会もサイクリングイベントも全滅になりそうな雲行きになってきた。もうお先真っ暗だ。
〜 マラソン大会を自主開催 〜
って嘆き悲しんでいた時、ピッグが突然ナイスなアイデアを提示した。
(ピッグ)「この話も、いつまで続くんですかね。もうウンザリですね」
(幹事長)「書く方もウンザリやわ。もう書きたくないんだけど仕方ないよね」
5月のオリーブマラソンや6月の北山林道駆け足大会や7月の汗見川マラソンや8月の酸欠マラソンや9月の脱藩マラソンや11月の庵治マラソンや12月のタートルマラソンや2月の丸亀マラソンや2月の善通寺五岳山空海トレイルや3月の香東川マラソンや5月のツールド103の記事にも書いてきたエピソードだが、これを外す訳にはいかないので、しつこくピッグに提案してもらう。
(幹事長)「お待たせしました!はい、どうぞ!」
(ピッグ)「中止になった大会をペンギンズで自主開催しましょうよ」
(幹事長)「え!?」
あまりのナイスなアイデアに一瞬、言葉が出なかったが、これは画期的なアイデアだ。そうなのだ、大会が中止になったのなら、我々で独自に勝手に自主開催すればいいのだ。
(幹事長)「なんて素晴らしいアイデアだ!君がこんな素晴らしいアイデアを出したのは実に23年ぶりやぞ」
(ピッグ)「ハイハイ、分かりましたってば」
1997年に我々がペンギンズを立ち上げた時、クラブの名前を何にしようか相談したんだが、幹事長の私の意見を差し置いて、ピッグが「ペンギンズにしましょう」なんて言い出し、押し切られてしまったのだ。
しかし、よくよく考えてみれば、むやみにスピードを追求するのではなくマイペースでゆっくり走る我々のスタンスは、まさに「ペンギンズ」の名前がピッタリであり、素晴らしいネーミングだったと思う。
ピッグがナイスなアイデアを出したのは、その時以来、実に23年ぶりのことだ。
と感心していたのだが、5月にオリーブマラソンを自主開催して走っていた時、同じように一人で走っている女子がいて、支部長が聞いたところ、彼女も自主開催していた事が分かった。
また7月に汗見川マラソンを自主開催して走っていた時も、同じように走っているカップルがいて、支部長が聞いたところ、彼らもやはり自主開催していた事が分かった。
つまり、マラソン大会の自主開催ってのは、誰でも思いつくような平凡なアイデアだったことが分かったので、ピッグに対する賞賛は雲散霧消した。
(ピッグ)「ハイハイ、分かりましたってば」
てなわけで、その後は中止になったイベントは、できる限り自主開催することとなった。
その第1弾が去年5月17日に開催したサイクリングイベントの第7回ツールド103であり、これが思いのほか楽しくて大成功だった。
続いてマラソン大会として5月のオリーブマラソン、6月の北山林道駆け足大会、7月の汗見川マラソン、8月の酸欠マラソン、9月の脱藩マラソン、11月の庵治マラソン、12月のタートルマラソンを自主開催してきた。
これらも例外なく、とても楽しくて大成功だったが、そうは言っても正式な大会ほどのやる気と達成感は得られないため、願わくは、コロナのバカ騒ぎは去年で収束して、今年はマラソン大会が復活して欲しかった。
ところが、今年になってもコロナのバカ騒ぎが終わらず、マラソン大会の中止が続いているため、2月の丸亀マラソンを自主開催し、続いてトレラン大会である2月の善通寺五岳山空海トレイルも自主開催した。
この善通寺五岳山空海トレイルは、去年はギリギリでなんとか開催され、コロナのバカ騒ぎでマラソン大会が軒並み中止になる前の最後の大会だった。
それからまる一年が経って一周したので、そろそろバカ騒ぎを止めてマラソン大会を再開して欲しかったところだが、去年、最初に中止になった徳島マラソンは、なんと2年連続で今年も中止になってしまった。
コロナのバカ騒ぎによるマラソン大会中止が2年目に突入したのだ。そのため、徳島マラソンの代替大会として3月の香東川マラソンを自主開催した。
そして今回、オリーブマラソンも2年目の自主開催となったわけだ。
〜 自主開催が当たり前に 〜
ここまでマラソン大会の中止が続くと、自主開催が普通になってきた。
(幹事長)「なんか、もう、自主開催が当たり前になってきたなあ」
(ピッグ)「これはこれで良いんですけどね」
確かに、自主開催レースには色んなメリットがある。
列挙すると、
・みんなの都合に良い日に開催できる
・天気が悪い時は延期できる
・勝手にスタート時間を決められるから早朝に出発しなくてもいい
・混んでないから駐車場に困らない
・混んでないからトイレに困らない
・終わってからも混んでないからスムースに帰れる
・参加費がかからない
今回のオリーブマラソンで言うと、本来の正式な大会は例年5月下旬に開催されてきたから、基本的には5月の下旬に開催したいところだが、参加できないメンバーがいると困るので、5月の後半の各自の都合をアンケートした。
また、天気が悪いと盛り上がらないので、天気予報も睨みながらギリギリまで日程を調整した。
例年なら、今の時期は、天気の事はあんまり心配する必要は無いんだけど、今年は異常に梅雨入りが早く、気象台の観測史上、最も早い梅雨入りとなり、ここんとこ毎日のように雨が続いている。
(支部長)「私は雨の方が良いんやけどな」
(幹事長)「確かに、今の季節は炎天下より雨の方が走りやすいけどね」
結果としては、メンバーの都合が良い上に、梅雨の合間で晴天が期待できる23日(日)の開催となったのだ。
(支部長)「晴天は避けたかったなあ」
(幹事長)「私は炎天下のランニングが好きやで」
(ピッグ)「好きなのとタイムが良いのとは別問題ですけどね」
このように自由に日程を調整できるほか、基本的に参加者は我々だけなので、普通のマラソン大会のように参加者が溢れて混雑するって事がない。
そのため、駐車場にも困らないし、トイレの前で長蛇の列に我慢して並ぶ必要も無い。もちろん、レースが終了してからもスムースに帰れる。
それに、何と言っても参加費がかからないってのも大きなメリットだ。
最近はマラソン大会の参加料が高騰していて、今年の神戸マラソンの参加費は、なんと19700円もする!
(支部長)「げげげっ、にまんえんもするのか!」
(幹事長)「もう我々のような貧乏人はマラソン大会には出られないご時世になりましたな」
我々はだいたい毎月1回くらいのペースでマラソン大会に出ているから、参加費だけでも年間で10万円はかかっている。それがタダになるのだから、自主開催も悪くない。
(ピッグ)「良い事づくしですよね」
(幹事長)「いまいち気合が入らないのは問題やけどな」
自主開催レースの唯一のデメリットは
・正式な大会ほどは気合が入らないから良いタイムは出ない
ってことだ。
ただし、これは人による。私なんかは、本番でないと気合が入らない。本番なら参加者が大勢いて、たくさんのスタッフがサポートしてくれて、沿道の声援も多いから、やる気がみなぎる。
私がマラソン大会に出たのは、1995年の瀬戸内海タートルマラソンが初めてだ。
当時はマラソンブームが起きるはるか以前の事で、ジョギングする人だって滅多にいなかったから、全国的にもマラソン大会は数が少なく、たまにあっても出場するのはマニアックな人ばかりという状況だった。
なので、一般人にはマラソン大会に出るなんて発想は無かったんだけど、タートルマラソン大会のCMがテレビで流れていて、「ゆっくり走るタートルマラソンだから誰でも出られるよ」なんて甘い言葉で誘われて、ついフラフラと軽はずみな気持ちで申し込んでしまったのが最初だ。
もちろん、右も左も分からないど素人が一人で初参加したので、とんでもない大惨敗だったが、初めて出場したマラソン大会は感動的なものだった。
誰でも参加できる市民マラソン大会を走っているだけなのに、沿道の住民からは熱い声援があり、まるでオリンピックを走る一流選手になったような気分になれたからだ。
今思えば、人口が少ない地域の小さな大会だから、もっと大きな都市部の大会に比べたら、沿道で声援を送ってくれる人の数は少なかったんだろうけど、他人から声援を受けて走るなんて事は、義務教育を終えてからは初めてだったので、とても快感だった。
この初参加が、あまりにも楽しかったため、それから色んなマラソン大会にどんどん出るようになった。
なので、私はマラソン大会が大好きだ。本番になると、気合が高まり、普段以上の力が出る。
逆を言えば、本番でないと、どうしても気合が入らない。いくら頑張ってるつもりで、からっきし駄目だ。
ただ、これは私の個人的な問題であり、女子部員のゾウさんやのらちゃんは、普段の練習でも本番と同じようなペースで走っている。練習の質がとても高いのだ。
このように練習の時ですら本番と同じようなスピードで走れるゾウさんやのらちゃんなら、自主開催レースでも正式な大会と同じようなタイムを出すことも可能だ。
でも、私なんて、どんなに頑張ってみても、本番のようなペースを練習で出すのは不可能だ。
自主開催レースなら、永遠のライバルである支部長やピッグと一緒に走るから、独りで練習している時よりはマシだが、それでも大したスピードは出ない。
さらに、常に大勢の参加者が周りにいるため緊張感が持続する本大会と違って、参加者が少ない自主開催レースだと、他のメンバーから少し遅れてしまうと、すぐに一人旅となり、その時点で緊張感もやる気も無くなり、トボトボと足を引きずりながら撃沈する。
(幹事長)「やる気なくなるよな?」
(ピッグ)「完全になくなりますね」
私もピッグも、調子が良い時は自主開催レースでも優勝することがあるが、みんなからちょっと遅れると、一気にやる気を無くして、ダントツの最下位に転落してしまう。
(幹事長)「その点、支部長は最近、妙に粘り強いよなあ」
(支部長)「勝負を諦めんからな」
以前は、あんなに撃沈していた支部長が、最近は最後まで粘り強く走るのが理解できない。
(幹事長)「何があったん?」
(支部長)「単に練習のたまものや。練習量は嘘つかんぞ」
女子部員や支部長にとっては自主開催レースはデメリットが無いので、怖いもの無しだ。
てことで、今年のオリーブマラソンには私、支部長、ピッグ、D木谷さん、ゾウさん、のらちゃん、ライオン4世の7人になった。
この参加メンバーは一昨年のオリーブマラソンの参加メンバーと全く同じだ。
〜 ジャンボフェリーに乗船 〜
オリーブマラソンは、近年、エントリーの競争も激しくなってきたが、なんと言っても交通の便の悪さが大きなネックだ。
小豆島は、四国と本州と、どちらからでも船で1〜2時間で行けるため、関西地方からの参加者も多く、そういう意味では立地の良い大会と言える。
しかし、レース会場である小豆島坂手地区には、港はあるけど船の定期航路がほとんど無い。なので、通常は主催者が出している高松発の臨時船に乗る。
ただ、臨時船は古いフェリーボートを借り切ったものであるため、座席が少くて、早く行かないと通路の片隅に体を丸めてしゃがみ込むか、広い車両甲板に寝転がるしかない。
車両甲板は固い鉄板で、おまけに朝は冷え込み、冷たい波しぶきが飛んでくるし、逆に帰りは太陽熱で焼けて熱くなった鉄板の上で焼かれるお好み焼き状態になり、とても人間扱いされているとは思えない状況だ。
そのため、我々は、この臨時船を奴隷船と呼び、恐れおののいていた。
それなのに、最近の異常なマラソンブームにより、この奴隷船にすら早めに申し込まないと定員オーバーで乗船券を入手できなくなってきた。
奴隷船は満杯というか定員の3倍くらい詰め込まれるので、もはや家畜船と呼ぶのが相応しい阿鼻叫喚の世界になっている。
しかし、当然ながら自主開催では奴隷船すら出ない。
それで去年、交通手段を検討した結果、次の2案が選択肢となった。
@ 高松東港からジャンボフェリーに乗って坂手港に行く。
A 高松港から内海フェリーに乗って草壁港に行き、そこからバスで坂手港に行く。
ジャンボフェリーだと会場の坂手港に直接行けるので、文句なく最善に見えるが、高松東港はJR高松駅から遠く離れているため、ゾウさんやのらちゃんのようにJRで来るメンバーにとっては不便だ。
しかもジャンボフェリーは一日に6:00発、14:00発、16:30発の3便しかないから、6:00の便に乗らざるを得ない。そうなると、JR高松駅からの距離を考えると、始発電車に乗ってもJRではたどり着けない。
一方、内海フェリーはJR高松駅のすぐ近くの桟橋から出港するし、便数が多いから無理のない時間に出発できるが、現地でのバスの乗り継ぎが少し面倒だ。
て事で、迷うところだが、去年はJR組は都合で不参加になり、高松東港の立地の悪さは問題ではなくなったので、ジャンボフェリーにした。
ジャンボフェリーは朝が早いとは言え、毎年、奴隷船に乗る時も私や支部長はみんなの席取りのために5時過ぎには高松港に着いて並んで待っているので、時間は同じようなものだ。
ただ、上記の自主開催のメリットのうち、
・勝手にスタート時間を決められるから早朝に出発しなくてもいい
てのは、早くも通用しなくなった。
しかしここで、某ピッグから素晴らしい意見が出された。
(ピッグ)「朝早いと涼しいうちに走り終えられるんじゃないですか」
(幹事長)「時々ええこと言うなあ」
(ピッグ)「常に言ってますがな」
早朝に出発しなくてもいい、ってのは今回は通用しなかったが、勝手にスタート時間を決められるから、現地に着いたらすぐにスタートできるというメリットがある。
正式な大会はいつも10時スタートで、ゴールは12時前後になるため、天気が良い年は暑さにやられてしまう。早朝に出発するにも拘わらず、走るのは炎天下になる事が多いのだ。
去年も天気予報は晴れだったので、炎天下のレースが予想された。でも、6:00に高松東港を出て7:15に坂手港に着けば、遅くとも8時までにはスタートして、順調にいけば暑くなり始める前に終了できるかもしれない。
て事で、ジャンボフェリーに乗っていくことにしたのだ。
結果的に、この選択は正しかった。出港は早いとは言え、例年の奴隷船と変わらないし、暑くなる前に終了できたのが良かった。
しかも今年は、草壁港行きのフェリーが、コロナのバカ騒ぎによる乗客激減のため、先月、なんと廃止になってしまった。
たかが風邪に毛が生えた程度のコロナウィルスに対してヒステリックに騒ぐもんだから、世の中がめちゃくちゃだ。これも全て下品なマスコミと医療関係者の独善と無能な民主党のせいだ。
てことで、選択肢の2番目は
A 高松港から内海フェリーに乗って池田港に行き、そこからバスで坂手港に行く。
に変わった。
池田港は草壁港より、さらに少し遠いところにある。つまり、現地でのバスの乗り継ぎがさらに面倒になったのだ。
て事で、今年は検討するまでもなく、ジャンボフェリーに乗っていくことにした。
高松組もJR組も車で乗り合わせて来ることにし、6:00出港に合わせて高松東港へは5:30頃を目途に集合することにした。
当日の朝、予定どおり5時半頃に港に着いたら、既に支部長とD木谷さんが来ていた。同時にのらちゃん、ゾウさん親子、ピッグにライオン4世も到着し、全員集合となった。
(幹事長)「めちゃ久しぶりやな」
(ライオン)「活動自粛してました」
(幹事長)「コロナ騒ぎが勃発する前から活動してないやないか」
満濃公園リレーマラソンを除いて、ライオン4世がシリアスなマラソン大会に出場するのは一昨年のオリーブマラソン以来だ。単に大会に出ていないだけでなく、普段のトレーニングも皆無だ。
舐めている。全くもってマラソンを舐めている。
でも、一昨年のオリーブマラソンでは、それまで生まれてこのかた2km以上走ったのは一昨年1月の満濃公園リレーマラソンだけだったため、完走すら危ぶまれていたにもかかわらず、5kmの女子年代別部門でいきなり8位で入賞してしまった。
(幹事長)「全部で8人しか出てなかったんやったっけ?」
(ライオン4世)「50人中8位です!」
もしかして、彼女は生まれ持った才能があるのかもしれない。
ゾウさんも久しぶりだ。彼女は去年2月の坂出天狗マラソン大会で大会自己ベストを更新して女子年代別で3連覇した後、楽しみにしていた去年の名古屋ウィメンズマラソンがコロナ騒ぎで中止になったため、それ以来、活動自粛して大人しくしていた。
今日はなんと小さな子供を連れての登場だ。
(幹事長)「今年は子供の手を引いて10km走るん?」
(ゾウ)「いえいえ、今日はピクニックです」
なんとゾウさんは、せっかく小豆島まで行くのに、走らないと言うのだ。
(支部長)「一緒に走ったらええやん」
(ゾウ)「無理ですよ!」
(幹事長)「おんぶして走ったらええやん」
(ゾウ)「無理ですってば!」
久しぶりにゾウさんに勝てるチャンスと見て、私たちは参加を説得したが、彼女は頑なに拒否する。
(支部長)「そんなことでは運動不足になるよ」
(ゾウ)「ちゃんとテニスやってますから」
なんと、先日も高松市のテニス大会で優勝したらしい。
(支部長)「参りました!」
(幹事長)「参りました!」
(ゾウ)「分かればいいのよ」
〜 出港 〜
去年と同様、コロナ騒ぎのため船内は空いている。
(幹事長)「こんなに空いてるんなら、正式な大会の時も奴隷船をやめてジャンボフェリーにしたくなるよなあ」
(支部長)「でもT頭君の情報によると、正式な大会の時はジャンボフェリーも奴隷船状態になるらしいよ」
客は少ないとは言え、去年よりは少し多い。やはり自粛疲れした人も多いのだろう。当たり前だ。
サイクリングの格好をした人も何人か乗っている。
去年は普通の座席に座ったが、今日は畳の雑魚寝スペースに寝転がった。この方が快適だ。
6時になって船が動き始めたので、朝食にする。さすがに早起きしたからお腹が空いてきた。
できれば家を出る前に朝食を食べてトイレも済ませたいところだが、いくら早起きが苦痛でなくなったとは言え、普段より早い時間に朝食を食べるとお腹を壊す可能性が高いので、家では食べず、船に乗ってから食べる。自主開催レースならトイレも空いているから大丈夫だ。
朝食はおにぎりだ。以前はレース中にお腹を壊すことが多かったので、用心して朝食と一緒に下痢止めの薬も飲んでいたが、2015年の徳島マラソンから朝食を菓子パンからおにぎりに変えてみたら、その後は一度もお腹を壊さなくなった。
パンに含まれるフルクタンという糖類は消化に悪く、下痢になりやすいが、お米に含まれている糖類は消化が良いので、おにぎりを食べれば、もう下痢を心配する必要は無いのだ。
なーんて、すっかり油断してたら、なんと去年の高知龍馬マラソンでは5年ぶりにレース中にお腹を壊して20分もトイレにこもってしまった。
原因は分からない。でも、少なくともおにぎり路線が悪い訳ではないだろう。これまでは、おにぎりの他に、バナナやゼリーも食べたりしていたが、それらを控えるべきかもしれない。あんまり無理してレース前に食べすぎるのは禁物だ。
朝食が終わったら、初参加のメンバーもいるので、今回のコースを発表する。
この大会はハーフマラソン、10kmの部、5kmの部があるが、うちのメンバーはたいていハーフマラソンの部に出ている。
例外は、血の味を味わうために敢えてペースが速くてきつい10kmの部に出ているゾウさんや、全く練習もせずにぶっつけ本番で5kmの部に出たライオン4世くらいだ。
ただ、せっかくわざわざ自主開催レースで小豆島まで来て、たった5km走るだけではつまんないから、せめてライオン4世にも10kmは走ってもらうことにした。
(幹事長)「それくらいは走れるやろ?」
(ライオン)「前人未到の距離ですね」
去年はハーフマラソンに不安があるという支部長のために、特別に14kmの部も用意してたんだけど、みんなと一緒にハーフマラソンを走った支部長に負けてしまったので、今年は14kmの部は廃止した。
ハーフマラソンのコースは、もちろん正式な大会と同じだ。
坂手港を出発して県道248号線を西へ走り、峠を越えて内海湾に出て、県道28号線に入る。スタートからここまで865mだ。
そこから北上してしばらく走り、国道436号線に入って西へ進み、草壁港のすぐ西にある別当川の別当大橋を渡ってすぐにあるミナト接骨院の前を第1折り返し点として折り返す。県道28号線に入ってからここまで3515mだ。
折り返した後は国道436号線を東に戻って県道28号線に入り、しばらく南下した後、県道249号線に入る。第一折り返し点からここまでは3515mだ。
ここから県道249号線を西へ向いて5840m走り、二十四の瞳の映画村の奥にある「愛のボラード」の前を第2折り返し点として折り返す。
折り返した後は県道249号線を東に戻って5840m走り、最後は県道248号線を1520m走って会場に戻り、ゴールする。
地図で厳密に測定して、正式なハーフマラソンの距離(21,097.5m)にぴったりの21,095mのコースを設定している。
(のら)「別当大橋とかミナト接骨院って分かるかなあ」
(幹事長)「そこまでは5kmも行ってないから、まだみんな一緒に走ってると思うよ」
(ライオン)「いえいえ、私は落ちこぼれますよ」
(幹事長)「ま、頑張ってくれたまえ」
初参加メンバーが落ちこぼれた時は、去年参加してコースが分かっているメンバーのうちの最後尾の者が折り返し点で待ってあげることにした。
(幹事長)「分かったかな?」
(ピッグ)「私に向かって言ってますが、一番可能性があるのは幹事長ですよ」
せめて最初の5kmくらいは頑張りたいところだ。
(のら)「愛のボラードってなあに?」
(幹事長)「変な物体や」
「愛のボラード」とは、船を繋留する岸壁の杭の形をした白い巨大な物体だ。ここまで来ると距離はスタートから14km近くになるから、バラけているとは思うが、初めて見ても「愛のボラード」は絶対に分かると思う。
10kmの部のコースも正式な大会と同じだ。折り返し点はハーフマラソンの第一折り返し点と同じ場所で、単純な一本道の折り返しコースだ。
しかし、このコースは、地図で厳密に測定した結果、10kmの部と言いながら、実際には9,415mしかないことが判明した。
あまりにも誤差が大きいので、何か間違ってるんじゃないかとかなり悩んだが、折り返し点をハーフマラソンと同じにするというコース設定上、仕方なかったのだろうと勝手に納得していた。
ところが、いつも10kmの部に出ているゾウさんに聞いてみたら、10kmの部のスタート地点はハーフマラソンのスタート地点とは異なり、ハーフマラソンのゴール地点と同じなんだそうだ。
しかも、スタートの向きはゴールの時と逆方向に向いて走るんだそうだ。
つまり、スタートから折り返し点までの前半のコースと、折り返し点からゴールまでの後半のコースは、向きが逆なだけの同じルートだ。
だから、前半も後半も距離は全く同じで、片道がちょうど5kmだから、往復でちょうど10kmになる。
(幹事長)「そういう事だったのか!悩んでいた謎が解けたぞ!」
(ゾウ)「知らないくせに勝手に悩まないでください」
(幹事長)「ゾウさんのタイムがめちゃ速いから、てっきり距離が短いインチキコースなのかと思ってた」
(ゾウ)「幹事長とはレベルが違いますから!」
てことで、ライオン4世が走る10kmコースも確定した。
〜 島に上陸 〜
1時間15分の船旅が終わって7時15分に小豆島の坂手港に着く。例年なら、ここで島の小学生達の鼓笛隊が演奏で迎えてくれて心温まるところだが、去年に引き続き、今年も当然ながら鼓笛隊はいない。
実は、数年前から年々、鼓笛隊の隊員数が減ってきていて、一昨年は驚くほど人数が少なくなっていた。最盛期の半分以下になっていた。少子高齢化が急速に押し寄せる島嶼部なので、小学生の数も減ってるんだろう。
去年、今年と中止が続いたから、その間の動向は分からないが、子供の数が増えているとは考えにくい。
(ピッグ)「来年、正式な大会が再開しても、もう鼓笛隊は結成できないかもしれませんね」
(幹事長)「おじさんおばさんも総動員せんといかんかな」
我々の他に、サイクリング軍団も船から降りてきた。同じグループなのかどうか分からないが、人数は思ったより多く、10人ほどもいる。
(幹事長)「今日は快晴で爽やかだから、サイクリングも気持ちよさそうやなあ」
(D木谷)「来年は自転車も持ってきて、マラソン大会の後にサイクリングしますか?」
(支部長)「ついでに泳ぎも入れてトライアスロン大会にしよう」
(ピッグ)「いや、無理だと思いますが」
船から下りたら、まずは場所取りをしなければならない。例年のように、船を降りてすぐの狭い芝生に囲まれたベンチに陣取る。
すっかり日が昇って、早くも少し暑くなってきた。
オリーブマラソンは毎年5月末に開催されるが、この季節は天気が良いときは本当に気持ちが良い。まだ湿度があんまり高くないから、木陰でボケッとしてるぶんには暑くなく、大変気持ちが良い季節だ。
ただし、マラソン大会となると事情は異なる。木陰は気持ち良くても、炎天下を走るとなると非常に暑い。個人的には寒いのは嫌いで、暑い方が好きだから、真夏の炎天下で汗だくになって走るのは楽しくて好きなんだけど、しかし、いくら好きでも暑いとタイムは悪くなる。
それでも、昔の私達は、マラソン大会では晴れを望んでいた。雨のマラソン大会なんて走る気が起きなかった。朝から雨が降っていると、空を見上げながら連絡を取り合って、結局、みんな揃って欠場って事も多かった。
しかし、2010年の第33回オリーブマラソンで考えが変わった。その日は朝からものすごい土砂降りの雨だったので、みんなで欠場の相談をしていたら、我がペンギンズのエース城武選手から「雨がどうしたんですかっ!何を考えてるんですかっ!」と一喝され、渋々参加した。
そしたら、土砂降りの雨は、走りにくいどころか、気温が低くなって走りやすくて、後半の大きな坂も全然、苦にならず、最後までペースダウンすることなく、むしろ坂が多い後半の方がペースアップしてタイムが良くなるという考えられないレース展開でゴールし、2時間を大幅に切る大会自己ベストとなった。
私だけでなく、最後までデッドヒートを演じたピッグも快走だったし、支部長も例年なら絶対に歩く最後の大きな坂も歩かずに2時間を切る大会自己ベストを出した。
それ以来、暑い季節には、むしろ雨を好むようになったのだ。
この大会には1997年から出続けているが、昔からずうっとタイムが悪く、長らく2時間を切ったことがなかった。私に限らず、ピッグや支部長だって、他のレースに比べたらタイムは悪かった。
でも、それが暑さのせいだとは誰も思わなかった。いくら暑いと言ったってまだ5月なんだから、7月下旬の炎天下の汗見川マラソンや四国カルストマラソンのような地獄の暑さではないからだ。
なので、このレースのタイムが悪い理由は坂が多いからだと信じていた。
オリーブマラソンのコースは、スタート直後の大きな坂の後は、前半は草壁の町の中心地まで行って折り返してくるという坂が無いフラットな区間だが、後半に入ると、二十四の瞳の映画村まで行って折り返してくる曲がりくねった狭い海岸線のコースとなる。
この海岸線の道路は、曲がりくねっているだけでなく何度も何度も丘を越えてアップダウンが繰り返される。まだ元気な前半に坂があるのなら耐えられるけど、疲れ始めた後半に次から次へと坂が襲ってくるので、後半は厳しい戦いとなるのだ。
同じ小豆島だけど、反対側の北西部で行われる11月の瀬戸内海タートルマラソンも同じように坂が多いが、なぜかそちらの方はタイムが良い。
タートルマラソンはコース全般に満遍なく坂が配置されてるけど、オリーブマラソンは疲れが出る後半に坂が集中するのが良くないのだと思っていた。
なので、オリーブマラソンでは2時間を切るなんて絶対不可能だと信じていた。
マラソンは極めてメンタルなスポーツなので、走る前から「このコースでは2時間を切るなんて絶対不可能だ」なんて決めつけていたら、現実にも2時間を切ることは難しい。
途中で苦しくなったら、「どうせ良いタイムは出ないコースだから頑張ってもしょうがない」と、すぐに諦めるからだ。
以前は、最後の大きな坂では、ほぼ必ず歩いていた。無理して走っても、どうせ良いタイムは出ないと信じていたからだ。
それなのに、2010年に土砂降りの中、みんな揃って快走したもんだから、メンバー全員、衝撃を受けた。オリーブマラソンのタイムが悪かったのは、坂が多いからというだけではなくて、暑さのせいが大きかったのだ。
そのため、それまではみんな雨を嫌がっていたんだけど、一転して、暑い季節のマラソンは雨乞いをするようになった。
そして、その翌年の2011年も、序盤に激しい雨が降ったため、前年と同じように後半にペースを上げることができて、大会自己ベスト2位を出した。
これでオリーブマラソンも雨さえ降れば良いタイムが出るという事が分かり、それまで大の苦手だったこのレースに対して、なんとなく自信がついた。
そして、さらに、雨さえ降れば良いタイムが出るということが分かると、雨が降らなくても暑さ対策を施せば、炎天下のレースになっても良いタイムを出すことが可能になってきた。
暑さ対策とは、秘密兵器のメッシュのシャツだ。2014年のオリーブマラソンに初めて、他のメンバーから沸き起こった「恥ずかしいから脱いでくれ」という批判を気にせずに着て走ったところ、炎天下にもかかわらず暑くないため、好タイムを出すことができたのだ。
(幹事長)「あのメッシュのシャツは、自分では、まるで何も着ていないような感覚なんですよ」
(D木谷)「いや、はたから見ても裸同然ですよ」
2014年に炎天下で好タイムを出した時に着たメッシュのシャツ
遠くからだと何か着ているように見えるが、確かに、そばで見ると、スケスケで裸のように見えなくもない。
しかし、このメッシュのシャツの威力は絶大で、2015年のオリーブマラソンでも自信を持ってメッシュのシャツを着て走ったら、炎天下のレースだったにもかかわらず、土砂降りの2010年に出した大会自己ベストを更新する大会自己ベストを出した。
マラソンは極めてメンタルなスポーツなので、「雨が降らなくてもメッシュのシャツを着れば良いタイムが出る」という事が分かったのは大きな自信となった。
雨が降らなくても、暑さ対策さえ万全に施せば、暑さを楽しむことができる。もう怖いものは無いのだ。
〜 スタート前の準備 〜
て事で、ウェアの選択に入る。「何を着るか」は、どんな季節のマラソン大会であっても最も重大な課題だ。
(D木谷)「だからメッシュのシャツを着るんでしょ?」
(幹事長)「いや、そう簡単にメッシュのシャツは着ません」
2014年や2015年に炎天下にもかかわらず好タイムを出せたのは、メッシュのシャツのおかげだと思う。それまで炎天下のレースでは惨敗続きだったのが、急に快走できるようになった理由は他には見当たらない。間違いない。
しかし、実は、その後はこの秘密兵器のメッシュのシャツを着ても惨敗することがあった。
続く2016年は同じメッシュのシャツを着て走ったにもかかわらず、以前と同じような惨敗を喫してしまった。支部長にまで負けてしまったのだから、究極の惨敗だ。メッシュシャツを着ているのに支部長に負けるなんて、もう全く理由が分からない。
さらに2019年も3年ぶりにメッシュのシャツを着て走ったが、惨敗とは言わないまでも、平凡なタイムだった。
てことで、メッシュシャツを着たからと言って必ずしも快走できる訳ではないってことが分かった。
それに、去年もそうだったが、そもそも今年は正式な大会でないため、ロクなタイムが出ないことは分かりきっている。
ゾウさんやのらちゃんなんかは精神力が強いから、練習の時でも本番同様のスピードで走ることができるので、自主開催レースであっても、正式な大会と同レベルのタイムが期待できる。
しかし私なんかは練習になると、どんなに気合を入れてみても、本番とはほど遠いペースに落ちぶれてしまう。
今日は練習ではないが、自主開催のレースなので正式な本番とは比べ物にならないスローペースになるのが目に見えている。
こんな状態なので、秘密兵器のメッシュシャツを出してくるのは止めておいた。なぜなら、秘密兵器のメッシュシャツはいつ買ったのか忘れてしまったが、もう古くてボロボロになっていて、いまにも破れそうなのだ。
だからここぞと言う時のために大切に保管しておかなければならない。どんなにあがいてもロクなタイムが出そうにない自主開催レースで着るのはもったいないのだ。
てことで、今日は去年と同じく袖無しの白のシャツにした。メッシュのシャツほどではないが、これもなかなか涼しい。
下は練習の時にいつも履いている短パンだ。
一方、支部長は、あれだけ暑さに弱いというのにアームカバーを付け、手袋を履き、タイツも履いている。手袋は汗を拭くためだと思うが、最近は真夏のレースでもタイツを履くことが多い。
(幹事長)「それ暑いやろ?」
(支部長)「どっちにしても暑いから同じや」
私も最近は筋肉の疲労防止のために寒い時期ならタイツを履くが、今の時期にタイツを履くと暑すぎるので、その代わりに脹脛サポーターを履いた。ピッグとD木谷さんも脹脛サポーターを履いている。
炎天下のレースなので、嫌いなランニングキャップを被ろうか迷った。他のメンバーは全員、キャップを被っている。でも、去年は被って走ったけど、すぐに頭が暑くなって脱いで手に持って走ったから、今日は被らないことにした。
ただし、サングラスは必須だ。眩しいからと言うより、歳とってくると紫外線による目への悪影響が強まって白内障の危険性が出てくるので、サングラスをかけるようにしている。サングラスをかけると、目がとっても楽だ。
また、日焼け止めクリームも首筋や腕に塗りまくった。
自主開催レースなので給水所が無いため、水分の補給は自己責任で何とかしなければならない。
D木谷さんとピッグは飲料ボトル用ホルダーを腰に巻いているが、私は腰に着ける飲料ボトル用ホルダーは揺れて気になるので、トレランリュックにスポーツドリンクを入れて背負って走る。この方が少し重いが安定している。
支部長も同じトレランリュックにスポーツドリンクを入れている。
支部長は去年は、トレランリュックを背負って走ると汗でベトベトになるからという理由で飲み物は持たず、小銭だけ持って走った。自動販売機で飲料補給をしたのだ。
(支部長)「あれは失敗やった」
(幹事長)「言わんこっちゃない」
自販機で売ってる飲料は、小さいものでも350ml、大きいものなら500mlもあるので、なかなか簡単には飲み干せない。余ったら手に持って走るという手もあるが、鬱陶しい。
て事で、今年は支部長もトレランリュックにしたのだ。
自主開催レースなので、誰か迷子になる可能性があるため、イザと言う時のためにスマホをトレランリュックに入れ、ついでにカメラや貴重品も入れた。
また、念のため足攣り防止用のドーピング薬2RUNもリュックに入れた。
汗を拭くハンドタオルや、お腹を壊した時のためのティッシュペーパーも必携だ。
準備ができたらスタート前の記念撮影をする。
最近、普通のポーズだけでなく、ジャンプした写真も必ず撮ってるが、これがなかなか大変。カメラのタイマーに合わせてジャンプするんだけど、みんなバラバラに飛んでしまい、なかなか全員が揃って飛び上がった写真が撮れない。
何度も繰り返しジャンプしてると疲れて果ててくる。このあとレースが無いのなら、みんなが揃うまでとことんトライしてもいいんだけど、これからスタートするんだから過激な運動は控えなければならない。
て事で、仕方なく、後から合成してるんだけど、今回は、ピッグがちゃんとジャンプできている写真が無かったので、ピッグだけは宙に浮いていない。
スタート地点でジャンプを決めるメンバー
(左からピッグ、ゾウさん親子、のらちゃん、ライオン4世、幹事長、支部長、D木谷さん)
スタート時間が近づいてきたので、本日の目標を設定せねばならない。
もちろん、どんな時でも、どんなレースでも、常に大会自己ベストの更新を狙うのが良い子のランナーとしてあるべき姿だ。
マラソンはコースや季節によってタイムが大きく変わってくるため、違うレースのタイムを比較するのは不適当なので、どんなレースに出ても、とりあえず大会自己ベストを狙うのが良い子の正しい道だ。
なので、目安はあくまでも過去のタイムだ。
と言うのは建前で、本番でもないのに自己ベストを出せるはずがないのは、去年のオリーブマラソン以来の自主開催シリーズで証明されている。
上にも書いたように、ゾウさんやのらちゃんら女子部員は精神力が強いから、練習の時でも本番同様のスピードで走ることができる。
しかし私なんかは練習になると、どんなに気合を入れようとしてみても、本番のような気持ちの高まりを得る事はできないため、アドレナリンの分泌が皆無になる。
今日はみんなで走るので、単独での練習よりは気合も入るだろうが、正式な本番とは比べ物にならないスローペースになるのは目に見えている。
(支部長)「それにしても最近、遅いな」
(幹事長)「そうなんよねえ」
この自主開催シリーズでは、去年8月の酸欠マラソンで優勝(高速ランナーのT村選手を除く)した直後に手術入院し、その後は、ずっと惨敗が続いている。
療養中は練習ができなかったので、しばらくは仕方ないかなと思ってたけど、いつまで経っても元に戻らない。
(支部長)「それは老化やな。もう永遠に元には戻らんな」
(幹事長)「ほんまかいなーっ!?」
永遠のライバル支部長や、自主開催シリーズ前半戦では蹴散らしまくっていたピッグに、ここんとこ惨敗が続いているので、なんとかしたいのだ。
(支部長)「練習はしとるんかいな?」
(幹事長)「いや、ま、その・・・」
(支部長)「私は去年からずっと毎月200km以上走っとるよ」
去年2月の丸亀マラソンで私が好タイムを出した時、「前月と前々月に月間走行距離300kmを続けた成果や」なんて偉そうに言ったもんだから、それに刺激を受け、支部長はそれ以来、ずっと継続的に月間走行距離200kmを達成している。
それに対して私は、それ以来、気が緩んでしまい、今月なんかまだ85kmしか走っていない。
以前なら、ハーフマラソンの大会がある場合、1ヵ月前から週に一度は20km走をやっていた。練習で走ってない距離を本番でいきなり走るのは無謀だからだ。
しかしコロナ騒ぎで本番がずうっと中止になってきたため、あまり真面目な練習はできておらず、今月も先月も20km走は1回ずつしかやれていない。
それに対して支部長は、ランニングを毎月200km以上走っている上に、水泳も毎日1km以上は泳いでいる。体力の差は歴然としてきた。
以前は支部長は上り坂が苦手だったので、オリーブマラソンでは、前半のフラットな区間でリードされても、後半の坂で逆転することができた。しかし、圧倒的な練習により支部長は苦手な上り坂を克服しているので、坂にはもう期待できない。
支部長に勝てる唯一の可能性は、暑さに弱い支部長が自滅する場合だ。極端に暑さに弱く、極端に汗っかきの支部長は、炎天下のレースではフラフラになることもある。
ただし、去年も暑さに期待していたのに、期待外れだった。暑くなり始める10時にスタートする正式な大会と違って、8時にスタートして10時にはゴールしたので、暑くなる前に終わってしまった。支部長の弱点が出る前に終わったのだ。
なので、今年も去年に続き、支部長に惨敗する可能性が高い。
〜 スタート 〜
スタート時間が近づいてきたので、主催者の幹事長からありがたいお言葉が発せられ、開会式が10秒ほどで終わり、事務局の幹事長から注意事項がアナウンスされた。
(幹事長)「安全第一なので交通信号は守りましょう。以上」
(のら)「それだけ!?」
自主開催レースなのでタイムはもちろん自己計測だが、交通信号で待つ間は時計を止めていい。一方、給水時には時計を止めてはならない。本番と同じだ。
スタート地点は、坂手港のバス停の前だ。
いよいよ8時になり、支部長のカウントダウンにより一斉にスタートとなった。
天気はずっと晴天のままで、日差しは強い。ただ、気温はまだそれほど高くなく、湿度も高くないので、割と爽やかで走りやすい。ウェアも涼しいしサングラスもしているので、あんまり暑さを感じない。
あんまり暑くなくて爽やかなこともあり、正式な大会ではない自主開催レースにしても、なんとなくやる気が湧いてくる。
大勢のランナーと競いながら真剣勝負する正式大会には程遠いが、みんなと走るので、単独で練習している時に比べたら、だいぶ気合が入り、清々しい気分でしっかり走れている。競い合う感じが心地いい。
自主開催レースでは、常に序盤は私が先頭を走っている。序盤はコースが分かりにくい事が多くて、道に迷う人が出るといけないので、分かりやすい道になるまではコースを把握している私が先導している。
自主開催レースが始まって以来、常に同じパターンだ。あわよくば、そのまま最後まで先頭で逃げ切りたいところだが、逃げ切れたのは酸欠マラソンだけだ。たいていは、序盤のうちに支部長に抜かれていく。
でも、せめて折り返し点まではトップで行きたい。去年、支部長が折り返し点に気づかずに行き過ぎてしまったからだ。今年はもう分かってるとは思うが、分かりにくい折り返し点なので、私が先頭で確認したいのだ。
最初の大きな坂を越えると、下り坂を飛ばして古江地区に下る。この後は、草壁港の近くにある第1折り返し地点まで平坦な道が続く。
後ろからはみんなの足音がついてきている。本当なら少しはみんなを引き離したいところだが、全員が付いてきているところを見ると、そんなに速くは走れていないようだ。
ただ、今日はまだ支部長は追い抜こうとはしない。
前半は信号がいくつかあるが、たいていは三差路の交差点のため、うまく走ればほとんど信号待ちをしないですむ。
それで信号待ちをできるだけ回避するために、車が来ていないうちに道の右へ行ったり左へ行ったりするんだけど、記憶違いによる選択ミスで、やたら信号待ちをしてしまう。
頑張って少しみんなをリードしたかと思うと、信号待ちで追いつかれてしまう。
道が草壁港を目指して西向きになると、遂に支部長が迫ってきて、二人で一緒に走る格好になった。なんとしても頑張らなければならない。
と思ったら、なんとシューズの靴紐がほどけてしまった。こんな事は滅多にないが、スタート前に十分に締めるのを忘れてしまっていた。
慌ててしゃがみ込んで紐を結びなおすが、支部長とピッグには「先に行ってて」と行って追い抜いてもらう。さらに、のらちゃんも追い抜いていく。
急いで紐を結びなおして、後から来たD木谷さんとライオン4世と一緒に走り出す。
(ライオン)「みなさん速いですねえ」
(幹事長)「そんな事言ってるけど、ちゃんと着いてきてるやん」
ライオン4世は5km以上は走ったことがないんだけど、まだ5kmも走ってないから、余裕でついてくる。
なんとか一生懸命に走って支部長らを追いかける。
しばらく走ると、別当大橋を渡って第1折り返し点のミナト接骨院に近付いてきた。そのすぐ向こうの三叉路が折り返し点のはずだ。
支部長はちゃんと分かるかなあと思って見ていたけど、なんと今年もひたすら無心で走り続けて通過していく。
なんとなく風景が違うような気もするので、僕が何か勘違いしてるのかなあ、と思って急いで行くと、やはりそこが折り返し点だ。慌てて大声でみんなを呼び止める。
(幹事長)「おーい!ここが折り返し点やで!」
まずは、のらちゃんが気づき、伝言ゲームのように前のピッグや支部長に伝えると、支部長が怪訝な顔をして引き返してくる。
(支部長)「こんな所やったかなあ?」
折り返し点のそばにあった建物が撤去されて平地になっており、辺りの様相が変わっているから、気が付かなかったようだ。
全員揃ったので、取り合えずここで仕切り直しだ。
ここまで約4.4kmのところを23分ほどで来たので、1km5分15秒ほどのペースだ。正式な大会なら決して速とは言えないペースだが、去年は1km5分30秒ほどかかっていたので、ちょっとマシだ。
ここでライオン4世が苦しそうに言う。
(ライオン)「息が上がりましたから、ちょっと休みます」
まあまあ速いペースだったので、さすがにライオン4世は疲れたようだ。過去、5kmしか走った事がないライオン4世にしては頑張ったと言えよう。
おまけにライオン4世は何も飲料を持ってなかったので、喉が渇いて辛そうだ。10kmくらい飲料無しでも走れると思ってたらしく、何の準備もしていない。
そこで、支部長が自分が持っていたカルピスウォーターのボトルを差し出す。
(ライオン)「えっ?いいんですか?」
(支部長)「もう1本、水を持ってるからいいよ」
優しい支部長らしいが、レースでも登山でも常にカルピスウォーターを愛飲している支部長が、ただの水だけで走れるのかどうか不安だ。
レース再開で、折り返して来た道を戻っていくと、支部長がピッタリと横に並ぶ。
つい気を抜くと支部長に先行されてしまうので、緊張感を持って競り合っていく。まだまだ勝負どころではないのに、支部長と競り合うことで無駄なエネルギーを浪費しているような気がする。
自転車でも、勝負どころではない普通の道で、支部長はいきなりアタックをかけてきて、ついムキになってアタック合戦を繰り広げて無意味な消耗をしてしまい、後から他のメンバーに負けたりする。
それと同じような展開なので嫌な予感がするが、前半のうちから支部長にリードを許すと、そのままズルズルと負けてしまいそうなので、無理して踏ん張る。
すると、ここでゾウさん親子が沿道から声援を送ってくれる。わざわざ大きな坂を越えて応援に来てくれたんだ。嬉しくなって力が蘇る。
それでも、二十四の瞳の映画村へ入っていく道は、意外に遠く、なかなか現れない。
(幹事長)「いつも思うんだけど、なかなか分岐が現れないよなあ」
(支部長)「ほんまやねえ」
まだかな、まだかな、と思いながら走っていくうちに、遂に支部長が少し前に出る。これ以上、足がついていかないので、とうとう諦めて支部長の先行を許してしまう。
後ろから見ていると、今日も支部長は全然フォームが崩れず、きれいなフォームのまま、しっかりした足取りで確実に走っていく。惚れ惚れする走りだ。
だいぶ走ったところで、ようやく二十四の瞳の映画村への分岐点が現れ、支部長が折れ曲がっていく。それに続いて私も折れ曲がっていく。
第1折り返し点からここまで1km5分20秒ほどのペースだ。少しペースダウンしたとは言え、去年に比べると、まだまだ速い。
雲一つない快晴が続くが、時間が早いこともあり、薄手のシャツとサングラスのおかげでそれほど暑さは感じない。
ここからがオリーブマラソンのコースで楽しい区間だ。
スタートからここまでの前半部分は、日よけの無い平坦な市街地を走っていくだけで、あんまり面白くない。
でも、ここから二十四の瞳の映画村に向かう区間は、アップダウンもあるし、日陰もあるし、変化に富んでいる。山と海に囲まれた自然の中を走る楽しい区間だ。
なーんて気持ちも新たに走っていると言うのに、ピッグが追い抜いていく。こんなところでピッグがペースアップするとは思えないので、自分のペースが落ちたんだろう。
と思う間もなく、D木谷さんも追い抜いていく。そんなに激しくペースダウンしてるのか?
さらに、なんと、のらちゃんまで追いついてきた。さすがに、もう許せないので、なんとか踏ん張って一緒に並んで走っていく。
海岸線に出ると、天気が良くて、空気も澄んでいるので、内海湾を挟んで寒霞渓の断崖がきれいに見える。
さらに、今まで気付いた事なかったんだけど、内海ダムもはっきり見える。以前、支部長と二人で自転車で寒霞渓をヒルクライムした時に通ったダムだ。
(幹事長)「うわあ、内海ダムがはっきり見える!すごいねえ」
(のら)「ふうん」
のらちゃんは内海ダムに全く関心が無いようで、脇目も振らず走って行く。
そして徐々にのらちゃんとの差が広がっていく。意識的にペースを抑えてる訳じゃないが、もう足が出ない。
支部長に抜かれ、ピッグやD木谷さんに抜かれ、のらちゃんにも抜かれるという、最近のお決まりの負け犬のパターンだ。ガッカリだ。
それでも、まだ諦めてはいない。
以前は後半になると必ず失速していたが、2010年に土砂降りの中で快走して以来、良いタイムを出した年は全て、坂がある後半の半島区間の方がペースが上がっている。
前半のフラットな区間のペースは、良い年も悪い年も似たようなもので、さほど変わりはない。だが、後半の二十四の瞳の映画村へ行く半島区間でのペースが異なる。
惨敗パターンの時は、この半島区間で止めどもなくペースが落ちていくのに、快走パターンの時ではどんどんペースが上がっていく。
一般的に、後半でペースを上げるのは理想的な展開とされているが、なかなか難しい。しかし、オリーブマラソンに限って言えば、ここ数年、好タイムを出したときのレース展開は、どれも後半にペースアップできている。
なんでそうなるのか、何が決め手になるのか、全く分からないが、目指すパターンは後半のペースアップだ。
第2折り返し点を過ぎてもペースが落ちなかったら、その後はペースアップできる可能性が大きいということであり、諦めることなく、最後まで突っ走れば良いタイムが期待できるのだ。そうなれば勝機もあるかもしれない。
しばらく平坦な海岸線を走ると、すぐに大きな坂が出現する。この半島の中で最大の坂だ。
なんとか坂を上りきった見晴らしの良い場所で、去年は先行してた支部長とD木谷さんが絶景に見とれて写真を撮るという失態を演じていたので、そこで追いつけたが、今年は誰もいなかった。
坂を下りると再び海岸線の道を走る。この辺りも美しい景色だ。
海岸線で見通しが良いので、先頭を走る支部長の姿が遠くに見えた。だいぶ離れているので、このペースでは絶対に追いつけないだろう。
ピッグやD木谷さんもかなり離れている。すぐ前を行くのらちゃんですら、少しずつ離れていき、なかなか追いつくチャンスは無さそうだ。
しばらく行くと、再び坂の区間に突入する。これでもか、これでもか、と何度も小刻みにアップダウンが繰り返される。本番ではいつも苦しむ厳しい区間だ。
ところが、去年も思った事だが、割とあっさりと坂の区間が終わり、遠方に二十四の瞳の映画村が見えてきた。
本番では必死に走っているからきついけど、自主開催レースでのんびり走ってると、大した坂ではないのだろうか。
遠方に第2折り返し点の「愛のボラード」が見えてきて、先行するメンバーが引き返してくるのが分かる。
てっきり支部長がトップで折り返してくるものと思ってたら、なんとD木谷さんがトップでやってきた。
(幹事長)「あらま。トップじゃないですか!」
(D木谷)「今日は調子が良いですね」
さらにピッグもすぐ後にピッタリついている。
これはD木谷さんやピッグが調子が良くてペースを上げたのではなくて、支部長が自滅し始めたものと思われる。
二人から少し遅れて支部長が折り返してきたが、かなりしんどそうだ。
さらに少し離れてのらちゃんも折り返してきた。
(幹事長)「支部長はバテてるから追いつけるよ」
(のら)「え?そうかな」
のらちゃんは打倒支部長をスローガンに頑張っているので、目が輝いてきた。
しばらく進んで私もようやく「愛のボラード」に着いたので、折り返していく。
のらちゃんには「頑張れ」と言ったが、もちろん私も支部長を追いかけなければならない。去年の酸欠マラソン以来、支部長には負け続けなので、久しぶりに勝っておきたい。
半島区間に入ってからのペースを必死で暗算すると、1km5分45秒ほどに大きく落ちている。去年と似たようなものだ。みんなに抜かれて一人旅になって緊張が感が無くなったので仕方ない。
しかし、支部長がバテ始めてるとなると、レースの様相が変わってくる。ここから頑張れば追いつけるかもしれない。
過去のレースでは、調子が良い時は、ここからの後半にペースアップしている。幸い、ここまでのスローペースのおかげで足は疲れていない。気合さえ入れば、ペースアップできそうだ。
前方を見ると、のらちゃんと支部長の間がみるみるうちに詰まっていく。のらちゃんが支部長を追い越すのは時間の問題だ。なんとかのらちゃんに着いていければ、私も支部長を逆転できる。
しばらく続いた平坦な区間が終わると、細かなアップダウンが繰り返される坂の区間に入る。
調子が良いときと悪い時の差は、この辺りからはっきりと現れてくる。調子が悪い惨敗パターンのときは、この辺りからみるみるうちに奈落のようにペースが落ちていくが、調子が良い快走パターンのときは、逆にペースを上げることができる。
曲がりくねった道になるので、前方の二人の姿が見えなくなる。そうなると、ついつい緊張感が緩んでしまう。なんとか二人に追いつこうと気合を入れるが、姿が見えてないと、ついつい意識が甘くなってしまう。
さっきのペースダウンぶりからすると、そろそろ支部長の姿が見えてもいいと思うんだけど、なかなか見えない。もちろん、のらちゃんの姿も見えない。
こうなると展開としては厳しい。他のメンバーの背中が見えていると頑張りも持続するが、それが見えなくなってしまうと練習で独りで走っているのと同じになる。
「もしかしたら去年の酸欠マラソン以来久しぶりに支部長に勝てるかもしれない」、て言うか、「この展開で勝てなければ、もうこの先、勝てる可能性が無いかもしれない」という悲壮感を持って、かろうじて緊張感の持続を図る。
なんとか頑張って走って行くと、遂に前方にのらちゃんと支部長の後姿が見えた。さっきの勢いからすると、とっくに逆転していると思ってたけど、相変わらず支部長の後にのらちゃんが付いている。
すると、なんと突然、のらちゃんが上り坂で歩き始めた。なんと、のらちゃんもバテているようだ。
すると、なんと、その前の支部長も歩き始めた。二人ともバテバテなのだ。歩き合戦だ。
こんなラッキーな展開は予想してなかった。このチャンスを逃してはなるまい。一気に二人まとめて追い抜かなければならない。
ただ、去年もこの辺りの上り坂で歩き始めた支部長の後姿を捉えて、一気に追い付こうとペースアップしたんだけど、あと少しってところで上り坂が終わってしまい、支部長が再び走り始め、結局、追いつけなかった。
普通のランナーは、一度、歩いてしまったらペースはなかなか戻らないから、走りを再開してもすぐに追いつけるんだけど、支部長は走りを再開すると、すぐに元の速いペースに戻る。なので、歩いている時にしか追い抜けないのだ。
て事で、決して楽観はできない、二人の後姿は着実に大きくなってきた。
ところが、半島区間の終盤にある大きな坂に入っても、なかなか追いつけない。そこは上り坂が長いから、二人ともすぐに歩き始めて、あっさりと追いつけるだろうと思ってたのに、二人とも歩かずに頑張っている。
二人とも、もし単独で走っていれば、すぐにでも歩きそうな雰囲気だけど、二人はお互いに意識して競り合っているようで、なかなか歩こうとはしない。二人とも根性の張り合いをしている。
そうは言っても、二人ともペースは落ちているようで、徐々に近づいてきて、ようやくのらちゃんに追いついた。
(幹事長)「あと少しやで」
(のら)「うん」
そして、そのまま追い抜くと、一気に支部長にも追いついた。
(幹事長)「今日は調子悪そうやな」
(支部長)「もうヘロヘロや」
ここで勝負あったと見て、一気に加速する。ここでスパートしたら、二人はもう到底ついてこられないだろう。
足はまだまだ疲れが無く、力が残っているようで、足が前に出て気持ちよく走れる。
少し走ると半島の区間が終わる分岐までやってきた。
第2折り返し点からのペースは1km5分40秒ほどだ。分岐から第2折り返し点までのペースとほとんど同じだが、少しだけペースアップできている。大きくペースダウンした去年よりだいぶマシだ。
タイムは決して良くはないが、後半にペースアップする快走パターンに近い。
半島区間が終わると、いきなり最後の大きな坂になる。昔は、ことごとく歩いていた坂だ。私だけでなく、他のメンバーも大半は歩いていた。
でも、最近は支部長を含め、あまり歩かずに乗り切っている。気持ちの持ちようなんだけど、厳しい厳しいと思っていると、つい歩いてしまうが、所詮は大したことないと思っていると、割にあっさりと上り終えてしまう。
もちろん、今日は二人を追い抜いた直後で、再逆転を許すわけにはいかないので、必死で走り続ける。すると、割とあっさりと上り坂は終わってしまった。
ここからはしばらく下り坂が続くので、力いっぱい足を広げて駆け下りる。
会場が近づいてくると、再びゾウさん親子が声援を送ってくれていたので、子供ちゃんとグータッチした。ちょっと疲れが出始めた頃だったので、すごく元気づけられた。
しばらく通り過ぎてから、後を確認すると、ん?緑色か黄色っぽいTシャツがちらりと見える。緑色なら支部長、黄色ならのらちゃんだ。終盤のレース展開を考えると、のらちゃんの可能性が高い。彼女はしぶといから、有り得る。
でも、どちらかと言うと緑色っぽい気がした。すると支部長ってことになる。ほんまかいな!まるでゾンビか不死鳥だ。もう有り得ないぞ。
再び後ろを見て確認したいところだが、そんな事をしてたらスピードが鈍ってしまう。もう後は振り向かずに必死で走らなければならない。
ここで負けたら、もう二度と支部長には勝てそうにないので、そこからは必死だった。最後の直線が長く長く感じられる。
最後のコーナーを曲がりながらチラッと後ろを確認したら、誰もついてこない。やった!なんと逃げ切ったか。
〜 ゴール 〜
最後の直線区間も気を抜かず、最後まで頑張って走ってゴールすると、ゾウさん親子とライオン4世が待っていてくれた。
(ゾウ)「お疲れさま」
(幹事長)「後の二人は?」
(ゾウ)「だいぶ離れてましたよ」
(幹事長)「え?」
じゃあ一体、私は何を見たんだろう?
って不思議に思ってたら、緑色のTシャツを着た兄ちゃんがブラブラしている。なんと紛らわしい!
4人連れの兄ちゃん達で、みんなバラバラのウェアを着ているが、なんとなくランニングしそうな雰囲気だ。話をしてみると、なんと、彼らも自主開催レースで走りに来ていたのだ。
そのうちの1人が着ている緑色のTシャツには、大きく「勝手に小豆島オリーブマラソン」なんて書いてある。素晴らしい!素晴らし過ぎる!そこまでやってる事に感心した。
しばらく待ってると、まずはのらちゃんがゴールした。
(幹事長)「最後は支部長に勝ったんやね」
(のら)「ぜいぜい」
(幹事長)「どこで追い越したん?」
(のら)「ぜいぜいぜい」
のらちゃんは完璧にバテているが、あの後、二人は何度も抜きつ抜かれつの接戦を繰り広げ、最後の最後でのらちゃんが抜き返したら、支部長は力尽きて歩き始めたんだそうだ。
しばらくすると、支部長がフラフラとゴールしてきた。
(支部長)「もうヘロヘロや」
(幹事長)「水分補給が足りなかったんじゃない?」
(支部長)「水は飲んだんだけどなあ」
(幹事長)「ただの水では駄目なんじゃないの?」
やはり支部長にはカルピスウォーターが必須だったのではなかろうか。
(支部長)「200m余分に走ったのが敗因やったかな」
(幹事長)「精神的ダメージは大きいわな」
支部長は第一折り返し点を100mほど通り過ぎて引き返してきたので、往復で200m余分に走った。距離は大したことないが、せっかくトップで走っていたのに、それが無駄になってしまい、精神的ダメージは大きかっただろう。
トップ争いは、ピッグが猛追したものの追いつけず、D木谷さんが逃げ切ったそうだ。
私のタイムは1時間56分台で、1km5分半ペースはだった。普通のマラソン大会なら、かなり悪いペースだが、2時間も切れなかった去年よりは8分くらい速かった。
それに、かつてはオリーブマラソンでは2時間を切るのは不可能だと思っていたくらいだから、長い歴史の中では、マシな方だ。後半、ペースが落ちなかったのも嬉しい。
そもそも、今日は正式な大会ではないから、そんなに気合は入っていないし、給水所が無いから自分でスポーツドリンクをリュックに背負って走っているし、ゆったりした雰囲気の中でのタイムだから、それほど悪くはない。
(幹事長)「支部長やって去年よりは速いんと違うか?」
(支部長)「たぶん、そんな気がする」
去年は最後まで私たちは競り合ったが、それでもタイムは大惨敗レベルだった。今年は支部長は最後には力尽きたが、それでも去年よりは速かった。今年はペースがだいぶ速かったのだろう。
〜 帰りの船 〜
いつもならゴールすると冷たいソーメンを頂ける。お弁当の配布もあるが、疲れた体はお弁当は受け付けない。でも、冷たいソーメンは疲れて火照った体に心地よく入っていく。
しかし、もちろん、今日はそんなものは無い。ソーメンどころか、この近辺には何も無い。以前、自転車で小豆島を一周した時も、ちょうどこの辺りで昼食をとろうとしたんだけど、食べられる所が全く無くて、結局、草壁港まで行ってようやくありついた。
土産物店はあるが、去年と同様に、商品を並べた棚にはシートが被せられ、開店休業状態だ。
なので、空腹を我慢して、取りあえず帰りの船を待つ。帰りは11:20坂手港発なので、1時間以上待たねばならない。
ただ、木陰にいると涼しい風が吹き抜けていき、とても気持ち良い。一年で最も気持ちの良い季節だ。
しかし、待てども待てども船の姿が見えない。まさか欠航したんじゃないだろうなあって不安になりかけた頃、ようやく遅れてフェリーが到着した。
帰りの船も朝と同じくらいガラガラだった。朝と同じく、畳の雑魚寝スペースに寝転がった。
ゾウさんジュニアは元気まんまんで、雑魚寝スペースを走り続けている。
(幹事長)「エネルギーが有り余ってるなあ」
(ゾウ)「だいぶ歩いたんですけどねえ」
小さな子供が、あの大きな坂を越えて行ったり来たりしたんだから、だいぶ疲れたと思うんだけど、ものすごく元気が有り余っている。
それに対して、支部長は早々と熟睡している。かなり疲れたようだ。
今日はオリーブマラソンの、しかも自主開催レースとしては、まあまあのタイムだった。それに去年8月の酸欠マラソン以来、久しぶりに支部長に勝てたのが嬉しい。
支部長が自滅気味だった事もあるが、去年よりだいぶタイムが良かったので、それが嬉しい。
(ピッグ)「私は幹事長に勝ち続けてますけどね」
(幹事長)「え?」
そうだった!支部長に勝った事に喜ぶあまり、すっかり忘れていたが、ピッグには11月の庵治マラソン以来、D木谷さんには9月の脱藩マラソン以来、負け続けている。
でも、支部長に久しぶりに勝ったから、まあいいや。
さて、コロナウイルスのバカ騒ぎは当面、終わりそうもなく、マラソン大会の中止がいつまでも続きそうなので、次は6月の北山林道駆け足大会を自主開催するぞ。
さらに、その次は7月末の汗見川マラソンもある。
楽しい高知の山岳マラソンが続くぞ!
〜おしまい〜
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